30 私に戦って死にたい、みたいな意思はないので……。
アサを西階段の屋上前にいる見張りに見えないようにして目の前まで行かせ、視覚共有(超高度技術)をし、どんな奴か確認する。
あ、幻覚で作ったこの子に名前を付けてあげました。
晃さんと辻村さんが合体した子なので頭文字をとってアサです。
……見えてないからって変顔しないで~!
「……!」
うわ、コッワ。
視線合うとか聞いてない。
相手方も強いようで何かいる気配を感じたのかもしれない。
日焼けなのか地肌なのか色黒で右目に傷の入った白髪のご老人とバッチリ目が合った。
ほら、十分観察できたから戻っておいで~……。
戻ってきた時、アサは半泣きだった。
怖いね~頑張ろ~ね~って顔でアサの頭をわしゃわしゃする。
拳銃は持ってなさそうだった。
だけど、下の見回りと比べ物にならないほど筋肉質。
ここでアサを使わずに屋上の様子を見させに行った方がいいかもしれないな。
怖いかもだけど、あの人たちを越えて屋上の方見てきてくれる?
そうお願いすると右手で敬礼をし、ルンルンで屋上に向かう。
嘘泣きだったのかな~?
横を通り過ぎようとしたとき「Hey! Hold it right there!」(おい待て!)という野太い声が聞こえた。
さっきの色黒の方が声を出したようだ。
一瞬アサはビクッと反応して固まったけど、自分の姿は見えていないと思いだしたのか進みだす。
「You. Yeah, you.」(お前のことだよ)
またまぐれでもなく、振り返ってアサと目が合った。
『へぇ~気づくなんてすごいね』
ん? アサの声が聞こえてきたんですけど?
いや、聞こえてはいない。脳内再生された。
喋れるようにはしてないから聞こえるはずがないんだけど。
ああ、はは。知識がなさすぎる。
幻術は本当に聞く相手いないし。
いや、いないわけじゃないんだけど社長に聞くのは嫌だし、飛奈さんは割と話通じないし。
碧は私と同じで分かんないと思うし!
どういう意味か分からず考えているうちにアサは勝手に二人に姿が見えるようにしてしまった。
そんなこと勝手に出来るんですね! 知りませんでした!
いつか専門の人に教えてほしいんだけど~。
難しいかなぁ……。
アサは右足を気づいた方に向けて放つが足を掴まれて投げ飛ばされてしまった。
ああ、実体はないけど私の想像力の問題で極度に物理法則を無視した動き(瞬間移動)とかは無理で、掴まれたと一瞬でも思うとそのまま動きが反映されちゃうんです。
仕方ない、私も出るか。
「Hi. How about a nice, friendly two-on-two?」
(こんにちは~。二対二で仲良くやりましょ?)
正直、アサがこの気づいた方に勝てるイメージはない。
でも、隣の弱そうな方ならアサでも行けるかもしれない。
なら結果的に私がこの強そうな奴の相手をすることになる。
「火災報知機は?」
『……建物は燃やさないでね~』
この辺にはないのね。
勝つために出し惜しみはしない。
だけど焦げ跡は絶対に残さない。
「――燐」
そう唱えると右手から青白い焱を出す。
「Was it years of experience that tipped you off to Aka being there?」
(アカがいるのを当てられたのは長年の勘かな?)
「Heh. In all my years, I've never fought a kid who could throw fire from their hands.」
(ハッ。長年やってきたが、手から火を出すガキと戦うのは初めてだよ)
「Yeah, I figured as much.」(でしょうね)
(本当は手だけじゃないんだけど、こんなとこで使ったら燃え移るし、アサがもっと早く消えそうだし)
焱を持った右手を握ると手が燃えているかのようになり、私は二人の元に走り出す。
右手を色黒の方に飛ばす途中で右手の焱を消した。
その代わり左手で睡眠薬を口に当てる。
改良はしたみたいけど、睡眠薬を吸っても起きてた熊以上のやつより体格もいい上、戦闘経験もかなりあるおじさんはこんな程度じゃ終わらない。
それ以前に一瞬だと呼吸止められて吸わないし。
階段を下りて距離を取ろうとしてきたので目の前で手をパアンと鳴らし、反射で目を閉じさせる。
あんまり意味はなかったかも。
その隙にアサに三角締めされている方を同じくハンカチタイプで眠らせる。
体格は私にすら劣っているし、新人のような若い人だったのですぐ眠った。
「Looks like it's two-on-one now…… but we're not here to pick a fight. So, see ya~☆」
(二対一……って言いたいとこだけど、私たちの目的、ここで戦うことじゃないから、もう行くね☆)
「What?」(は?)
最悪私、やられかねないし~ほかのみんなももう上にこれるみたいだし~。
ここにいる必要ないかなって!
そう言って私は後ろにある扉のノブに手をかけ、屋上に足を踏み入れる。
「Hey— wait, hold on!」(おいっ、ちょ、待て!)
そう言う色黒おじさんの声を後ろに私のもとに飛んできた玉をしゃがんで避ける。
避けたあと、その玉はおじさんにあたり、割れて範囲は小さいけれど睡眠薬入りの霧状のものが噴射される。
頭に当たると結構使える睡眠薬(玉形、範囲短縮版)
「ナイス、イイチくん!」
「ごめ~ん、先に出て来るとは思わなくて!」
東非常階段が隠れている機械室の上からイイチくんが飛ばしてくれたこの睡眠玉。
なんせ一人で倒さなくていいんですからね!
「よし、あそこに慶太アリ。……あ~アサ消えちゃったかな」
今度出してお礼言っておこうかな。
というか、思いっきり静かに保護を果たせていない……。
『ごめんね~意外と強かったから、その役は三浦くんに任せることにしたんだ』
報、連、相しっかりね~。
……私に相談してもウケイくんにとっては意味ないかもしれないけど。
私がみんなのもとに合流しようとしたとき、一瞬で髪を掴まれ、座らされ、銃口を頭に突き付けられた。
「ッ、ゆ……アル!」
真っ先にイイチくんが反応した。
反応できなかった。
さっきのおじさんより強いかも……。
「動くナ! 少しデモ動くごとにこいつニ穴をあける!」
「Y-You really don't have to go through all that trouble for me.」
(に、日本語がお上手なようで。生憎、気を使ってもらわなくても結構よ?)
「お前も喋るな!」
髪を持ち上げられた。
痛っ……くはないか。
いや、痛いけど、足はついているとはいえお尻が付いていない状況で髪の毛に体重がかかっているというのに思ったより痛くない。
少し考えて思った。
これ、ウィッグだったな~って。
ただ、今ウィッグを外して動いたって反撃されるかもしれない。
……この後が大変だけど、仕方ないか。
妖力切れギリギリまでアサを出す!
「Don't move.」(動くな)
出てきたアサは私の髪をとれたての大根のように掴んでいるやつの首にナイフを当てる。
喋れるようになってるけど。
「Where the hell did you come from?」(お前、どっから)
よし、気が逸れた!
私はしっかりかぶっているウィッグを外し拳銃を上に蹴っ飛ばす。
当たり前のように重力に逆らえないので落ちて来るが、それを私はキャッチし、銃口を向ける。
ああ、撃つ気はない――
そこで私は大きな立ち眩みが起きた。
「アルっ!」
イイチくんが来る前に倒れこみ、駆けつけたイイチくんが私の体を持ち上げ、下ろされた銃口を再び向けた。
『拳銃持ちは他に一人、アイカはそっちを抑えて!』
アイカちゃんが慶太さんがいる方のグループに走り出し、辻村さんの持っているやつかなぁ、その手錠をかけ、没収する。
弱すぎて何でその人がもたされてんのってぐらい謎なんだけど。
他に遠距離武器がなさそうだからか、辻村さんまで出てきて、私の方に来た。
「もしもの時は僕に引き金を引くぐらいはできるし、アルちゃんの安全のが優先じゃない? イイチくんはこの人を倒して」
コントロールをするのが難しくて喋れるようにしてしまったし、そろそろアサを消さないと私の意識がなくなる。
アサを消し、辻村さんに抱えられながら意識が飛ばないようにだけ注意する。
無理すんなって言ってんのに。
左手だけで座っている私を支えるとか、絶対痛いよ。
バカ。
翆「記念すべき三十話! アサちゃんかわい~ね~!」
小「座れ」
翆「あ~あ~あ~、最後の『バカ』とかこう言うの私結構好きなんですよ!」
小「大遅刻魔、座れ」
翆「嫌です、誰ですか? 大遅刻魔とは」
小「最初に『嫌です』と言っている時点で認めてんだ、檸檬の誕生日記念のおまけを一週間も遅れさせやがって」
翆「一週間じゃないもん、六日だもん!」
小「認めたな」
翆「あっ……」
最新話の後に「おふざけ編1」というものがあります。
本編とまったく関係ない上、かなりふざけているので、「暇すぎ、そうだスキップしよ~」ってときに読んでみてくださいな。
ちなみに「暇すぎ、そうだスキップしよ~」と思ってスキップし始めそうな知人がいます。




