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原作で負けて壊れるはずのヒロインが、モブの俺に依存してきた  作者: 東海林


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12/17

12話

終業式の日。

教室は、いつもより騒がしかった。


「明日から夏休みだー!」


篠宮朔が叫んでいる。


「うるさい」


「九條、お前は夏休み何するんだ?」


「特にない」


「寂しいな、お前」


「うるさい」


そんなくだらない会話をしていた。

でも俺は、いつもより少しだけ落ち着かなかった。


明日から学校がない。

月澪に会う理由が、なくなる。

いや別に会おうと思えば会える。


でも学校という場所がなくなれば毎日、自然に会うことはできなくなる。

そう思っていた。


「九條くん」


隣から声がする。


「ん?」


「明日から、夏休みですね」


「そうだな」


「……」


澪は少しだけ黙った。


「九條くんは、毎日何をするんですか?」


「寝る」


「……それだけですか?」


「たぶん」


「では」


澪は少しだけこちらを見た。


「毎日、会いに行ってもいいですか?」


俺は一瞬、言葉を失った。


「毎日?」


「……嫌ですか?」


「いや」


俺は笑った。


「別にいいけど」


「本当ですか?」


「うん」


澪は、嬉しそうに笑った。

その顔を見て俺も少しだけ嬉しくなった。



夏休み初日。

朝、俺はベッドから起き上がれなかった。


「……」


身体が重い、熱がある、胸が苦しい。

俺はしばらく天井を見つめていた。

やがてベッドから起き上がる。

洗面所へ向かう。


そして。


「……っ」


咳が出た。

口元を押さえる。

手のひらに赤いものが落ちた。


「……」


少し前までは血を吐くのは、数日に一度だった。

今は毎日のように出る。

量も増えている、俺は鏡を見る。

顔色が悪い。

目の下に隈がある。


「……夏休みか」


俺は、そう呟いた。

その時、インターホンが鳴った。


「……早いな」


スマホを見る。

澪からメッセージが来ていた。


『今、下にいます』


「……」


俺は思わず笑った。

俺は玄関へ向かった。


少し歩いただけで息が切れる。

ドアを開ける。


「おはようございます」


澪が立っていた。


「おはよう」


「……」


澪は、俺の顔を見た。


「九條くん」


「ん?」


「顔色が悪いです」


「寝起きだから」


「……」


澪は納得していない顔をした。

でも。


「お邪魔します」


部屋へ入った。



その日、澪は俺の家で過ごした。

テレビを見て、ゲームをして昼食を食べて。

そしてベッドで眠った。


俺は机に座っていた。

けれど体調が悪かった。

頭が痛い、胸が苦しい、呼吸が浅い。


「……」


俺は薬を飲んだ。

水を飲む。

それでも身体は楽にならなかった。


「……九條くん?」


ベッドから声がした。


「ん?」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫」


「……」


澪は起き上がった。


「また、そう言いました」


「癖だな」


「……」


澪は俺を見た。


「横になった方がいいですよ」


「俺はいい」


「よくないです」


「冬月」


「九條くん」


澪は珍しく、強い声で言った。


「ちゃんと休んでください」


「……」


俺は少し驚いた。

そして。


「はいはい」


ベッドの端に座った。

澪は少しだけ安心した。


「そこではなくて」


「え?」


「横になってください」


「……」


「お願いします」


俺はため息をついた。

そしてベッドに横になった。


澪は隣に座る。


「……」


俺は目を閉じた。

少しすると意識が遠くなった。



目を覚ましたのは夕方だった。


「……」


身体が重い、隣を見る。

澪がいる。


ベッドの横に座ったまま。


「……起きましたか?」


「ああ」


「体調は?」


「普通」


「……」


澪はため息をついた。


「九條くん」


「はい」


「普通ではありません」


「……」


「寝ている間も、何度か苦しそうでした」


「そう?」


「はい」


澪は俺の手を握った。


「病院に行きませんか?」


「行ったよ」


「今日?」


「この前」


「……何と言われましたか?」


俺は黙った。

澪は俺の手を離さない。


「九條くん」


「……」


「私は、九條くんのことを知りたいです」


俺は目を逸らした。


「大したことじゃない」


「嘘です」


澪の声が震えた。


「また……」


「冬月」


「私は……」


澪は言葉を詰まらせた。


「私は、九條くんがいなくなるのが嫌です」


俺は何も言えなかった。

まだ澪は何も知らない。


俺が数ヶ月しか生きられないことも。

夏休みが終わる頃。

俺がどれだけ悪化するかも。


全部。


「……」


俺は握られた手を見た。

澪の手は、少し震えていた。


「……大丈夫だよ」


また嘘をついた。

澪は何も言わなかった。

ただ俺の手を握り続けた。



その夜澪は帰らなかった。

正確には帰ろうとしなかった。


「……」


時計は夜の九時を過ぎている。


「冬月、そろそろ帰らないと」


「……はい」


澪は立ち上がった。

でも玄関まで行くと。


「……九條くん」


「ん?」


「今日……」


澪は振り返った。


「泊まってもいいですか?」


俺は黙った。


「家に帰りたくありません」


その声は以前よりも弱かった。

俺は、しばらく澪を見た。


そして。


「……分かった」


そう言った。


「本当に?」


「うん」


澪は少しだけ安心した。

俺は布団を出した。


「俺はソファで寝るから」


「……」


「何?」


「九條くん」


「ん?」


「……一人で寝るのは、嫌です」


俺は固まった。


「え?」


「すみません」


澪は俯いた。


「でも……」


彼女は、俺の服の裾を掴んだ。


「今日は、ここにいてください」


俺はしばらく何も言えなかった。

そして。


「……分かった」


そう答えた。


その夜澪は俺のベッドで眠った。

俺は、その隣にいた。


身体は苦しかった。

呼吸も少し辛い。

でも隣にいる澪を見ていると不思議と眠れた。


「……九條くん」


「ん?」


眠りかけの澪が呟いた。


「……いなくならないでくださいね」


俺はすぐには答えられなかった。

数ヶ月、医者の言葉が頭をよぎる。


それでも。


「……ああ」


俺は、そう答えた。

――嘘だった。


その夜、俺は初めて自分の命が尽きることを本気で怖いと思った。


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