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秘知ら陰譚-私が怪盗になって知ったことー  作者: 翠雨 ユイカ
心の靄とアクティブワンダーランドの霧
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28 冗ッ談じゃない!


圭理、および同一人物(K、ウケイなど)は男の子です。男の娘でもありません。男の子です。

「お姉さん行っちゃうの……?」


 楓芽くんを鉛口さんに預けて向かおうとしたとき、服のすそを掴まれてそう言われた。


「……ごめんね、お姉さんはお兄さんについて行かないと」


 しゃがんで視線を楓芽くんに合わせる。

 正直、終わったらここに戻ってこないと思うんだよな……。


「お姉さん終わったらすぐ帰っちゃうんだ。お別れだね」

「……」

「大丈夫だよ。この世界はとっても広く見えてとっても狭いんだ。いつか自分の目で見てみてもいいかもしれない。またね、楓芽くん」


 どうしても不安そうな顔は取れない。

 それでも、私は立ち上がる。


「楓芽くんをおねがいします」


 鉛口さんに伝えてから私は部屋を後にする。


「アルちゃん、終わってから戻る気、ないでしょ」

「当たり前じゃないですか。顔を覚えられたくないですし、あの子とも関わりたくなかったです」


 楓芽くんはかなり(里緒奈)のことを信頼してくれていた。


 とても嬉しい。嬉しいよ。

 けど――存在しない有馬里緒奈()を探して神隠しにあったような感覚にはならないでほしい。


 出会いと別れは来るものだけど、存在しない……したものと出会い、真相を知らぬまま別れる。

 心のもやもやは取れないだろうなぁ。


「……じゃあ終わってから会いに行けばいいじゃん」

「遠慮します。ただ、何もないというのも不平等なので……彼が大きくなって秘密をしっかり守れるようになっている証拠があるなら、私立ち合いの元、話してもいいですよ」

「難易度高~」

「私が秘密を守れないと判断したら全力で止めますから」


 ただの口約束。


 でも、この人は守る。

 なんとなくだけど、そう思った。


「三浦さんたちとは合流できそうですか?」

「う~ん……できなくはないかな。でも、僕らで先行こうか」

了解(りょっす)パイセン!」


 屋上までエレベーターで行ってもいいんだけど、あれ密室だし、屋上に向かうにつれ、戦闘要員が増えて来るとか。

 その人達と屋上に着く前の階で鉢合わせたら終わり。


 映画とかで見るようなエレベーターの上ってあれ実は空いてないらしいんだよね。

 だから確実に敵がいない階までエレベーター、それ以降は階段を上ることになってます。


 十五階分、辻村さんは大丈夫なんでしょうか。


『……一旦止まれ』


 三階分上がったとき、先に気配はないのにKからストップが入った。


「何かいるの? それとも――」『後者だ』

「まあ、そうだよねぇ……」


 後ろを振り返ると汗を流しながら「何にもないよ?」と言わんばかりの顔をした辻村さんがいた。


「通信の先から『痛み耐えんなバカ』だそうですよ?」

『そんなこと言ってないが?』


 言いたい気持ちは山々でしょうに。


「ここって大きい声、大丈夫?」

『ある程度は大丈夫だが……』

「……こちらの言葉を翻訳したうえ、私の答えの変わった結果もあわせて言うと、

 大変だと思います。いつ死ぬかもしれないし、残業なんてしょっちゅうな職場。

 お金は入れなきゃ生きていけない。頼れる親もきょうだいもいない。

 だから働く――冗ッ談じゃない!

 カッコいいように、綺麗ごとを言ってますけど、

 ここは警察組織の前線に出て働く場所、相手が武器を持っていたら刺されて、撃たれて、死ぬ可能性だってありますよ?

 死んだらお子さんどうするんですか? せめて万全で戦える状況にしてください。

 上司が言うこと聞いてくれないならやめましょう。

 骨折して一ヶ月ちょい、働いていい時期ではない!

 ベビーシッターとか、家政婦とか、とにかくお金を払ってでも頼め!」


 無責任?

 そうですよ、私に関係ありませんもの。


 関係ない。

 関係ないけど、ここで止めなくて、もしこの人が死んだら、私はきっと一生後悔する。


「あいにくこのセリフ(言葉)も、結果は私のためです。伴侶を亡くしたことも、子どもを育てたこともありません。それでも、あなたの、あなたの考えは未経験の私でも理解はできる。でも、ちゃんと納得は出来なかった! 助けを()えよ! 休め!!」


 胸ぐらをつかむかの勢いで、辻村さんに私の本心をぶつけた。

 まぎれもない本心だ。


 言い終えたころには息がきれていた。


「……まさかそこまで怒られるとはね」


 少し呆れた顔ような眉をハの字にして言われた。


「分かったよ。君の心からの命令かな?」

「そうです」

「刑事を辞めるというのはあいにく……そうだな、一年ぐらい無理かな。でも……今なら大丈夫か。終わったら治るまで安静にしておくよ」


 本当なら回れ右をしてほしいところ。

 だけど、かなりの180°とは言わずともかなり(ひるがえ)してくれた。


「今すぐ、上司に連絡してください。本日一杯で怪我のため休職します、と」

「アルちゃんは僕のお母さんかな?」

「違いますけどお゙?」

『あ』


 はいKさん、急になんですか!?


『休日以外、骨折で休んだ次の日しか休んでいない。しかも有給で』

「はぁ?」


 もう間抜けな声しか出ません。

 っていうか、それなら辻村さんの上司も三浦さんも鉛口さんも骨折してること知らないんじゃ……?


「とんだ馬鹿ですね。大馬鹿者。けったクソ悪い……もういいです」

「今すぐ連絡っていうのは無理かな~」

「じゃあこの後の報告書書き終わったら家帰って寝てください。監視してますからね?」


 休憩も終わりということで歩き出す。


「ストーカーは見過ごせないなぁ~」

「ストーカーだけ(・・)見過ごせないんですか?」

「ジョーダン……見過ごすよ」


 何回も私たちの行動を見てストーカーの件だけちゃんと刑事ぶるなんて。


「時間が許す限り、ゆっくり行きましょう。ね?」


 辻村さんの右手を私の左手で掴み、駆け上がったりせず少しずつ階段を上って行った。


「ありがとうね~オネーチャン?」

「私はあなたの母姉(ぼし)ではありませんが!?」

「はぁ~い」


 なんかもう、手のかかる弟に見えてきました。


 屋上まで残り五階というところで「静かに」とKに言われた。

 立ち止まり、口の前に右手の人差し指を近づけ「シッ」と言う。


 視線を交わし、Kの指示を待つ。


『次から()が増える。警戒を高めろ』

「……」


(Kの指示が辻村さんに行かないのめんどいな~)


『予備のイヤホンマイクを渡せ』


 ほ~んとKさん、人の心読めてません?


 ウエストバッグから予備を取り出し、辻村さんの耳に突っ込む。


『辻村さん! 私、あんまり喋れないんだけど指示はしっかり聞いてね』

「よろしくね~(小声)」


 K、声高ッか!

 え、あ、あえ? こんな声出せるの!?


 Kは割と低めの声ではあるけど、出せちゃうんだ。

 ボイチェン(ボイスチェンジャー)使ってない、んね。


 うん、使ってない。


 顔には出てない、はず……。


 は~ッ、驚くなぁ~?

 本当はKは女の子だったんだよ~?

 (※男の子ですっ!)


『屋上の状況は分かりませんが、屋上とつながっている扉の前にでっかい見張りが二、次の階から同じような強そうな人が歩きながら監視しています』

「二人と合流は出来そうな感じ?」

『いいえ。先に、これからの動きを説明します。二人……いえ、里緒奈ちゃん一人に見回りの三名と南側にいる見張り一名、計四名を静かに引きつけ、静かに倒してもらうことが必要となってきます』


 やっぱそうなるよねぇ~。


 Kの指示をまとめると、

一・アルが見回りを引きつける。

二・そのうちに辻村がここ西階段から南階段に移動、のち屋上まで上がる。

三・イイチ、アイカ、三浦が東外階段から最上階まで上がる。

四・東側から屋上までは辻村の下ろした相手方から死角の東非常梯子を使って上がる。

五・アル、辻村以外が東非常梯子から屋上へ。アルは西階段から見張り二名を倒し屋上へ。

六・イイチチームが戦闘を繰り広げているうちに、アルが慶太を保護、のち西階段から逃げる、もしくは四人と合流する。

(敬称略)


『屋上の人数や武器の有無は分かっていないから、とにかく臨機応変にお願いします』

「一人かぁ~。分かった。……とにかく、パイセンは走らず、ゆっくり行ってください。前に出ること、戦闘をすることはしてはダメですからね?」

「分かったよ」

翆「皆の諸君! 六月最終日だぞ!」

小「梅雨が終わる……、ジメジメもヤだけど、焦げるのも嫌ぁ……」

翆「いつにも増して小雨が弱気……!」

小「だって、あの暑くて長くて秋を喰う夏が来るんだぞ!? ついでに言えば、今年も半分が終わるんだぞ!?」

翆「やだねぇ~わかるわぁ~。秋ももっと襲ってくる暑さに対して抗ってほしいよね」

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