第17話 地下牢はッ!
レアクエストの名称を『誘拐事件』へ変更しました。
もともとは奴隷オークションへと乗り込む予定でしたが、書いていて雰囲気が合わないと思った為、現在の話へと移行した為の変更です。
正面門見張り塔を確保した僕らが壁内部の安全を確認してパーティチャットで連絡をすると、『アンロック』の魔法で正面門横の通用扉を開けた皆が静かに侵入してきました。
「様子はどうかしら、気付かれていない?」
砦の扉に張り付き内部の音を探っていた僕に顔を近づけ囁くように聞いてきたディアナさんに僕は頷きます。
皆が音を出来るだけ出さないように気を付けている上、金属鎧を着ている戦士を始めとした重装備の人たちも『サイレンス』の魔法で音を消しているので、邪魔になる音はほとんどありません。砦の向こう側にある厩から馬の鳴き声が時折するくるくらいで、僕の耳には砦内部を歩く足音すら聞こえています。
というかディアナさんの隣にはリンさんもいるのですが、サイレンスはその人の発する音を全て遮断して聞こえなくするので話すことも出来ないのですよね。
「人はほとんどいないようですし、唯一聞こえていた足音もゆっくりと遠のいています。ここから入って大丈夫そうです」
「そうか、ならば一気に強襲といこうじゃねぇか!」
僕の報告が聞こえたのでしょう、両手にごついガントレットを付けたイサミさんが嬉しそうに拳を掌に叩きつけています……あんまり音を出さないでくださいね?
「そうね、サイレンスも長くは持たないしさっさとやっちゃいましょう。ラビ、いけるかしら?」
「……罠も鍵もなし、OK」
青い修道服に身を包んだマリアさんに、扉を調べていたラビちゃんがピースサインで答えゆっくりと扉を開きました。ランプに照らされた室内は吹き抜けの広いエントランスのようになっており、劣化した木造の床や壁は所々穴が開いていたりもするのですが補修が施されており、現在なにものかが日常的に使っていることを教えてくれます。
正面には大人二人が余裕をもって通れる幅の2階へ続く階段が、その両脇には奥へと進める通路が、そして右手前の角には地下へ降りる階段が見て取れました。
室内の状況を確認した皆が頷きをかわし、今回の作戦のリーダー役であるディアナさんに注目すると、ディアナさんは皆を見回し簡潔に命令を下しました。
「見取り図どおりの構造みたいね、それでは皆さん……状況を開始します」
◇
このアジトを発見した後、僕らは人を集める時間が必要だったこともあり8時間ほど食事や睡眠の為に休憩をしていました。しかし、その間に『Tea Party』や『赤蜻蛉』の人たちは協力して邪神教団やこの打ち捨てられた砦の情報を集めておいてくれたのでした。
邪神教団が少女たちを攫っていたのは、大規模な召喚魔法で異界の神をこの地に呼びよせる為の生贄とする為でした。つまり、儀式が行われていなければ攫われた少女たちは生きている可能性があります。
【レアクエスト:誘拐事件:最終話 邪神教団との戦い】のクリア条件は『邪神教団アジトの壊滅』『邪神官を倒す』だけなのですが、どうせなら捕まっている人たちも助けようということになりました。
情報の中には砦の見取り図が含まれており、大雑把に言うとこの砦は大広間のある1階、寝室や書庫に作戦会議室がある2階、牢屋になっている地下の三層構造になっています。どこに誰がいるのかわからない以上、邪神官を逃がさない為に、攫われた少女たちを助ける為に、僕らはパーティーごと3組に分かれ、それぞれの階層を攻略していくことにしました。
「上は始まったわね……ふふっ、腕が鳴るわ」
「リン、ユーノくん、こっちも急ぐわよ」
「はい」
地下へと降りてきて数分、上階から戦いの喧騒が聞こえてきました。1階のTea Partyか2階の赤蜻蛉かどちらかが、或いは両方ともが戦闘を始めたようです。
僕らは階段終わりにあった扉の鍵を外すのに多少の時間がかかってしまい、まだ地下牢に辿り着いていませんが、周囲を石で補強された地下の通路はさほど長くないはずです。足音が鳴るのは承知の上で、所々に配置されている松明の明かりを頼り小走りに進んでいくと、曲がり角の先から声が掛りました。
「おい、誰だ! この騒ぎはなんだ!」
一辺2m半ほどの狭い通路に反響してハッキリとはわかりませんが、そう遠くにいるようには聞こえません。「援護する」リンさんはタマさんと共にクロスボウを取り出し、「行って!」ディアナさんが僕の背を押します。
「了解ッ」
矢のような勢いで走りだした僕はほんの1秒で曲がり角の手前へ辿り着き、外周から内角、そして曲がり角向こうの外周へとスピードを落とさずに走り抜けます。
「なんだ手前はっ!」
「おい、柵を下ろせ!」
曲がり角の先20mほどの所には二人の男が居ました。黒い貫頭衣を着たその二人組のさらに奥には左右に鉄格子の嵌った部屋があります。間違いなく地下牢のようです。男の1人は剣を持ち、もう一人は弓を構えています。
……柵を下ろせ? 走り続ける僕の視線の先で男の1人が矢を僕に向け、もう一人が天井から張られたロープを断つ為に剣を振り上げており、その視線の先には天井に鎖で固定された鉄格子。……あのロープを断たれたら面倒なことになる! とっさに足をさらに早めますが、そう思ったのは僕だけではなかったようです。
「ユーノ、避けて!」
背後から聞こえてきたリンさんの声に反応し、地面を走る勢いのまま壁を駆け登り止まることなく前に進みます。その距離はほんの数歩でしたが、その間にリンさんとタマさんがクロスボウで放った矢が剣をもった男を直撃、男はもんどりうって後ろへひっくり返りました。
「もうひとつ行くわよ!」
今度はディアナさんです。流石に壁を走り続けることは出来ないので天井と並行にジャンプして上を向き、石で出来た天井の継ぎ目に指を引っ掛けるようにして一手二手と前に進む僕の直下を白く輝く光弾が通り過ぎ、弓を構えていた男を直撃して後方に吹き飛ばしました。
しかし、矢を受けた男が起き上がろうとしています。少しでも急ぐ為に僕は天井を叩いて勢いつけて着地、前転してから立ち上がり残りの10mを駆け抜けるべく地を蹴ると、男は間に合わないと思ったのか倒れたまま剣を振りロープを切断しました。
張りつめていたものを断つ独特の音が地下に響いたその瞬間、男達の手前の天井を支点に持ち上げられていた鉄格子が風を切る轟音を響かせて降りてきました。
あと3m! 頭上から鉄の塊が落ちてくる感覚に鳥肌が立ちますが、ここで止まるくらいなら初めから走っていません! 振ってくる鉄格子と地面の間に頭から飛び込みました。
「ユーノ!」
「ユーノくん!」
その瞬間、悲鳴のように僕の名を呼ぶ二人の声を聞きながら、僕はゆっくりと流れる世界の中にいました。まるで水の中にいるように空気すら感じられるその世界で、僕は地面を滑るように進んでおり、降ってくる鉄格子もハッキリと見えました。ロープを切断した男は再び立ち上がろうとしており、後方ではリンさんとディアナさんが心配そうにこちらを見て声を上げています。……ご心配をお掛けして申し訳ありません。
ではなくて! これは一体なんなのでしょう?
疑問が浮かびましたが、その答えを得る前に世界は再び動き始めました。僕は僅かな隙間を通り抜け、後ろ髪に触れるほどに近づいた鉄格子は轟音を立てて地面へと突き刺さりました。そして目の前には衝撃に顔をそむけている剣を持った男が1人。
僕は考えるよりも早く双刃を取り出し、戦闘起動しながら切りかかっていました。
◇
通路を塞いだ鉄格子はおそらく数百kgの重さがあったのでしょう、そのままでは持ち上げることが出来ず、奥にあるハンドルを僕が力一杯回してなんとかやっと人が通れる隙間を作ることが出来ました。
「ほうほう、このハンドルの巻き取り機から出てる鎖が鉄格子に繋がっていて、さっき切ったロープは巻き取り機のストッパーになっていたってえわけね」
「へえ、単なるスイッチとかってわけじゃなく、ちゃんと機構まで作ってあるのね」
「そういうこと……なかなか手が込んでるわ」
「ちょっと、そっちは良いからこっちを手伝ってちょうだい」
男たちを倒した後、彼らの持っていた鍵で牢屋を開け中で縛られ眠らされていた少女たちの戒めを解いていた僕らでしたが、タマさんは巻き上げ機を熱心に調べており、リンさんは警戒すると称して方々を見て回っていました。
攫われてきたであろう10人の少女たちは全員白いローブのような服を着させられており、壁際の鉄格子にロープで縛られています。
「ごめんごめん、すぐ手伝うって」
「まったく……って、タマさん?」
ディアナさんに注意されてリンさんはすぐに少女たちの戒めを解き始めたのですが、タマさんは今度は牢屋の外側で端に座り込んでなにやら熱心に調べています。
まあ、ちょっと気になるのはわかります。この牢屋、通路側はもちろん壁になっている残りの三辺も全てが鉄格子で囲まれていて、不思議な造りではあるんですよね。
「どうかしましたか?」
近づくとタマさんは鉄格子の外側、壁との接点に入っている一筋の切れ込みに目を近づけて中を覗き込んでいました……なんでこんなところに切れ込みが?
「ん~、なんと言うか……この構造ってなんかに似てるんだけど……なんだっけな~」
「なにかに……似てる、ですか?」
「うん、囲いの中に鉄格子で囲んで作った部屋を嵌めこんでいるような感じで……なんだっけなぁ……」
囲いの中にもう一部屋を? ……うーん、なんでしょう? 悩んでいるタマさんにつられて僕もちょっと考えてみますが……うん、わかりませんね!
「さっきの鉄格子のこともありますし、なんか機械仕掛けにでもなっているのかもしれませんね」
「機械仕掛け?」
苦し紛れに思いつきを告げると唸っていたタマさんがピタリと止まり、勢いよくこちらに振り返りました。その顔はニンマリと笑み崩れています……なにか思いついたのでしょうか?
「なるほど、そういうことね! つまりそれは……ってちょっと大変じゃないの!」
「えっ?」
笑っていたタマさんが突然ものすごい形相で僕ににじり寄ってきます。うっ、つい後ずさりしてしまいますが、手が伸びてきてガッシリと僕を捕まえます。
「ユーノちゃん!」
「はい!」
「ディアナちゃんもリンちゃんも早くその娘たちを牢の外に連れ出して! たぶん時間がないわ!」
え? と突然のことに対応できない僕らでしたが、タマさんに急かされて動こうとしたその時、地下全体を強烈な振動が襲いました。
「ちょっと、なによこれ?」
「きゃっ、じ、地震?」
揺れに耐える僕らを余所に、タマさんは舌うちして牢屋の中に入ってきました。
「くそっ、遅かったわ……上に行ったら多分クライマックスよ、しっかり戦闘準備しなさいよ!」
「クライマックスって……えっ、上に行ったら?」
壁を削り大きく揺れながら少しずつ上昇する床の上で立ち竦む僕たちに、タマさんはゆっくりと告げました。
「この牢屋、丸々全部がエレベーターになってるの!」
なんか削れそうな場面も多々あるんですが、あまり多く没にするのももったいないのでまだましなところはそのまま載せています……増量増量。




