18 A-302
あちこちで大きな爆発音と共に火柱が上がる。
あちこちで敵の歓声と味方の悲鳴が上がる。
戦況はかなり不利な状況だ。
いや、この戦い自体は此方の勝ちに傾いては居る。だがしかしこの町での戦いは、この町はもうすぐ落ちるだろう。
ハア、ハア…… 俺は別の場所での依頼を終えてひたすら走りこの町へとやって来た。
俺が生まれ育った、家族が住まうこの町に。
「くそっ!! ほぼ全滅じゃないか。俺の家は?! --チッ!!」
突然瓦礫の陰から姿を現した敵兵に下段から剣を振るう。冷静さは忘れていない、これでもAランク冒険者だ。
敵兵の腕鎧の隙間を狙い切り落とす。パパっと血しぶきが飛び悶絶する敵を蹴飛ばし先を急いだ。さすがに追っては来れまいと思っていると後ろから断末魔が聞こえる。どうやら共に来たラペルが止めを刺したようだ。
「ラペル、今は先を急ぎたい!!」
「おう。必要なら俺が止めを刺していくから気にするな」
「すまん、頼む」
ここダマ共和国は昔から内戦と再生を繰り返して来た国で、前回の内乱は五十年前だったと聞いた事がある。
再生の度に良い国には成ってるらしいのだが、そんな前のことは俺には分からない。
だがたしかに今は、大きな領地を持つ十人の領主と、タイジュ・ミキフトイ大統領の計十一人が国の方針を決めているこの貴族共和国は平和だった。
もちろん貧富の差等の問題はあるがそれはどこの国でも同じだと思うし、それを踏まえてもそこそこ安心に暮らせる国だったと思う。
三ヶ月前、十人の領主の内四人が反旗を翻した。
その先頭に立つのは帝国側との国境に位置する土地を持つラケット領主だった。
残りの三人の領主も首都から見て帝国側に領地を持つ者であり、これは帝国が絡んでいるだろうと思う者は多かった。もちろん俺もそう思った。
そもそもクーデターの意味など無いくらいこの国は安定していたのだから。
そんな中、政治において手腕を見せると噂のミキフト大統領は、クーデターに対してもその手腕で直ぐに防衛と反撃の布陣を固め--そして戦争が始まった。
それから国軍は僅か三ヶ月の期間で事態をほぼ収拾させ、無傷とまでは行かないが国が弱るほど疲弊する事も無く最後の戦いを迎えたのは流石と言えるだろ。
だがその最後の戦いの勃発は、他所の国へと護衛依頼で移動し、しばらく其処で活動していた俺にとって早すぎた。
この国の、いやこの世界の情報の伝達は遅い。他国の話など商人や旅人からの人伝頼みなのだから。
俺が暫しの拠点としていたアフラマズダ王国でクーデターの話を聞いたのは一ヶ月前にダマ共和国から逃げ帰ってきた商人からだ。
例年通り共和国への商売へと旅立ったが、国境を越え首都へと近付く程に雰囲気が怪しくなり内乱が起きていることに気が付いたらしい。そこに物資を持ったものが現れれば追剥や盗賊などに目を付けられるのは当然だったろう。
ナンヤカンヤと大変な目にあったが(情報は金)とばかりに商人魂に火をつけた彼は何とか戻ってきた。
彼から内乱は最終局面へと移行してるとの話を聞いた俺は直ぐに支度をし動いたが、其処から戻るのにどんなに早くても一ヶ月は掛かってしまう、もう間に合わないかもしれない。
ラケット領と首都の間には当然町や村がある、そしてその町の一つが俺の生まれ故郷であり、両親や兄弟が住まう場所なのだ。
きっと避難はしてくれていると、それだけを希望に俺は騎乗した馬を走らせた。
--やっとの思いで到着を果たした俺の目に映ったのは、ラケット領側の兵士により攻撃されている町だった。最後の戦いに備えて自陣を広げるかごとく、兵士達は町を襲い制圧しようとしていた。
俺は駐屯していた国軍側の兵士達に加わり敵に対抗しつつ実家へと足を進めた。
「邪魔をするな!!!」
ザンッと剣を振るい、一人また一人と敵を屠っていく。
「そう焦るな、確実に行こう」
ラペルは剣に付いた血を払いながら言う。此処まで付いて来てくれた彼には頭が上がらないな、俺一人じゃ流石にここまでスムーズに足を運ぶ事は出来なかっただろう。
私事だからと組んでいた仲間達に脱退を申し出て故郷に戻る事にしたのに『付いて行こうかな』の一言で本当に付いて来た。今みたいに焦る俺をタイミング良く落ち着かせてくれるので大いに助かっている。
「しかし何故クーデターなんて --フンッ!!」
「おそらくこの国を疲弊させたかったんじゃないか? --っと」
更にまた一人上段から切り伏せ、ラペルも相手の首筋へと剣を走らせる。
「疲弊?」
「帝国がアフラマズダ国にちょっかい出すのに邪魔されないようにとか?」
「まさか戦争する気か!!」
「さあな、ただの推測だ。帝国の考えてる事なんざ分からねぇよ」
もう俺達の中では帝国が黒幕だと勝手に決めつけているがおそらく間違っていないだろう。
そうやってもう何人倒したのかも分からなくなった頃俺の家があった場所に辿り着いた。そう、あった場所だ。
「俺の家が…… みんなは! 俺の家族は?!」
「おいっ、まてっ!!」
そこは炎に纏わり付かれ、ギリギリ形を保ちつつも炭へと変わりつつある俺の家だった。
思わず炎の中に飛び込もうとする俺だったが、ラペルが体を羽交い絞めにしてそれを止める。
「あれを見ろ」
止めるラペルに抵抗したが、その彼がある一点を指さしていた。それは味方の兵士、倒れているがまだ息は有るようだ。
俺は一旦落ち着きラペルと共に駆け寄った。
「おい、大丈夫か?」
「あ…… うう…… 味方……か?」
「そうだ、ここの住人はどうなった? 何か知らないか?」
「分からない…… だが何人かは帝国に連れて…… ここはもうダメだ…… 撤退を……」
そう言った後兵士は気を失った。
「どうする?」
ラペルが兵士を担ぎながら尋ねてきて、兵士の言うように引き際なのかもしれないと俺は思う。
家族の事が心配なのは変わらないが、ここまでの道中で一般人に会う事はなかった。
皆焼け死んだのかそれとも兵士が言った帝国へ……
「俺は帝国へ行こうと思う」
「そうか、じゃあ俺はこの兵士を運んだら、一度仲間の所へ報告しに戻るよ」
話が決まれば行動は早いのが冒険者だ。コツンとお互いの拳を当てると、ラペルは味方陣営へ兵士を運ぶ為に歩き出した。
「ここまで有難うな、ラペル」
「お前も気を付けて行けよ。間違っても死ぬんじゃねぇぞ、ベン」
唯一俺を愛称で呼ぶ相棒を見送り、もう崩れ落ちるであろう実家を今一度見詰めた。
あと少しで家としての原型は無くなるだろう、そしてそれは家族が無事である可能性を示しているようにも思えた。
「それでも……」
僅かな可能性を求めて、俺はその場を後にした。




