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原作で負けて壊れるはずのヒロインが、モブの俺に依存してきた  作者: 東海林


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8/12

8話

その日も、冬月澪は俺の家に来た。


「お邪魔します」


「どうぞ」


もう、何度目になるか分からないやり取りだった。

最近では、澪が俺の家に来ることに特別な違和感を覚えなくなっていた。


学校が終わる、一緒に帰る。

俺の家に来る、澪が適当に過ごす。

そして、帰る。


いつの間にかそんな流れが出来上がっていた。


「今日は何をしますか?」


「特に決めてない」


「そうですか」


澪はそう言いながら、自然な動きでソファに座った。

俺は冷蔵庫から飲み物を出す。


「はい」


「ありがとうございます」


澪はペットボトルを受け取った。

そして、テレビをつける。


俺は机に座って、課題を始めた。

澪はソファ、俺は机。

それぞれ別のことをしている。


会話もない。

それでも不思議と、空気は落ち着いていた。

しばらくして。


「……九條くん」


「ん?」


「少しだけ、寝てもいいですか?」


「どうぞ」


「ありがとうございます」


澪はそう言って、ソファに横になった。

最近では、もう珍しいことではない。

最初の頃は、帰る時間を気にしていた。


でも最近は。


「……」


俺が振り返った時には澪はもう眠っていた。

静かな寝息、目を閉じた顔。

学校で見せる完璧な表情は、どこにもない。


ただの女の子だった。

俺はしばらく、澪を見ていた。


そしてふと胸の奥に、嫌な感覚が広がった。

――あと、どれくらいだろう。

俺の命は。


医者に言われた長くても一年。

でも転生してから、すでに数ヶ月が経っている。

残された時間はもう、最初に考えていたほど長くない。


「……」


俺は時計を見る。

そして、眠っている澪に視線を戻す。


この子は俺が死んだらどうなるのだろう。

そんなことを考えてしまった。

澪は、俺がいなくても生きていける。


当たり前だ。


原作では俺が存在しなくても物語は進む。

悠真とひよりが結ばれる。

そして澪は壊れる。


「……」


俺は目を逸らした。

原作では俺は何もできなかった。

いやそもそも存在していなかった。


でも今は澪が俺の部屋で眠っている。

俺の服を着て、俺の隣で安心したように眠っている。

なのに俺はこの子より先にいなくなる。


「……馬鹿だな」


小さく呟いた。

最初から関わるつもりなんてなかった。

傘を貸しただけだった。

少し話を聞いただけ。


家に来てもいいと言っただけ。

それだけだったはずなのに。

今では澪が眠っている姿を見るだけで、いなくなった後のことを考えてしまう。


「……」


俺はソファの前に座った。

澪の寝顔を見つめる。

頬にかかった髪を、そっと避ける。

澪は起きなかった。


そのまま、穏やかに眠っている。

俺は思った。

この子の隣にいられる時間がもう、あまり残っていないのだと。


「……もっと、いてやりたいな」


口から、言葉が漏れた。

自分でも驚いた。

もっとこの子が眠るところを見ていたい。

学校で笑うところを見ていたい。

くだらない話をしたい。

一緒に帰りたい。


そんなことを思ってしまった。

でもそれは叶わないかもしれない。


俺は死ぬ。

その事実だけはどうしても変えられない。


「……ん」


澪が目を覚ました。


「起きた?」


「……はい」


澪はぼんやりと目を擦った。


「寝てしまいましたか?」


「うん」


「すみません」


「別に」


澪はゆっくり起き上がった。

そして俺の顔を見た。


「……九條くん?」


「ん?」


「どうかしましたか?」


「何が?」


「……少し、寂しそうな顔をしていたので」


「そう?」


「はい」


澪は、じっと俺を見る。

最近、彼女は俺の変化によく気づくようになった。

俺が隠しているつもりでも。

少しずつ澪には見抜かれるようになっていた。


「……何でもない」


俺は笑った。


「眠そうだなと思っただけ」


「……本当ですか?」


「本当」


また、俺は大丈夫と同じように、嘘をついた。

澪は納得していない顔をした、でも、それ以上は聞かなかった。


代わりに。


「……九條くん」


「ん?」


「ここで寝ると、よく眠れます」


「そう」


「家だと、あまり眠れないんです」


「……」


「でも、ここだと」


澪はソファを見る。


「安心します」


俺は何も言わなかった。

ただ。


「じゃあ、眠くなったら寝ればいいよ」


そう言った。

澪は少しだけ笑った。


「……はい」


それからソファに横になった。

俺は机に向かう。


でももう、課題には集中できなかった。

背後から聞こえる、穏やかな寝息。


その音を聞きながら俺は考えていた。

――この子が、俺なしでも眠れるようになるまで俺は生きていられるだろうか。


そして俺がいなくなった後もこの子は、ちゃんと笑えるだろうか。


答えは分からなかった。

ただ眠っている澪の姿を見ていると、初めて死ぬのが少しだけ怖いと思った。


自分が死ぬことではなく自分がいなくなった後の冬月澪のことを考えて。


もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。

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