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17 絵美の心

 

 近付かれた気配はなかった事に素直に驚いた。だが冒険者は舐められる訳にはいかない。

 俺は肩に置かれた手を払いのけキッと睨みをきかせた。


「あんたは誰だ? こいつの仲間か?」


「いや、全くの他人だ」

 

 この男、強いな。

 男の身長は俺より高く、皮鎧にマントを羽織った身なりは冒険者らしくない程にしっかりしている。所々に浅くはない傷が日焼けして浅黒くなった肌を装飾し、それが彼の冒険者人生を物語っていた。


「関係無いのなら邪魔しないでもらえるか」


「邪魔というか、そんな奴相手にしてもお前さんの格が落ちると思ってな。それに、早いとこお嬢さんをどうにかした方が良いいと思ってな」


 そう言ってクイッと親指を指した先には、未だに震えて固まったままの絵美の姿が。

 そうだった、今はそれどころじゃない。


「確かにこいつを半殺ししても何の得も無いな、ちょっと頭に血が上ってたようだ。あんた名前は? 俺は比呂だ」


「アーベンだ」


「アーベン、止めてくれて助かったよ。礼を言う」


「気にするな」


 俺は酔っ払いの顔の傍にしゃがみ込んでから『次は無いからな』と脅しを入れて絵美とともにギルドを出た。まだ繋いだ絵美の手は小さく震えていて、俺は取り敢えず落ち着ける場所を頭の中で検索していた。


 * * *


 町の中心にある噴水広場には多くの屋台が出店している。飲み物、食べ物、ちょっとした日用品等色々だ。

 その中から果実水と絵美のリクエストだったオーク肉の串焼きを買って、俺達は噴水の傍にあるベンチに座っている。

 そもそも女子と接する事が少ない俺はこんな時どう対処すれば良いのかが分からない。だから、コッソリやってた夜のバイト先で見た、中年のおじさんが若い女の子に物を買い与えるようなそんな真似しか出来なかった……のだが。


「ん~~ オーク肉美味しい~~」


 先程の事が無かったかのように、彼女はモリモリと串焼きを頬張って嬉しそうな顔をしていた。

 あれは正解なのか? 中年おじさんは正解だったのか?

 ともあれ、絵美はいつもの明るい絵美へと戻っているように見えて俺は一安心した。


「落ち着いたか?」


「ごめんね~。ビックリしたでしょ?」


「仕方ないさ。日本じゃ剣持ったマッチョの酔っ払いに絡まれる事なんて無いしな」


「ううん、そういう事じゃないの……」


 そう呟いた彼女は少し俯いて、時々あんな状態になる事があると告げた。


 横山絵美は六歳の頃親に虐待を受けていた。両親は少しでも気に入らない事が有ると彼女を恫喝し殴る蹴るを繰り返していた。時にはタバコの火を押し付けたりもしていたそうだ。

 結果その火傷が学校で見つかり虐待が発覚、そのまま児童相談所に保護されて裁判等の後施設で生活する事となった。

 

「トラウマっていうのかな? 大人に大きな声で怒鳴られると時々ああなっちゃう事があるんだ」


「……そうなんだ」


「施設に入った頃もね、大人が信用できなくていつも職員の顔色を伺いながら生活してた。怒られないように。怒らせないように」


 虐待の話はニュースなんかでよく見かけて何となく分かってるつもりだったが、実際に身近な人が経験してるとなると何と言えばいいのか言葉が詰まった。

 俺だけが不幸な目にあってきたなんて思ってたけど、そんな自分の考えは間違ってたのだろうか。


「でもね、いつも優しく見守ってくれる施設の職員さん達を見てたら、世の中悪い大人ばかりじゃないって分かったの。まあ、それに気付くのに一年くらい掛かったけど」


 絵美は過去を思い出すかの様に果実水をコクっと一口飲んで空を見上げる。

 俺には想像出来ない辛さを経験して、それを救ってくれた人達の優しさも経験してきたのだろう。彼女の表情は悲しそうでもあり懐かしそうでもあった。


「そのせいかな、何時の間にか常に人を観察するようになったのは」


「観察?」


「うん。まずはとにかく観察するの、良い人なのか悪い人なのか。良い所は何か、悪い所は有るかとか。そうやって自分に害が飛んで来る人なのかどうかを見極めるの。女神様に人を見る力を貰ったのもそれが理由、まさかそれが〈鑑定〉になるとは思わなかったけど」


「なんかチート貰えてオメデトウとは言い辛い話だな」


「ハハッ、そうだね。……結局私も人を信じられなくなってるって事なのかなぁ」


 結局人は皆誰もが人を疑いながら生きているという事だろう。自分にとって良い人物なのかどうか、害が有るがどうか。

 その疑いの度合いが大きいか小さいかの差が有るだけだ。では俺は……。


「でもね、悪い大人ばかりじゃ無いってのはもう理解してるんだよ。それに観察する癖のおかげで比呂君や渡君とも友達になれたしね」


「それは俺達は信用できると?」


「うん。だから一口あげる。はい、あ~ん」


 そう言って無邪気な笑顔を向けて手にしたオーク肉の串焼きを俺の口元に差し出してきた。

 おい、これじゃあまるでカップルみたいだぞ、分かってるのか?


「うん、旨いな。なあ、その、あれだ…… 気休めかもしれないが、絵美は人を信じられないんじゃなくて人付き合いに慎重なだけだと思うぞ」


「そうなの?」


「少なくとも俺達の事は信じられてるんだろ?」


「……うん!!」


 ぱあっと明るいいつもの笑顔を取り戻して残りの串焼きを頬張った。

 気休め、そう気休めだ。ただの言葉遊びだ。人付き合いが慎重とは裏を返せば人を信じてないとも取れる。……ただの言葉遊びだ。

 それでも、少しだけでも彼女の心が軽くなるのならそれも有りだろう。

 

「それ食べたら服を買いに行くぞ。何時までも学生服のままじゃ周りの視線が痛い」


「だね。串焼き食べてる貴族とか言われそう」


 ……俺はどうなんだろう。

 残りの串焼きを食べて『これじゃあ間接キスだぁ』と騒ぐのを忘れる絵美のように、心が軽くなる事なんて有るのだろうか。





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