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原作で負けて壊れるはずのヒロインが、モブの俺に依存してきた  作者: 東海林


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15/23

15話

翌朝。

俺は、いつもより早く目を覚ました。


「……」


身体が重い。

昨日よりも、明らかに。

ベッドから起き上がるだけで、少し息が切れた。


俺はしばらく座ったまま、何もせずにいた。

そして机の上に置いていたスマホを見る。


冬月澪から、メッセージが来ていた。


『おはようございます』


少し時間を空けて。


『今日からですよね』


『はい』


さらに。


『ちゃんと帰ってきてくださいね』


俺は、少しだけ笑った。


『分かってる』


送信、すぐに既読がついた。


『本当に?』


『本当』


『……なら、いいです』


俺はスマホを置いた。

そして小さく息を吐いた。


「……行くか」



最初に向かったのは、中学時代の友人の家だった。


「お前、久しぶりじゃん!」


「久しぶり」


「どうしたんだよ、急に」


「いや」


俺は笑った。


「ちょっと近くまで来たから」


「嘘つけ。わざわざ来た顔してるだろ」


「失礼だな」


「で、何?」


友人は、昔と変わらない顔で笑っていた。

俺は、その顔を見て少しだけ安心した。


中学時代。

俺は、こいつらとくだらないことばかりしていた。

授業中に怒られたり、帰り道に寄り道したり、どうでもいい話で笑ったりそんな時間だった。


今となってはそれが、ひどく懐かしかった。


「……なあ」


「ん?」


「今まで、ありがとな」


「……は?」


「いや、だから」


「急に何だよ」


「別に」


「お前、今日変じゃね?」


そう言って友人は俺の顔を覗き込んだ。

俺は笑った。


「ちょっと昔を思い出しただけ」


「……」


「いろいろ助けてもらったし」


「別に、そんな大したことしてねえだろ」


「それでも」


俺は頭を下げた。


「ありがとな」


「……」


友人は、しばらく黙っていた。


「なんか、お前……」


「何?」


「いや、何でもない」


俺はそれ以上、何も言わなかった。

病気のことも残された時間のことも話すつもりはなかった。


こいつらは俺にとって大切な友人だ。

だからこそ余計な心配をさせたくなかった。


それに高校の友人に伝わる可能性もある。

そして冬月澪に知られる可能性も。

俺はそれだけは避けたかった。



その後も俺は何人かの友人を訪ねた。

全員に。


「久しぶり」


と言ってくだらない話をして。

最後に。


「ありがとう」


と伝えた。

誰も何があったのか分からなかったと思う。

それでいい。


俺が死んだ後。

きっと。


「あいつ、なんで急に来たんだろうな」


くらいに思うだろう。

それでいい。

俺の死を余計な形で背負わせたくはなかった。


次に親戚の家へ向かった。


「久しぶりね」


「久しぶり」


親戚は俺の病気のことを知っている。

俺に家族はいない。


だから病院の手続きや生活のことを、何度か助けてもらったことがあった。


「体調はどう?」


「……あまり良くない」


俺は正直に答えた。

親戚はすぐに察したような顔をした。


「悪くなったの?」


「うん」


「……そう」


それ以上、すぐには何も言わなかった。

俺は椅子に座る。


「医者からは」


「数ヶ月って言われた」


親戚はしばらく黙っていた。


「……そう」


「入院を勧められたけど」


「入院はしないの?」


「しない」


「どうして?」


俺は少し考えた。


「まだ、やりたいことがあるから」


親戚は何も言わずに俺を見ていた。


「学校にも行きたいし」


「……」


「友達にも会いたい」


そして俺は、冬月澪の顔を思い浮かべた。


「……会いたい人もいる」


親戚はそれを聞いて、少しだけ笑った。


「そう」


「うん」


「なら、ちゃんと会ってきなさい」


「……」


「会えるうちに」


俺は小さく頷いた。


「そのつもり」


その日は親戚の家で少し話をした。

昔のこと俺が小さい頃のこと。

病気になってからのこと。

そしてこれまで世話になったこと。


「今まで、ありがとな」


俺がそう言うと、親戚は少し困ったような顔をした。


「そういうのは、まだ早いでしょう」


「……」


「まだ数ヶ月あるんでしょう?」


「そうだけど」


「なら、ちゃんと生きなさい」


「うん」


「お礼を言うのは、もっと先でいいの」


俺は笑った。


「……そうだな」


でも分かっていた。

俺にはそれほど長い時間が残っていない。

だから今、伝えたかった。

ありがとう、と。


それから数日。

俺は親戚の家を回った。

遠い場所へも行った。


電車を乗り継いで時には、途中で何度も休んで。

それでも会いに行った。

昔、少しだけ世話になった人。

病院へ連れて行ってくれた人。

俺の生活を気にかけてくれた人。

それぞれにありがとうを伝えた。


みんな俺の病気を知っていた。

だから俺が突然訪ねてきても、何となく察していたのかもしれない。


それでも誰も。


「死ぬのか」


とは聞かなかった。

俺も。


「もうすぐ死ぬ」


とは言わなかった。

ただ普通に話した。

昔の話をして笑って最後に。


「またな」


と言った。

その言葉を言うたびに。

俺は本当にまた会えるのか。

分からなかった。



四日目の夜。

俺はホテルのベッドに横になっていた。

身体が限界だった。

少し動くだけで胸が苦しい。


咳をする、血が出る。


「……」


俺はスマホを見る。

澪から。


『今日は何をしていますか?』


『ちゃんとご飯を食べましたか?』


『無理していませんか?』


そんなメッセージが届いていた。

俺はしばらく画面を見つめていた。


『大丈夫』


と打ちかけて消す。

代わりに。


『ちゃんと食べた』


と送った。

すぐに返信が来る。


『本当ですか?』


『本当』


『……なら、いいです』


それから。


『早く帰ってきてくださいね』


俺は少しだけ目を閉じた。


『うん』


と返す。

そしてスマホを胸元に置いた。


「……」


冬月澪。

俺が高校で出会った。

原作では誰にも救われなかった少女。

俺はあの子に、自分の病気を伝えられずにいる。


もし俺が死んだら澪はどうなるのだろう。

そんな考えが何度も頭に浮かぶ。


それでも今はまだ、言えなかった。

――俺は、約束した。


一週間後に帰ると。

だから帰らなければならない。

帰ってまた、澪が俺のベッドで眠るのを見なければならない。


「……」


俺はゆっくり目を閉じた。

残された時間は少ない。


でもまだ終わっていない。


もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。

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