回復術師のアリア
ドラムが殺された後十日が経った。あれから襲撃者の目撃情報を集めたが、何も出てこない。ドラムが亡くなってから休んでいた冒険者の仕事も、三日前から再開したが、俺たちの周りでも何も起きていない。
今日も王都近くの森に出た大蛇討伐の依頼を六人でこなして来たところだ。大蛇討伐はBランクの依頼で、ドラムが抜けたため、パーティでの連携の確認をしようと受けた依頼だ。元々メンバーを分けて活動することも多かったので大蛇なら特に問題なく倒せた。昼過ぎには依頼を終え、ギルドへ報告した。
報告の後はいつも通り各々自由に過ごす。俺はモーリスと一緒に、お気に入りの店の煮込みを食べに行く。明日からは、護衛依頼で王都を離れるので食い溜めだ。
年季が入った店だが、知る人ぞ知る隠れた名店で、ここの煮込みが一番だと思う。ホロホロの肉としっかり味の染みた野菜が美味しい。酔いすぎない程度にエールも頼み、この組み合わせはやっぱり最高だと再認識した。自然と頬が緩む。
「ねぇクリスタぁ、襲撃者の姿って本当に全然見ていないのー?」
モーリスはいつも間延びしたような話し方をする。出会ったばかりの頃は焦れったく感じだこの話し方も今はもう慣れた。
「ああ、敵に集中していて全く気づかなかった。俺も腕を切られたから、敵の首を落とした後すぐ振り返ったんだが、マークしかいなかった。その後何かが落ちた音がしたと思ったら、ドラムの首が転がってたんだ。」
「ふーん。マークは後ろにいたのかぁ。」
「お前⋯、マークを疑ってるのか?」
「うーん、だってー、あれから今日まで何も起きないしー、襲撃者なんていなかったんじゃないかなーって思っちゃったんだよねー。それならー後ろにいたマークが一番可能性高いでしょー?風の魔法でスパッとさー。」
「いや、俺は確実に武器で切られてる。さすがに魔術師のマークにそれは無理だろ?」
魔術で切ることはできても毒は仕込めない。
「そーだよねー。誰がやったんだろー。明日からの護衛依頼もちょっと怖いねー。」
「ああ、なるべく集団で動こう。」
俺とモーリスは日が暮れる前にはパーティハウスに戻り、先に帰っていたマークと少し雑談をして早めに寝た。マークも一人で何か食べに行っていたようだ。
◆◆◆◆◆
翌朝、朝食になかなか現れないアリアを、レジーナが部屋まで呼びに行くと誰もいなかった。朝起きてアリアを見た人もいない。依頼があるのにパーティハウスに戻ってないのはおかしいが、アリアはあまり酒に強くないので、少し飲んだだけで眠ってしまうことがある。どこかで酔い潰れてる可能性もあると、アリアがよく行く店に探しに行ってみることにした。探しに行くのは俺とモーリスで他は留守番だ。
アリアはチーズが好きで、よく行くのはチーズケーキが美味しいスイーツの店と、芋のチーズ焼を出している店だ。お酒を飲むとしたら後者だろうと思って行ってみたが、こちらにはいない。次にスイーツの店にも行ってみたがこっちもいなかった。
「どうするー?」
「一度ギルドにも行ってみよう、念の為にアリアがいなくなったことを伝えておいた方がいい。言っておけば見つかった時に連絡をくれるだろうし、何か情報があるかもしれない⋯念の為だ⋯。」
「無事だといいんだけどねー。まさか依頼に行く前に何か起きるとは思わなかったよー。」
「知り合いに会ったら、昨日別れてからアリアを見てないか聞いてみよう。」
ギルドに向かうまでに会った知り合いにも聞いてみたが目撃情報はなく、ギルドでもなんの情報も得られなかった。
パーティハウスに戻った俺たちは、アリアが見つからなかったことを皆に報告した。今日からの護衛依頼はアリア抜きで行くことになった。回復役がいないのは少し不安だが、今回の依頼は商隊の護衛だ。道中襲ってくるのは小型の魔物か盗賊がほとんどで、それらが相手なら大きな怪我をすることはないだろう。俺らを狙ってくるのでなければ⋯
◆◆◆◆◆
四日後、無事に依頼を終えギルドへ報告に来ると、俺たちはギルドの談話室に呼ばれた。この部屋は防音になっていて、内密な話をする時によく使われる。嫌な予感がするが、ギルド職員に案内されて部屋に入った。
談話室には真ん中に大きな長方形のテーブルと、それを囲むようにソファが並べてある。
「まあそっちに座れ。」
部屋にはギルド長がいて、俺らに着席を促した。
「アリアは見つかりましたか?」
「その話をしようと思ってたんだが⋯、結果を言うと見つかってない。だが、冒険者の中に裏路地の方に入っていくのを見かけたやつがいた。心当たりがあるやつはいないか?」
⋯⋯⋯⋯⋯。
誰も心当たりがないらしい。
「いえ⋯。どの辺でしょうか?」
「腸詰肉が美味い食堂と、茶葉を売ってる店の間の路地に入っていったそうだ。」
その辺の裏路地に、アリアが行きそうな場所が思い浮かばない。
「あそこですか⋯⋯⋯。やっぱり何も思い当たることがないですが⋯あの辺を探しに行ってみます。」
「一応手の空いてる冒険者たちで探してはみたんだ⋯⋯何もないと思うが気をつけろよ。」
「はい。」
話を終えた後、俺たちは全員で裏路地に情報収集しに行くことにした。
裏路地に入ると酒屋や小さな屋台、露天などが雑多に並んでいる。酔い潰れているのか酒瓶を持って寝ている者もいる。屋台をやっている男や露天商にアリアのことを聞いたが、本当か嘘か、誰も覚えていないそうだ。本当にここに来ていたのか?見かけた冒険者の見間違いかもしれない。ここでの聞き込みは諦めパーティハウスに戻ることにした。
今日は皆疲れているので夕食は買って帰る。マーク、モーリス、レジーナには先に戻ってもらい、俺とサイモンで大量の肉串とサンドイッチを買いに行った。俺たち一騎当千の、疲れたときのメニューは必ず肉だ。肉を沢山食べてしっかり眠れば次の日には大体元気になれる。
大量の肉串とサンドイッチの詰まった袋を持って歩いていると、隣の木工職人の家のお喋り好きな奥さんと会った。俺たちのパーティハウスは、冒険者ギルドがある街の中心辺りより、城壁近くの職人街の方へ向かう途中にある。
「あら、今日は荷物が多いわね、何を買ったの?」
「ちょっと今日は疲れてるので大量の肉串とサンドイッチです。アリアが行方不明になってしまって⋯」
「アリアちゃんが?どうしちゃったのかしら⋯心配ね。」
「五日前の昼間にギルドで別れてから居場所が分からないんです。何か知りませんか?」
「⋯あら?その日私家の前で話したわよ?パーティハウスに戻るところだって言ってたけど、帰ってないの?」
「えっ?アリアが戻ってたんですか?俺たちが戻った時にはいなかったんです。」
「あらそう⋯。戻った後のことは私も分からないけど、会って話したのは確かよ。どこ行っちゃったのかしらね⋯。」
「もしまた見かけたら教えてください。」
そう奥さんに頼み別れた。
サイモンと顔を見合わせる。まさか昼間に一度戻っているとは思わなかった。街の中心のお気に入りの店やギルドの周辺は探したがパーティハウス周辺は探さなかった。いつ出ていったのだろうか?
「サイモンどう思う?」
「一度パーティハウスに戻ってから中心街に戻るのは、少し距離があって面倒です。裏路地に向かったという情報も勘違いな気もしますし⋯、街の中心街までは行ってないと思います。」
その場合どこに出かけたのだろうか?アリアが職人街に用事なんてあるのか?俺たちは後日職人街の方で聞き込みをすることにした。




