シーフのレジーナ
次の日、二日酔いで痛む頭を押さえながら、パーティハウスに向かった。もう昼を回っている。他の二人にもアリアのことは伝えなくてはならない。モーリスがもう伝えているかもしれないが⋯、いつまでも逃げてるわけにはいかないからな。
パーティハウスに戻ると、レジーナも帰ってきていた。三日ぶりだが、いろいろありすぎて随分久しぶりに感じる。それと同時に、四人揃ったリビングを見て、もう四人しかいないんだなと喪失感を感じた。
「久しぶりね、アリアの遺体見つけたらしいわね?」
「ああ。」
レジーナも久しぶりだと感じているようだ。
「夢で見つけたって⋯本気で言ってるのかしら?」
俺に訝しげな視線を向けてくる。まぁ、そうなるだろうとは思ってた。だから昨日は帰らなかったのだ。
「そうだ。前にマークにも相談したよな?」
「うん、あの時はたかが夢でしょ?ってクリスタのこと笑っちゃったけど⋯、本当にアリアの遺体が出てくるなんてね⋯。」
「僕も驚いたよー。」
「⋯⋯⋯⋯⋯殺したの?⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯クリスタ、あなたが殺したんじゃないの?」
射るような眼差しで俺の目を見据えながら聞いてくる。もう嫌だ⋯
「俺じゃ⋯⋯なぃ⋯」
俺だって自分を信じたいが、夢のことは不可解に思っている。アリアの夢のことしか話してないが、他の二人の夢も見ていることを俺は隠している。後ろめたい気持ちもあるせいか、語尾が消えそうになった。
「そう⋯⋯でも、悪いけど私は信じきれないわ。私は私でやっていくから、もうここには戻らないことにするわ。」
そう言うとレジーナは出て行った。
その後三人でギルドにも報告に来た。周りの冒険者たちにも、もう事件のことは広まっているようだ。アリアが行方不明になったときには、同情的に励ましてくれていた人たちまで、今は忌避するような視線を向けて、コソコソと何か言っている。
「僕たちーうわさにーなってるねー。」
「居心地が悪いね。」
「ああ、早く報告して出よう。」
ギルド長にもアリアの夢のことを詳しく説明した。口には出さなれなかったが、お前がやったんじゃないのか?と思っているような空気を、言葉の端々からひしひしと感じた。もう疲れた。
◆◆◆◆◆
それからの一週間、ほとんど俺はパーティハウスの部屋に籠りきりだ。初めは宿に泊まろうと思ったが、宿泊拒否された。街中でも連続殺人として噂が広まっているようで、俺たちはすでに殺人犯扱いだ。
特に俺は、犯人候補の断トツのNo.1だそうで、ちょっと外に出ただけで、「早く捕まれ」とか「可愛い顔してこえーな」とか次々と野次がとんでくる。賭けをしている者までいるようで、「次は誰を殺すんだ?こっそり教えてくれ。」なんて胸糞悪いことを言ってくる者もいる。お前を殺してやろうか?と何度も思った。
パーティハウスにいるのは俺とマークだけ。モーリスはずっとどこか別のところに泊まっているようだ。誰か匿ってくれる人がいるのかな?
マークは部屋に籠っているわけではないが、リビングで本を読んだり、一人でダンジョンに潜りに行ったり、あまり人と関わらないようにして過ごしているようだ。
そうやって、憂鬱な気持ちで今日も部屋でぼーっとしていると、玄関からモーリスの声が聞こえた。
「二人ともーいるー?」
「いるけどどうした?」
「いるよー。」
「魔物のー大氾濫が起きたからー、ギルドに集合だってー。」
こんな時に緊急呼び出しか。緊急なのにモーリスの間延びした話し方のせいで、あまり緊急な気がしない。
三人でギルドに行くと、冒険者たちの視線が痛い。
「おい、お前らのせいだろ。」
「お前らが真っ先に突っ込めよ。」
え?なんで俺らのせい?
何を言っているのだろうとモーリスとマークに視線を向けると、二人とも首を傾げる。なんで魔物の大氾濫が俺たちのせいになるのだろう。
大氾濫とはたまに起きる、森やダンジョンの魔物が街の方に溢れ返ってしまう現象で、自然災害のようなもののはずだ。
疑問が解消されないまま、話を遮るようにギルド職員に指示を出され、追い出されるように各自担当エリアに向かった。
俺は担当エリアに到着してなんとなく事情を察した。
今回は近くの森からの氾濫で、この先の辺りは俺らが調べに行く予定だった場所だ。サイモンが殺されて、行けずにキャンセルしたのだ。Aランクの俺たちの代わりなんてすぐには見つからなかったのだろう。ギルドが俺らの事件の調査で、人手不足だったせいもあると思う。それで発見が遅れて氾濫が広範囲に広まってしまったようだ。
さらに、運の悪いことに今回は規模も大きい方だった。大氾濫が終息するまで、冒険者ギルドの人員総出で四日もかかった。
ギルドに戻ると大氾濫終息の祝勝会が開かれたが、俺たち三人は参加しなかった。終息したとはいえ、被害も少なくない。俺たちに向けられる視線は冷たい。とても参加できる空気じゃなかった。
俺とマークはパーティハウスに戻ったが、モーリスはいつの間にかまたどこかに消えてしまった。レジーナは出て行ってから一度も会っていないから分からないが、無事だろうか?
◆◆◆◆◆
数日後、またモーリスがやって来た。こいつはどこで寝泊まりしてるのだろうか?まあいい。
モーリスが言うには、レジーナらしき遺体が森で見つかったらしい。
「は?」
「えっと、魔物にやられたの?そんなわけないよね⋯」
「どーだろーねー。」
レジーナが大氾濫の魔物にやられたなんて信じられない。余程の大物なら分からなくもないが、そんな報告はギルドにも上がってないそうだ。
それに、レジーナなら倒せなくてもやられる前に逃げるだろう。素早さと隠密能力ならシーフのレジーナが一番長けていた。感知能力も高い。その辺の魔物なんかにやられるわけがない。何が起きたんだ?
大氾濫の後は、負傷して動けない冒険者の回収や、亡くなった冒険者の遺体や遺品を回収するために、ギルドからの捜索隊が組まれる。その捜索で、魔物に食い荒らされたレジーナの遺体が見つかったそうだ。遺体の服装と持ち物からレジーナだと確認された。レジーナの冒険者カードも持っていたらしい。
一騎当千はとうとう三人だけになってしまった。
俺とマークは次の日に冒険者ギルドに行った。正直行きたくはなかったが、レジーナの遺体があった場所を聞きに行った。その足でそのまま森に向かい、少し調べてみることにした。
「ねえ、あの枝、不自然に折れてない?」
「んー、そう言われてみれば?ごめん、俺にはわからん。」
マークが言うにはレジーナは木の上から狙っていて、何かの拍子に落ちてそこを魔物に襲われたかもしれないそうだ。俺にはよく分からなかったがそれなら、ただ魔物にやられたというよりは納得できる。
「レジーナは事故だったってことか?」
「それは僕にもわからない。」
「そうか⋯。」
実際に何が起きたかは分からないまま、もやもやとした気持ちでパーティハウスに戻った。




