黒幕と実行犯
「お前が⋯⋯お前がレジーナを殺したのか?」
「そーだよー。大氾濫の時にー、木の上にいるところをー、僕が射殺したんだー。」
信じられない。まさか、犯人の方から自白されるなんて想定外だ。俺は唖然とする。
「⋯なんで殺した?それになんで俺に言う?俺のことも殺すのか?」
「クリスタのことはー、殺さないよー。まずはーこれを見てほしいなー。」
いつもの調子でそう言うと、モーリスは先程ギルドで受け取っていた調査書を俺に渡した。
俺は無言で調査書を手に取り読み始める。
調査書は、ザカールという男の調査書だった。俺はザカールという名に心当たりがある。どこで聞いたのだったかと考えながら調査書を読み進めていくと、やはり俺の知っている男だった。
ザカールという男は、俺が昔壊滅させた盗賊団の副団長だった男で、アジトを壊滅させた時に不在だったために取り逃していた。ザカールを取り逃してはいたが、盗賊団自体は壊滅させ、アジトも押さえていたのでそれで依頼達成となっていた。運のいいやつだと思ったのを覚えている。
「その男ー覚えてないー?」
「ああ、覚えてる。だけどこいつがどうした?」
ザカールなんて小物、俺の意識からは完全に消えていた。今更なんだって言うんだ?
「その男ー、レジーナと会ってたんだよねー。それにー、二人は恋人みたいだったんだー。」
「そうだったのか⋯。けど、それだけでレジーナを殺したのか?」
「その時にー、レジーナのことをー、レイジーナって呼んでー、怪しい話をしてたんだよねー。だから僕ー調べてもらったんだー。あー僕人より耳が良くてー。みんなが聞こえない声でもー聞こえるんだよー。」
俺は眉を顰めた。レイジーナという名前にも心当たりがある。
「レイジーナってまさか⋯。」
「たぶんー、クリスタと僕ー、考えてること同じだと思うー。」
やはりか⋯。
レイジーナとは、壊滅させたザカールがいた盗賊団の団長の娘の名だ。レイジーナは表立って盗賊団としての活動をしておらず、団長にレイジーナいう名前の娘がいるという、信憑性の定かでない情報しかなかった。
「まさか、レジーナが団長の娘のレイジーナだったのか⋯。それなら、他のメンバーを殺したのはレジーナだったのか?」
レジーナがレイジーナだったのであれば、俺に復讐するために俺に近づき、自分がされたのと同じように俺から仲間を奪いたかったのかもしれない。
仲間も揃ってパーティもうまくいっていた。もうそろそろSランクというこのタイミングで奪うとは⋯、復讐としては大成功だったな⋯。
「んーとー、黒幕はレジーナだと思うよー。」
「黒幕はってことは実行犯は別なのか?」
誰だ?ザカールみたいな小物にそんなことができるとは思えない。
「その事なんだけどー、さっきー、怪しい話をしてたって言ったでしょー?」
「ああ。怪しい話ってなんなんだ?」
「その怪しい話っていうのがー、思考をー誘導できるようなー、魔導具の話だったんだよねー。」
モーリスが、いつものへらへらした感じとは違う、真剣そうな表情になる。
俺は初めて見るモーリスの真剣で張り詰めた空気に息をのむ。
「それでねー、『その魔導具効果はどうだ?』っていうザカールの質問にー、レジーナがー、『順調だ』とかー、『思った以上の仕事をしてる』って答えてたんだー。」
「それは⋯、いつの話だ?」
「マークがー、襲撃された三日後くらいだよー。」
俺がサイモンを疑って尾行してた頃か⋯。
「その時は僕ー、まだ誰に魔導具が使われたのかー、分からなかったんだよねー。でもー、その後ーサイモンが殺されたでしょー?クリスタはー、残り三人のうちー、誰に使われたと思うー?」
こう聞いてくるってことはモーリスではない。そうなると俺がマークしかいないじゃねーか⋯。
そう考えたところで扉を叩く音が響いた。モーリスが、今までの真剣な雰囲気からいつものへらへらした感じに戻り、どうぞーと返事をした。
入ってきたのは初老の男性だ。隠しているのか一見強そうには見えないが、この人がモーリスの師匠だろう。隙がない。
「やあ、君がクリスタ君かね?」
「はい、クリスタです。勝手にお邪魔してすみません。」
俺は立ち上がって挨拶をした。
「ああ、いいんだ、掛けてくれ。私はモーリスの師匠のルーカスだ。早速だが、クリスタ君にも話を聞いてもらおう。モーリスから話を聞いていたところだと思うが、魔導具の話だ。」
そう言ってルーカスさんはクリスタの正面に座った。モーリスはクリスタの隣だ。
どうやら魔導具は師匠のルーカスさんが調べるのを手伝ってくれていたらしい。俺は居住まいを正して聞く姿勢をとった。
「まず、これがその魔道だ。見覚えはあるかね?」
ルーカスさんがテーブルの上に、包んでいたハンカチを広げて魔石のついた指輪を置く。
「これは、レジーナが着けていた指輪ですね。」
手にはグローブしか着けていなかったレジーナが、いきなり指輪なんて着け始めたので覚えている。
「そうだ、これは他人の思考を誘導するための魔導具だ。この指輪は指示を送るためのもので、指示を受け取っている魔導具があるはずだ。実行犯はそれを知らずに身につけているのだろうね。」
じゃあ俺ではない?俺は普段から身につけるような魔導具は持っていない。マークなのか?
「そうだよー、たぶんー、実行犯はマークだよー。」
俺が思ったことを察したのか、モーリスが俺の疑問に答える。
「そして、この魔導具は思考をある程度誘導することはできるが、思い通りに何でも言う事を聞かせられる訳ではない。」
どういうことだ?じゃあこれで何ができるって言うんだ?
俺が疑問に思い首を傾げていると、モーリスが質問した。
「じゃあー、どこまでならー言う事をきかせられるのー?」
「んー⋯、難しい質問だな。」
そう言ってルーカスさんは腕を組み、少し考える。
「例えば、お酒が好きだけど我慢している人に、お酒を飲め、と指示を出せば飲むだろう。だが、元からお酒が嫌いで飲まない人に同じ指示を出しても飲まない。全くその気がない人に言う事を聞かせるのは無理だ。その程度の効力しかない。」
なるほど⋯。それだけでどうやってマークに殺人なんてやらせたんだ?
「じゃあー、マークはー、みんなのことを殺したいって思ってたってことー?」
「そこなんだが、人間誰だって殺してやりたいまでとは思わなくても、嫌いだとか邪魔だとか思うことはあるだろう?それでどこまでかは分からないが、そういった感情を増幅させて誘導しているのだろう、と鑑定してくれた友人が言っていた。」
「では、マークは思考誘導が解除されれば元に戻るってことですか?」
実行犯はマークだが、思考誘導で操られていただけならマークも被害者だ。助けてやりたい。
「それが、この魔導具の効果が曖昧すぎて、どうやって解除すればいいのか分からないようなんだ。」
「僕もー、レジーナから指輪を回収した後すぐにー、仲間を殺さないでーって指示を出したんだけどー、どうなったのか分からないんだよねー。」
もしその指示がマークの意思に反していればいくら指示を出しても無駄で、殺したくないって気持ちが少しでもあれば効果はあるかもしれないってことか⋯。
「マーク自信に思考誘導されてることを伝えちゃだめなんですか?」
「僕もーそれは考えたんだけどー、それを伝えたところでー、マークが元に戻るかどうかは分からないよー。それにー、マークが実行犯だってー、僕とクリスタが気づいたこと知ったらー、僕はクリスタと一緒にいてもー殺されちゃうかもしれなーい。」
「なら俺が一人で伝えに行くんじゃだめなのか?俺は殺されないんだろ?」
モーリスはこの屋敷に籠っていてもらえば安全だろう。
「それがー、クリスタはー殺されないけどー、マークにー催眠魔法かけられてるみたいなんだよねー。何が目的なのかなー?」
俺が催眠をかけられていた?なるほど⋯
俺は自分が仲間を殺す夢を見て、自分が犯人かもしれないと思っていたが、それは催眠の効果だったわけだ。俺はマークに思考誘導されていたってことだ。
「目的は俺にも分からない⋯。俺に罪を被せたかったのか?それに、それすらレジーナに操られてやってたかもしれないってことだよな?」
「それも分からないからー、クリスタが一人で行くのもー、危険だと思うんだよねー。たぶんー、マークって僕たちが思ってるより強いしー。それでー、僕一人で何とかしようと思ってたんだけどー、いい案が浮かばないからー、クリスタと相談しようと思ってー、ここに呼んだんだー。」
そんなのどうしたらいいんだ?もっとメンバーが残っているうちに気づけていたら何とかなったかもしれないのに⋯。
モーリスといろいろ案を出しあったが、中々良い案が浮かばなかった。
とりあえずはリスクを避け、モーリスも俺もこのままここに隠れて、暫く指輪から指示を送り、マークを殺人鬼から元に戻すよう思考誘導し続けることにした。




