7月24日
今日は7月24日。アポロ11号が地球に還ってきた日。
エミールピカールが産まれた日でもあり、芥川龍之介がなくなった日でもある。
他には劇画の人かと色々。
太陽が完全に沈んでから、浴衣に着替えた雪女と共に夜の街へと繰り出した。
鼻緒が痛いのが嫌だとゴムサンダルを履いている彼女には風情など関係ない。
「つっかけでも履けばいいじゃないか」といったら彼女の口から「便所サンダルは嫌だ」と零れたもので、ゴムサンダルも同じ扱いをされることが多いのは知らないみたいだ。
生憎、彼女が履いているゴムサンダルは甲の辺りに水玉模様の風通しが良い穴が空いている物で、巷で若者などに広く好まれている物だ。
古き趣きを台無しにしていく様はまさしく現代妖怪という言葉が似合ってしまうだろう。
鬼のラーメン屋がある商店街の通りには屋台がずらりと並んでいていつも以上に人と活気と熱気に満ち溢れていた。
彼女とかき氷を食べ冷やしながら屋台を歩いているとラーメン屋の屋台を通り過ぎた。
こんなに暑いのに出している物はラーメンだった。
近い捨ての小さいプラどんぶりでミニラーメンを出しているようだ。接客には桃色の髪の鬼が駆り出されていたようだ。驚くほど屋台は盛況していて「暑いときに熱い物を食べたくなる人間」は異常だと彼女はぼやいた。
話題が移ったのは良かった。
先ほどまでかき氷を食べながら
「これはかき氷ではない。なぜなら氷蜜がかけられているからだ。かき氷として売るなら蜜は客が持参しなければいけない。だから氷蜜をかけたかき氷を売りたいなら"みぞれ"の暖簾を掲げるべきである」
と雪女ならではの講釈が少しだけ煩わしかったからだ。
大根を擂ると同じ現象が起きてしまいそうだった。
そんな中ある屋台の前で彼女は足を止めた。
「河童、凍りきゅうり一本頂戴」
「そんなものあるかよ、雪女じゃあるまいし」
河童と呼ばれた屋台の主は、河童に似つかわしくない外見をしていた。
後頭部で結んだ長い紺色の髪に整った顔立ち、白地に藤の花が施された甚平を着ていた。
「できるでしょ水神なんだから」
「うるさいこっちはきゅうりの面倒を見ているんだよ、そんなに食べたいならきゅうりの一本漬けを買って自分でやんな。あんた凍神だろ? それにかき氷の屋台でもやればいいじゃないか」
いいぞ、もっと言え。
雪女は100円で買った割りばしが刺されたきゅうりを、渋々と凍らせながら食べていた。
凍ってもきゅうりなものでポリポリという音に惑わされて自分も100円出費してしまった。
ふたりして並んできゅうりを食べていると、今度は彼? 彼女? に自分が話しかけられた。
「なあ、にいちゃん。きゅうり釣りやって行かないかい?」
ワニ釣りの要領みたいなゲームのお誘いが来た。一回500円。
「やらないです。因みに景品はなんですか?」
「きゅうりだな」
それは皆、きゅうりの一本漬けしか買わないだろう。
「なんかいいアイデアないか?」
「水の神様なのですよね?」
「おう」
「一回100円で景品が西瓜だったらみなこぞってやるんじゃないですか? 失敗したおまけに缶ジュースを付けたり」
「凍神の伴侶のにいちゃん、面白いこと考えるな! 明日にも試してみるよ」
隣の雪女は誇らしげな笑みを浮かべていた。
「あ、そういえばウカノミは何しているの」雪女が彼? 彼女? に尋ねる。
「ああ、ウカミならそこで枝豆すくいの屋台出しているよ」
指さされた方向にはビニールプールにモーターが突っ込んである屋台があった。
暖簾には”えだまめすくい”と書かれていたが、だれ一人気づかずに屋台の前を通りすぎていく。
やってみたら意外と楽しかった。彼女はポイを凍らせようとしてウカミさんに怒られていたが、金魚すくいのようようでお椀一杯になるまですくうことが出来た。はねたみずは少しだけしょっぱかった。
これで一回200円。泳いでいる枝豆はすでに茹でてあって、すくってそのまま食べることが出来る。
ただ食べながら歩くとがわの処理に困るのでビニル袋に入れて持ち帰る、金魚のように。
祭りの締めに夜空に大輪の花が咲いたが彼女は先日の凍りの花の方が綺麗だと言った。否定出来なかった。




