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おまえたちがゆく道

「C自身も認識はできていなかったらしい。好む服装は、あったようだ」


「いま、しーぷらいむの着てる服が、シーの好きな服?」


「これは私服だと記録にある。輪郭がはっきりするのが落ち着く、ようだ。俺も、この服は……『すき』、だ。たぶん」


 すき。その言葉がC'の中で、優しい熱になって広がって、彼の顔を少し和らげた。その「ふわっ」という柔らかい拍動がCSにも届いて、にこにこの笑顔にさせる。


「C'のすき、聞いちゃった。ありがと、でぃー。リハビリ施設とかで入りにくかったらどうしようって思ってたぁ」


「性別わかんねー奴はそこそこいるから、心配しなくていい。気楽に選びな」


 ディーに見守られながら、二人は何枚かのパンフレットを見比べた。子どものための安全な拍動学習所、拍動汚染で失われた感覚を取り戻すリハビリテーション施設、自我の最期を看取る終末ケア。

 それぞれに、丁寧に眺めるC'経由ではそれぞれ、こんな情報に感じられた。


「がっこーは……わたしたちの行くところじゃないよね」


「おそらくそうだ。きみは小さくなったが、学生の類いではない」


 二人で顔も見合わせてみる。

 自我が柔らかい子どもは拍動学習に飲まれないよう守られようとしている。拍動汚染は肉体も精神も、そこに宿る感覚も破壊する。そしてそれは、そのまま自我の終わりに直結するケースもある。


 が、自分たちが行く場所ではないのは分かった。


「……」


 C'はもう一度、パンフレットを眺めた。だけど、数あるものを見比べても、C'はぴんと来なかった。CSも見比べながら眉を寄せて、C'の方を見て促してからスケジュール表に手を伸ばそうとしていたディーの方へ視線を戻した。


 二人は目を合わせ、せーのでディーを見た。二人には、共通の違和感があった。


「でぃー! リハビリ施設なんだけど~」


「ん? 決まったか?」


「もう一カ所あるよね?」「もう一カ所あるだろう?」


 ディーは瞬きしてペンの動きを止めた。ぴったりと息が合った二人に、いつもの気の抜けた感情の読み切れない笑みを見せて、肩をすくめる。


「ここは気に入らなかったか?」


「なんかね! ちがう! あのね、足りない! わたし、一個ね、ないって思う! でぃー、一個隠してるよね?」


「んん~、なんのことかな……C'、お前の見解は?」


「うぅ~っ! ことば! ことばもっといっぱいほしい~っ!」


 CSがじたばたしながら違和感を言葉にしようとしてできない隣で、名前を呼ばれて視線を向けられ、C'は自分の内側をうっすらした感覚で辿っていた。

 うつむきそうになった顔が、自然と上がる。その目はCと同じ空の色。今はちゃんと晴れている。


「確かにCの記録は、このパンフレットの中に一カ所分、情報が不足していると判断した。その隠された場所を、俺は……おそらく、情報ではなく体感として知りたいと思って、記録の入力を遮断した」


「つまり?」


「実際に行きたいと、言った」


 数秒だけディーは黙って、そのうち天井を見上げた。


「ったく……俺は危ない目に遭わせたくないって思ってんのに、隠したってお前等は見抜いちまうんだよな~。へへ、そっか。丁度、今日の仕事も終わったとこだ。行くか」


 どこか嬉しそうなディーは観念して立ち上がった。エンジニアコートの肩の位置を軽く直して、そのままポケットに手を突っ込んで玄関に向けて歩き始める。

 CSは慌てて帽子を被って鞄を掛け、C'も護身用の銃と質素な鞄を肩から提げる。


「どこいくの? でぃー!」


「ん? ちょっとイイとこ」


 ディーのことは拍動を感じられるはずのCSもC'も読み取れない。ただ、その時の彼はちょっとだけ、悪戯を思いついたようなへらっとした笑みを見せて、エンジニアコートを翻していた。



【拍動銃:C'の拍動装置。自分の拍を乗せて撃つと相手にその拍動を押しつけられる。おしまいライフを送る今は暴れたらヤバそうなので『Freezeうごくな』ぐらいしか許可されてない】


《おまけ:Cさんの読みたい時に読めばいい系の世界設定TIPS》


以下が、ニルヴェイズにおいて公的に定められている拍動汚染の基準だ。

現在、CSとC'は平時で【レベル4】、発作的に【レベル6】まで悪化する状態にある。これは日常生活に戻るためにリハビリが必須となる段階だ。



~自我フヤでも分かる拍動汚染レベル~


0:【通常共鳴】周囲の拍動を感じ取る やや酔いもまだこの辺 日常


1:【拍動抵抗低下】相手にノせられてる ちょっと気持ちいい

2:【快楽負荷】脳内報酬系が踊り出す 陶酔がひどくなってくる

3:【思考力低下】判断や発言力があっぱらぱーになってくる

4:【行動制限】自分の意思で動けなくなってくる

5:【自発行動不可】自分じゃもう動けない 一人だったら大ピンチ

6:【反復学習発生】いわゆる洗脳開始 気持ちいいと感じる行動・思考を繰り返す

7:【拍動喪失】自分の拍を見失う 自我溶解のカウントダウンが出るレベル


X:【自我溶解】たすからない(軽微な認識の災害を残して『いなくなる』)


2:軽度/4:中度/6:重度 ――■■■&■■■基準


 さて、ディーの隠し事は失敗に終わったらしい。と、なれば、彼らが行く先は――それはやめておこう。出かけてみれば分かることだ。


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