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16 酔っ払い


 水晶による魔力量測定が終わり、後は冒険者カードを受け取れば登録終了だ。


「では、カードが出来上がるまで少々時間が有りますが、スキップの事も兼ねてギルド説明をしましょうか?」

「そうだな、頼むよ」

「はい、まずは冒険者にはランクがあります。最初ははFランクから始まり、ギルドや国への貢献度により上がっていきます。一番上はAランクとなります」


 受付嬢のミーツによって説明が行われ始めた。俺は前世で知っているが絵美は初めてなので聞いておいてた方が良いと思った。知らない単語も出てきたことだしな。


「Sランクは無いの?」

「はい。いえ、在るにはあるのですが、現在そのランクに属する者は五名しか居らず、またSランクはギルドだけではなく国にも認められる必要がありますので、現実なところでは最高がAランクとなるわけです」

「なるほどね~」


 ランクはA~Bが上級でC~Dが中級、E~Fが初級と呼ばれていて、Sランクは雲の上の存在である。

 実はこのSランクの五名は五十年ほど前に王国を襲った最強の魔物であるドラゴンを倒したパーティーとしてSランクを頂いている。現在はお爺ちゃんお婆ちゃんとなり現役を引退しているので、Sランクとは名誉職的な感じにも捉えられている。現実的にAランクが最高と言われる所以だな。


「受けられる依頼は一つ上のランク用の依頼まで受ける事が出来……」

「うんうん」


 その後も約五分程のミーツからの説明を受け、絵美はコクコクと頷き理解していった。理解が早いのは当然か、実のところ異世界小説にある内容とほぼ一緒だからな。


「分かりました、有り難うございます」

「こちらこそ有り難うございます。ここまで真面目に聞いてくださった冒険者は居なかったので、久しぶりに新人への仕事をした気分ですよ」


 ニコッと笑うミーツであったが、まだ肝心な事を聞けてない。


「で、スキップとは?」

「あ、それはですね…… うん、丁度カードが出来たようですね。……やはりこうなりましたか。こちらがお二人の冒険者証ですどうぞ内容をご確認ください」


 俺が質問すると同時に他の職員が俺達の冒険者証を持ってきたようだ。

 ミーツは一目確認した後に、俺と絵美のカードを手渡しながら記載事項の確認を促した。

 名前、年齢、そしてギルドランク。


「Eランク? Fじゃなくて?」

「はい、お二人の魔力量からしてFから始めるのは勿体ないと判断し、ランクを一つ上げました。しかも新人冒険者講習を受けて貰えば、あと数回の依頼達成でDランクとなります」

「なるほど、これがスキップ?!」

「その通りです。実力がある者を何時までも低ランクに置いているのは冒険者やギルドにも徳は無いですので」


 異世界小説ではチート主人公がFランクで無双するのだが、この世界でそれは無理という事だそうだ。ギルド的に効率を求めるのならこれが最良の案なんだろうな。もちろん俺的にも。


「それでは比呂様、絵美様のお二人は本日よりEランク冒険者と成りました。良い冒険者生活を……」

「ああ~ん!! こんなヒョロっちぃ奴がいきなりEランクだと~~」


 両手を腰の前に揃えて挨拶をするミーツだが、その言葉を俺達の後ろから邪魔をする奴が現れた。

 

「おうおう、お前みたいな奴に冒険者が務まるのかよ(ヒック)」


 酔っ払いか、おそらく俺達と同じくらいのランカーなのだろう。この時間だと初級中級は依頼やダンジョン方面へ出かけている。

 となれば、今飲食場に居るのは長い期間の依頼から戻ってきて寛いでる上級か、良い依頼を取れなかった低ランカーくらいなものだ。


「そこのお嬢ちゃんはかわいい顔してるな。よし、俺様が初心者講習してやるよ。ついでに夜の講習もな~」

「お前の講習なんて必要ないぞ」 


 その酔っぱらいは、バカ丸出しの顔でそんな事を言いつつ絵美に腕を伸ばしてくるので俺が払ってやる。


「うるせぇ! ヒョロヒョロは黙ってろ! どうやら躾が必要らしいな!!」


 只々でかい声で恫喝すればいいと思ってる。なんかもうあれだな、定番すぎて呆れ返ってしまう。まあ本当に初心者だったらビビるんだろうけど、俺は前世の記憶があるし多少のチートを貰って前世よりも強くなってるからそう思えるんだろうな。

 絵美なんか《あるある⦆きた~とか思ってるんじゃないか?そう思って絵美を見たのだが。

 ……震えてる?


「絵美、大丈夫か?」

「……」


 彼女の顔は真っ青になり手が小刻みに震えていた。

 いつも明るい彼女からは想像できない程の怯えようだ。

 なんだ?こういう争い事は経験無いからだろうか、それとも別の何かがあるのか。


「絵美行くぞ。バカはほっといて出るぞ」


 ちょっとまずいと思い、俺は絵美の手を取りギルドを出ようとした。


「誰が馬鹿だ!! 死んだぞてめぇぇぇぇぇ」


 ホントに馬鹿だこいつ。あろうことか酔っぱらいは腰に下げていた剣を抜き上段に振りかぶってきた。


 スパン!!


「あぎゃっ!!」


 俺はとっさに前に出て、掌で奴の顎を横からこすり上げた。奴の顔は首を支点にカクントと横向きになると、まるで糸が切れた操り人形みたいにガクンと膝から崩れ落ちた。


「な…… 何をしたてめえ。……あぐっ」


 奴は起き上がりろうとするがその度に足がふらつきまた倒れる。


「脳を揺らしたんだよ」


 これは脳震盪だ。首がカクンと曲がったときに脳が揺さぶられて体が一時的に機能しなくなる。ひどい時には意識が無くなったり記憶を失ったりもする。

 日本に居る時、空手が得意な一也に護身術の一つとして習っていたものだった。まさかここで役に立つとはな。


 この世界では脳震盪の仕組みは解明されていない。というかそれ自体を知らない。せいぜい思い切り殴ったら倒れるくらいの解釈だ。

 だからこそ怖い。たかが顎にかすった程度のパンチ、なぜか意識はあるのに体が言う事を聞いてくれない。自分に何が起こっているのか、相手が何をしたのか全く分からないのだ。

 自分に害があり、そしてそれが理解できない現象となればそれは恐怖となる。

 

「か、体が…… 俺の体が…… ぐはっ!」


 自分に襲ってきた謎の現象に、次第に青ざめていく酔っ払い。

 ガツンと、そんな奴の顔に蹴りを入れ仰向けに倒した俺は喉元を踏みつけた。


「剣を抜いた以上自分も殺される覚悟が出来てるんだよな?」

「あうぅぅ す…… すびばせ…… ん」


 さらに力を籠めて踏みつけると、涙目になった奴は許しを乞うてくる。

 だが、もし俺が弱かったら、抵抗しなかったら、間違いなく俺は斬られていただろうし絵美も無事じゃなかったかもしれない。

 だから簡単には許すことは出来なかったのだが……。


「もうその辺にしておけ」


 いつの間にか飲食場で寛いでいた1人が俺の肩にポンと手を置いてきた。

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