今日のワンパン暴徒
ニルヴェイズは晴れ。徐々に初夏の熱を帯び始めて、あらゆるビートはより濃厚に響き渡る。
合意さえあれば、端末を調べれば互いの位置だって分かる。なので、CSとC'は訓練が休日の時にブラッドと一緒におでかけしてみることにした。
ニルヴェイズのアーケードの向こうには大きなショッピングモールがある。二人は、いわゆる土地勘を付ける学習中だった。
「今日はちょっと遠くまで行っちゃうよ!」
CoLやBROがある行政区、スーパーや屋台などがあるアーケード、そしてその先にド派手な拍動を鳴らすショッピングモールがある。今日の任務は、今まで行かなかったところの新規開拓だ。
CSは黄金の液体ケーブルちゃんの水筒と腕輪、C'はヘッドセットと拍動銃。もちろん、有事の際の拍動記録用のバッヂもつけている。同じバッヂを付けた青年も、手を振って集合地点へやってくる。
「やあ、どうも。ごきげんよう。休日に支配欲が強いだろう指揮者を呼ぶなんて、よほど友達がいないとみえ――」
「やっほー! ブラッド! あそぼ!」
「俺に友達はいない。今日はよろしく」
「開き直るのはよくないね!? そっかぁ、遊ぼうかァ!」
CSとC'はニルヴェイズの文明を見習い、ブラッドの謎の初手発言をリアクションによるグーとパーでブチ折るストロング・フレンドリー・スタイルに変えた。そうすると彼は構えを解いて、ただちに素に戻ってくれる。
「まったく、ぼくは防御姿勢を取っているのに、きみたちは物覚えが良すぎて困るね! これ、商店街リストね!」
ぷんぷん!:怒ってるときの拍動。ぷんすことか派生がいくつかあって、頭から定期的に蒸気が出るエフェクトが発生する。
ブラッドは呆れた顔で腰に手を当て、近場の店についての情報を出してくれた。が、二人がそれを確認する前に、ニルヴェイズはいつものお約束を提供してくれる。
「花が咲いてるよ!! 花が咲いてるよ!!」
そう、様子のおかしい暴漢だ。
20メートル彼方のショップから、くすんだマイクでわめき出し、突っ込んでくる。なんなら背中にカゴを背負っていて、花びらをまき散らしている。
ショップに入ってたけど時間以外何も盗んでなさそうで、ただただ単に三人へ深い喜びをお伝えしてくる。
「はなっ、はっ、ふらっ、花! 咲いた! 樹も咲いたぅぅ! はひっ、キャワワ! お花ちゃん!!」
(――っ、な、なんだ……!? 妙な拍動だ。しあわせが、混ざっている?)
マイクで増強された拍動が、びりびりっとC'の身体に反響した。C'の肉体はよく響くがゆえに、暴漢の拍動の異常を訴えた。本人のこやかましい小太鼓の拍動と、何か違うものが混じり合って、異様な響きが残鳴機構の感覚を撫でる。
「対処しよう」
彼はそこで踏みとどまる。ヘッドセットに自分を接続して、すぐに迎撃の姿勢を取る。
だいたいこの手のハイになってしまった存在は会話が通じず、初手のワンパンによって決まるとニルヴェイズでは相場が決まっている。
飛びかかられたのはブラッドだ。彼は顔をしかめて、右足のかかとを鳴らした。
「あー、もう! ちゃんと持ってきて正解だった、ねっ――」
ブラッドの足下がかすかに光って浮きあがったかと思うと、彼は滑るように横へスライドした。
ゆるやかに回転してバランスを取りながら両手を交差させ、液体ケーブルを右耳と左耳後ろの接続端子にくっついたワイヤレス端末に触れさせる。そして、ベルトのホルダーから拍動装置を引っ張り出す。
「《拍動機動楽譜》、展開!」
右手が握り締めたのは細身のタクトだ。左手が持っているのは書物のような四角い金属片だったが、手放した瞬間に彼の側に寄り添って、青緑に光るデジタルな窓を周囲に展開する。彼の周囲の拍動が一瞬震えて、拍動装置と接続される。
「拍動は『打てる』かい? ぼくは火力サポート型なんだ!」
「おっけー!」「了解」
C'はほぼ反射的に、ブラッドに飛びかかった暴漢に向けて拍動銃を抜いた。CSも腕輪を付けた手を向けてコアを震わせる。
「Dan-danの……、ずっッどん!!」
「1、2、の……『Freeze』!」
訓練通り、二人はせーので拍動を打ち出す。外へ向けた硬直のrhymeと、腕輪で指向性を持ったしあわせの衝撃が一斉に飛び出す。
そして、ブラッドはそれを観測して、タクトを振り上げ、ほぼ完璧に補助を合わせた。
「《拍動収束》……!」
二人の拍動が通り抜けるところに、楽譜のホログラムがぱっと現れる。それを通った瞬間、レンズで集めた太陽光のように収束して、暴漢の横っ面と腹部を強打する。
青と白と青緑の光が弾け、小気味よいブラスバンドの音色が鳴り響き、ブラッドが声を出す。
「――《Hit》!!」
ダンッ!:いい感じのオーケストラヒットの響き。完全に決まった時のやつだ。相手の拍動を押し切って、しっかり入ったクリティカル音はきっとゲームならクソデカダメージ表記もついてて気持ちが良い。
「あびィ!! ふごっ……お……」
哀れにも暴漢は顔面にしあわせを受け、腹にフリーズを受けて恍惚と苦悶が絡まった表情のまま停止した。
三人は止まった暴漢を捨て置き、C'は冷たく「もしもし、警察ですか」と即通報した。
どのみち、しあわせと硬直をまともに受けて当座動かないのだし、いちいち構っていると日が暮れるためだ。
ほどなくして、今日も迅速で勤勉なBROの皆様がやってきて、本日の暴漢は片付けられた。CSは彼らの敬礼の真似をしてから手を振って見送り、肩を落とす。
「もう! ゆだんもすきもないよね!」
「治安はクソ、ごほん! 良くないからね……サポートする者も機動力が要求される時代さ」
ばっちいニルヴェイズことばを使ってしまったブラッドを二人がまじまじ見てみれば、そこに彼に寄り添う指揮台と握られたタクトがあった。
あとはアイススケートのエッジめいた飾りがついた収納式の移動装置。それが、彼の武装らしかった。




