26 ……僕のことをよくお分かりで
辻村さんが廊下の自販機から水を買って来てくれた。
そういえば水が飲みたくない子どもがいるって本当?
特に水道水が苦手で、味が無くてまずいとか。
楓芽くんが飲んでくれない子でも、自販機の水だから大丈夫だと思うけど。
「落ち着いた?」
私は楓芽くんの隣に座り、背中をさすりながら聞いてみる。
辻村さんは入り口近くの壁に寄り掛かってこっちを見ている。
こっくりと頷いてくれたので少しずつ何があったのか聞くことにする。
「どうして、あんなところにいたの?」
「かお、怖い人が、お兄ちゃん、抱えて、嫌がってて……嫌がること、ダメだよって言ったら別の人に……」
そこまで言うと、思い出してしまったのか涙が溢れそうになっている。
「教えてくれてありがとう」
私の方に引きよせ、頭を撫でる。
怖かっただろうな。
「パイセン。関係、ありそうですよね?」
「ね~」
どんな反応ですか。
そこでコンコン、と扉がノックされた。
失礼しますと言って入って来たのは鉛口さん。
「お母さまがあと三十分ほどで迎えに来られるそうです」
「三十分か~」
辻村さんは五秒ほど考えた後「よし、一緒に連れて行こうっ!」と言った。
私の表情は一周回って無です。
「……もう何を考えて――」「何言ってるんですか!?」
鉛口さんが私の声をかき消して反対する。
……確かに辻村さんの動きに私は関係ない。
ここから別行動をとっても構わない。
でも、この人が楓芽くんをどうするかわからない。
「理由を聞いても結局パイセンの勘でしょうし何も聞きませんよ」
「有田さんも反対してくださいよ!」
「反対したい気持ちも山々なんですが、結局この人意地でもやりますよ?」
「そうですけど……そうですけど!」
まあ、気持ちは分からなくない
「パイセンは三十分で終わらせる自信があるんでしょ?」
「そうなるね」
「責任は全部パイセンですから。三浦さんは関わらない方が身のためですよ?」
「……っ」
私としてはKから何もないからのるしかないんだよね~。
のっていいんだよね?
※Kは絶賛ナンパされ中です。
まあでも、あまり反応できないし、後で確認するか。
でも、大人になるとある、見て見ぬふりとか、やりたくなくてもやらなきゃいけない時、この業界でもあるんだね。
総合商社業界も、妖界も、上流社交界も、芸能界も。
どんな正義を振りかざしたって、この世界の流れに一人で逆らったところで津波に立ち向かうものだ。
そんなだから大人にはなりたくないなって思う。
私は夢のない世界に入りたいと思わないけど、誰でも数年生きたら来る。
「……正直、メチャメチャ嫌ですけど私は従う。それだけです」
「……」
私の意思を伝えると鉛口さんは出て行ってしまった。
「まあ、いい判断だと思うよ。香ちゃんもアルちゃんも」
警察組織であろうとこういうことが正しい。
そう思っているってことですね。
「……楓芽くん。お姉さんと一緒に来てくれる? ただ、危ないからお姉さんかこのおじさんからは離れないでね」
「大丈夫だよ。お兄さんもお姉さんも強いから」
ボソッと骨折者が何言ってんだか、と言った。
聞こえて無いフリしてるけど、聞こえてますよね?
っていうか、おじさん呼ばわりはやっぱ抵抗あるんだな。
叔父さんはいいのになんで?
「じゃあ、もう中にはいないでしょう。ってことで僕らも外に行きますかっ!」
辻村さんはそう言いながら楓芽くんのフードの裏にGPS付けてる。
何かあった時のために反対はしません。
ですが、なぜ常に持っているのかはあとで問いただしたいと思います。
とりあえずKに今起きたことを簡単に説明していると「じゃあ、先行くね~!」と、楓芽くんを連れていくと言った張本人は、元気に一人で部屋を出て行った。
「はあっ!? 置いて行かないでくださいよ!」
楓芽くんをおんぶして辻村さんを追いかける。
いや、辻村さんはおんぶしちゃいけないけど、手を引くとか、出来るじゃん!?
そもそも走るのも働いているのもダメだと思いますけどねっ!
あ~もうっ!
やっぱ別行動すればよかった!
今から後悔してももう遅い。
分かっていても後悔してしまうんですよ!
「も~遅いよっ!」
建物を出たあたりで辻村さんは待っていてくれた。
「くれた」という表現を使うのは不本意ですけどね!
「廊下は走らないでくださいって学校で習わなかったんですか?」
「……まあね? 学校では五分前行動を徹する? 優等生だったので?」
そんな焦ることはありませんでした、と。
「私は聞き逃さなかったですよ? 最初の沈黙は何だったんですか~?」
楓芽くんを下ろしながら聞いてみる。
「……僕の青春は楽しくなかったからね~。僕のこと、調べてないの?」
まあ、そこまで人の過去を探る必要もないか。
そう思いながら辻村さんが歩き出したので付いて行く。
「イイチくんとか、ウケイは調べてるんじゃないかな。その辺の情報は教えてもらっていません。人の情報なんて必要以上に入りませんよ」
ちなみにウケイとはKのこと。
名付けてあげました。
「貴方はなにか闇がありそうですから。シリアスな家庭環境は苦手です。相談するなら聞きますけど、あなたがわたしに相談することはないでしょう?」
「……僕のことをよくお分かりで」
「奥さまがいないことは聞きましたけど、うちの優秀な優秀な情報担当が調べた限り、事件性は何もない殉職。偽造されたとかではないそうです。ただのと言うのは失礼ですがただの殉職。そう言ってましたよ?」
物語ではこういう辻村さんタイプの人はパートナーとか親しい人の死に違和感を持って動くとかいうパターンだけど、本気でそういうことはない。
「お姉さん。じゅんしょくってなに?」
「う~ん」
主に警察官、消防官、自衛官、海上保安官などの公務員が職務中に事故や事件に巻き込まれて亡くなること、なんだけど……。
はっきりと伝えていいのだろうか。
両親や保護者の考え方や子育て方針にもよるから勝手に教えるのも難しい話なんだよなあ。
「……そのものによるかもしれないけど、昔は誇り、と言われたかもしれない。(公務員じゃないけど、)お姉さんはなりたくないし……パイセンは?」
「できれば避けたい、かな」
偏見だけど、辻村さん絶対一人っ子だし、辻村さんの奥さんは亡くなっている。
お父さんはどれだけかは知らないけど、クズだと言っていたし、辻村さんが亡くなったら息子さんは誰に預けられるんだろう。
辻村さんのおじいちゃんおばあちゃんとなればかなりお年も召しているだろうし、おじおば、いとこあたりになってくるのかなぁ。
「そうなんだ」
詳しくは伝えてないけど、納得してくれた。
「……ところで楓芽くん。足、痛めてたりする?」
「……」
楓芽くんは俯きながらも小さく頷いた。
「ごめんなさい」
「別に謝らなくていいの。無理に連れてきたのは辻村さんだしね」
「反論は出来ないね」
されても困ります。
「私がおんぶします。この間みたいに辻村さんを守ることはできないので、危険になったら、死んでも逃げてください」
「僕、死んでたら意味なくない?」
「それもそうですね」
「……ごめんなさい」
小さな声でまた、楓芽くん謝った。
「どうして謝るの?」
「でも、僕がよく足首捻るのは、体重と筋肉のバランスがあってないからだって……」
まあ、一度捻ると捻りやすくもなる、っていうのもあると思うけど。
楓芽くんはすこしふくよかな子だ。
「僕、皆より大きいから細いお姉さんがおんぶし続けて大丈夫?」
「私は大丈夫。こう見えてかなり鍛えてるよ」
それに、辻村さんはおんぶしたらせっかく治りかけたのに悪化するだろうし。
「それにしても、自分が嫌かな?」
「……うん」
「そっかぁ……。私もね、私が嫌い。なんでこんなことに……。あそこに生まれてきたんだろう。って思う」
あまり、辻村さんの前で自分語りはしたくないんだけど。
「あとで詳しく聞かせてもらおうかな?」
ほら、乗ってきた。
「そうなの? お姉さんはどうしてるの?」
辻村さんは無視します。
「う~ん、私の場合、今の私じゃ現状は変えられない。楽しむしかないんだよ。まあ、変えられるなら変えてる。無理しない程度に楓芽くんも頑張って」
しゃがみ込んで楓芽くんをもう一度おんぶする。
「……」
「あ、さっきの続きですけど、死んだらお子さんは私が預かりますよ?」
(ただし、五年後以上に限る)
「死ぬ気はないかな~。生きてでも逃げ切るよ」
「それはそれでおかしいと思いますけど」
参考:ウィキペディア 殉職
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AE%89%E8%81%B7
翆「関西弁お兄さんキャラ(+ドジ)っていいですよね~」
小「すげえキラキラオーラ出して出直してきたか」
翆「ええ、少し路線を変えて(詳しくは前回の後書きをッ!)うちにも関西出身お兄さん枠は三人いるんですよ。名前だけ出てきて登場回数は少ない昴晃兄弟と……」
小「碧、だな。檸檬の父方の従兄の。それに三人とも普段関西弁じゃないし。……いや、認めんぞ?」
翆「ルビを振ってください。碧がアオになりますでしょ?」
小「いや、理解できん奴、多いだろ」
翆「そっか、直接的には言ってないか。じゃあ~二十話読んで考察して」




