表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原作で負けて壊れるはずのヒロインが、モブの俺に依存してきた  作者: 東海林


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/10

4話

九條蓮司が学校に戻ってきてから、一ヶ月が経った。


あの日、冬月澪に血を吐いたところを見られた。

……正確には、血のついたティッシュを捨てているところを見られた。


澪は何も聞かなかった。

ただ、少しだけ様子がおかしくなった。


「九條くん」


「ん?」


「今日のお昼、一緒に食べませんか?」


「え?」


「……嫌でしたか?」


「いや、別に」


そんな会話が増えた。

昼休みになると、澪が俺の席に来る。

一緒に昼食を食べる、といっても、俺はあまり食欲がない日が多い。


澪はそれを気にしているようだった。


「九條くん、今日はそれだけですか?」


「うん」


「少なすぎませんか?」


「朝食べたから」


嘘だ。朝は薬だけ飲んだ。


「……本当に?」


「本当に」


澪はじっと俺を見る。

最近、彼女はこうして俺の顔をよく見るようになった。

まるで、何かを探しているみたいに。


「冬月?」


「いえ」


澪は小さく笑った。


「九條くんは、嘘が下手ですね」


「……そう?」


「はい」


その笑顔は、少しだけ楽しそうだった。

原作の冬月澪は、もっと完璧だった。

誰に対しても同じ笑顔を向けていた。

でも今の澪は、俺の前では少しだけ表情が違う。


よく笑う。

よく話す。

そして、よく俺を見る。


俺が休んだ翌日には、必ず聞いてくる。


「昨日は、何をしていたんですか?」


「寝てた」


「ずっと?」


「だいたい」


「……そうですか」


そして、少し安心したような顔をする。

そんな日々が続いた。


俺は相変わらず、原作に関わるつもりはなかった。

朝霞ひよりと天音悠真は、順調に仲を深めている。


原作通りだ。

クラスの中でも、二人はかなり有名なカップルになりつつあった。


「天音くん、今日も朝霞さんと一緒に帰るんだって」


「もう付き合ってるようなもんじゃん」


「でも、正式にはまだなんだよね?」


そんな会話が聞こえてくる。

俺はそのたびに、少しだけ冬月を見る。


彼女は笑っている。


「冬月さん、天音くんたちのことどう思う?」


水篠結菜が聞いた。


「お似合いだと思いますよ」


澪は即答した。


「本当に?」


「はい」


「嫉妬とかしないの?」


「……どうしてですか?」


「いや、冬月さんも天音くんと仲良かったじゃん」


「そうですね」


澪は笑う。


「でも、私は二人を応援していますから」


その言葉に、誰も何も言わなかった。

ただ、俺だけは知っている。

その笑顔の奥にあるものを。

まだ、澪は壊れていない。


ただ少しずつ、何かを諦め始めている。

それが分かった。



ある日の放課後。


「九條くん」


昇降口で、澪が俺を呼び止めた。


「ん?」


「これを」


澪が鞄から折り畳み傘を取り出した。


「ああ」


すっかり忘れていた。


「一ヶ月も借りてしまって、すみません」


「別にいいよ」


「でも、ずっと返せなくて」


「学校に来た時に返せばいいんだから、そんなに気にしなくていいって」


「……はい」


澪は傘を差し出した。

俺は受け取る。

ただそれだけのことだった。

なのに澪は、なぜか少し寂しそうな顔をした。


「どうした?」


「……いえ」


「傘を返したから?」


「違います」


澪は少し考えてから、俺を見た。


「九條くん」


「ん?」


「また、傘を貸してくれますか?」


「雨が降ったらな」


「……そうですか」


澪は、少しだけ笑った。


俺はその時、気づいていなかった。

澪が傘を返すのを、一ヶ月も先延ばしにしていた理由に。


ただ返すだけなら、もっと早く返せた。

でも、返してしまえばあの日の繋がりがなくなってしまう気がした。



その夜。

俺は自宅のベッドで、薬を飲んでいた。

最近、体調が悪い日が増えた。


以前より疲れやすい。

階段を上るだけで息が切れる。

胸の痛みも増えた。


そして血を吐くことも、少しずつ増えていた。


「……まだ、数ヶ月だろ」


机の上に置かれた薬を見る。

医者から言われた。


残された時間は一年ほど。

でも時間は、確実に減っている。

俺はスマホを見る。


通知が一件。

冬月澪からだった。


『今日はありがとうございました』


たったそれだけ俺は少し考えてから返信した。


『こちらこそ』


すぐに既読がついた。


『明日も、学校に来ますか?』


俺は少し笑った。


『行くつもり』


『よかったです』


それだけのやり取り。

なのになぜか、少しだけ嬉しかった。

 



翌朝。

俺は目を覚ました。


「……」


身体が重い、いつものことだ。

ベッドから起き上がる。

その瞬間、強い吐き気が込み上げた。


「……っ」


洗面所へ向かう。

口元を押さえる。

そして赤い血が、洗面台に落ちた。


「……」


しばらく、何も考えられなかった。

蛇口をひねる。

赤い色が、水に流されていく。


俺は鏡を見る。

顔色が悪い。

それでも。


「……学校、行くか」


制服に着替えた。

今日は、冬月と昼を食べる約束をしている。

別に約束というほどのものではない。


ただ、昨日。


「明日も一緒にお昼食べませんか?」


「いいけど」


そう言っただけだ。

だから、行く。

それだけ。




「九條くん、おはようございます」


教室に入ると、冬月澪が声をかけてきた。


「ああ、おはよう」


「……」


澪は、俺の顔を見た。


「どうかした?」


「いえ」


少し間を置いて。


「今日は、顔色が悪いです」


「寝不足」


「本当に?」


「本当」


澪はじっと俺を見る。

それから、小さく息を吐いた。


「……九條くんは、すぐに大丈夫と言いますね」


「そうかな」


「はい」


彼女はそう言って、自分の席に戻った。

俺も席に座る。

その直後胸の奥に、鋭い痛みが走った。


「……っ」


机の下で、拳を握る。

痛みが引くまで、じっと耐える。


そしてふと前を見る。

冬月澪が、こちらを見ていた。

目が合う。


「……」


「……」


澪は何も言わなかった。

ただ俺のことを見ていた。

まるで俺がいつか、自分の前から消えてしまうことを恐れるように。


もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ