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12 冒険者の町 マテスに到着


 馬車のお陰で町には夕方に着いた。魔の森に一番近い為に高い城壁に囲まれたこの町の名前は[マテス]と言い魔の森に通う冒険者が多く滞在するからか、別名を冒険者の町と呼ぶ。

 入り口である門の前には冒険帰りの者達や冒険者相手の商人の馬車などが多く並んでいた。

 あと少し来るのが遅れたら閉門に間に合わずに城壁の外野宿する羽目になってたな。

 とは言え、今乗ってるのは王家の馬車だった。


「マテスに到着したようだな。今日の宿はあるのかい?」


 何の心配もなく殿下は話しかけてくる。その間も馬車が止まることなく列の横をするすると進んでいるのは並ぶ必要などないからだ。


「いえ、これから探そうかと」

「それもそうか、なにせ異世界から来たばかりだったな」

「あの、殿下は本当に俺の話を信じてるんですか?」

「まあ俄には信じられんが、そうだな……例えば君達の着ている服だ。光沢のある綺麗な生地にズレも無く等間隔に縫われた縫製技術は此方では見た事が無い。それだけでも君達が違う場所から来たことを証明している。どこか遠くの国の貴族と言っても通用しそうだ」


 よく見てるな、流石は頭脳明晰と言われているだけはある。その目利きを褒めておいた方がいいのかな。


「さて到着前に聞きたいんだが、絵美さん。アンデットウルフを倒した君のスキルは聖属性だね?」

「は、はい。それがどうかしましたか?」

「うむ、良ければ王宮に勤める気はないかね。給金は最高額を払うし屋敷やメイドも用意しよう、そこそこ贅沢な暮らしが出来る事は保証する」


 やはりこうなったか。

 この世界で聖属性は一番希少なスキルだ。保有者の数が少ないうえにその殆どは教会絡みに持っていかれる。絵美がスカウトされるのは当然だ。


「え、えええええぇぇぇぇ!! 王宮ですか? 贅沢出来るんですか?」


 王宮の一言に絵美の瞳はキラキラしてる。右も左も分からない世界で王宮勤めなら安全も保障されるだろう、彼女にとってはいい話だと思う。

 そもそも主役は彼女なんだ、モブの俺とは違う。華やかな舞台で活躍すればいい。きっと直ぐに俺の事なんて気にならなくなるだろう。


「あ、それは比呂君も一緒にって事ですか?」

「……もちろんだとも。彼も王宮に」


 絵美の質問に少し悩んだな。俺を呼ぶ気はあってもそこに仕事も居場所もない事が分かってるのだろう。

 悪気が無いのはこのほんの短い馬車の旅での会話で理解できてる。だからこちらから俺の方に視線を向けた殿下に言ってあげよう。


「俺はこの世界を見て回ろうと思います。なので王宮へは絵美だけで」

「え~、じゃあ私も辞退します」


 俺の返事にやや食い気味で絵美がとんでも発言を仕掛ける。

 は? 何言ってんの? 君は主役だぞ、選ばれて此処に来てるんだぞ。仲間に捨てられた俺とは違うんだぞ。


「なんで? 王宮務めだぞ、贅沢出来るんだぞ?」

「ん~、でも比呂君と一緒が良いよ。その方が安心する」


 絵美は何の躊躇いも無く言い切った。俺には彼女の真意が読めない。ニッと笑顔を見せる彼女は俺の何を見てるんだろうか。


「そうか、まあ聞いてみただけだ。では、とりあえずこれだけは受け取って欲しい」


 最初から絵美の答えが分かっていたような雰囲気で、殿下は脇に置いてあった王家の紋章が入った革袋を俺の膝の上に置いた。


「助けてもらった礼だ、これぐらいは受けてくれるだろ?」


 重さと置いた時の音からお金だと分かったが量が多い。


「殿下、流石にこれは貰いす……」

「エドだ」

「え?」

「殿下ではなくエドと呼んでくれ。君達はこの国の者ではない。この世界の者でもない。ならば私の友人になってくれないか?」

「それは、いくらなんでも」

「まあ、君達との縁を結んでおきたいという計算もあるがな」


 為政者としての腹黒い部分も隠さずに、屈託のない笑顔に更にウインク付きで言ってくる。くそ、イケメンはウインクが様になるな。

 でも、そんな人柄だからこそ民にも人気が有るんだろうな。


「分かった。じゃあ公の場以外ではエドと呼ばせてもらうよ」

「ふっ、肝が座ってるな。普通そう言われてもハイ分かりましたなんて言えないのだがな」

「そこは異世界人なので」

「プッ!!」


 今度はこっちがウインクで答えてやった。それを見て絵美が吹き出し、それに釣られてエドが笑い俺も笑う。門を潜る間、馬車からは三人の笑い声が漏れ聞こえていた。


 マテスは人口約三千人程の町だが、ここに集まる冒険者や商人等で大通りはかなりの賑わいを見せている。馬車の窓からそれらを眺めながら進んで行くと屋敷のような大きさの宿屋の前に到着した。

 

「ではゆっくり休んでくれ。私は明日の朝すぐに王都へ戻ることにする」

「はい、色々と有り難うございます。でん……エドも気を付けて帰れよな」

「一部屋しか空いて無くて申し訳ないがな」

「いやいや、こんな豪勢な宿を確保してもらってこちらが申し訳ないですよ~」


 俺はエドに挨拶をし絵美は恐縮している。この宿、貴族や大きな商会用の豪勢な宿で浴場まで完備されている。一介の冒険者が泊まれるような場所じゃない、格式的にもお値段的にも……

 満室だったのだが、そこは王太子の一声で部屋が用意された。もちろん費用もエドのポケットマネー、しかも一ヶ月分。

 日本ならプール付きの高級ホテルに一ヶ月滞在ってとこだぞ。絵美の恐縮は当然だろう、俺だって冷や汗を隠しながらエドに挨拶してるのだから。

 

「王都に来る事が有ったら顔を出してくれ」

「わかった、じゃあな」


 馬車は町の中心へ向かって進み小さくなっていく。中心地は貴族たちの屋敷があり王家の別邸もそこにある。エドはそこに泊まるわけだ。


「よし、俺達も部屋に行くか」

「一部屋だってよ」

「だ、大丈夫、何もしないから」


 下手なナンパみたいな台詞になってしまったが、ベットはツインの二人部屋らしいから大丈夫なはず。

 今日はベットでゆっくりと眠れると思っていた…… 絵美が荷物を置くまでは。

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