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原作で負けて壊れるはずのヒロインが、モブの俺に依存してきた  作者: 東海林


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11/16

11話

病院で数ヶ月と言われてから、数日が経った。


俺は、いつも通り学校へ行っていた。

いつも通り授業を受けて、いつも通り、冬月澪と昼を食べていつも通り、一緒に帰った。


ただ俺の中では、時間の見え方が変わっていた。

今までなら明日もある、来週もある、来月もある。

そう思っていた。

でも今は明日が来ることを、少しだけ意識するようになった。

そして今日も、澪は俺の家に来ていた。


「お邪魔します」


「どうぞ」


もう、すっかり慣れたものだった。

澪は靴を脱ぐと、真っ直ぐ部屋へ向かう。


「……」


俺はその様子を見ていた。

最初の頃は、玄関で遠慮していたのに今では、俺の家の中を歩くことに迷いがない。


「今日は何をしますか?」


「特にない」


「そうですか」


澪はソファに座った。

俺は机で課題を始める。

いつもの光景だった。


しばらくして。


「……九條くん」


「ん?」


「少し、眠くなってきました」


「寝れば?」


「……はい」


澪はソファに横になった。

そして数分もしないうちに眠った。


「……」


俺はそれを確認して、課題に戻った。

でもしばらくすると


「……ん」


澪が目を覚ました。


「起きた?」


「はい……」


澪は眠そうに目を擦った。


「……九條くん」


「何?」


「ソファ、少し狭いです」


「そう?」


「はい」


澪はソファを見た。

そして俺のベッドを見た。


「……」


俺も、その視線を追った。


「……」


「……」


「冬月?」


「……何でもありません」


そう言いながら澪は立ち上がった。


「え?」


「少しだけ」


「何が?」


「……ベッドを使ってもいいですか?」


俺は一瞬、言葉を失った。


「俺の?」


「はい」


「……」


「嫌なら大丈夫です」


澪はすぐに言った。


「すみません。変なことを言いました」


「いや」


俺はベッドを見る。

普通のベッドだ。


俺が毎日寝ている。

そして最近は、自分が死ぬことを考える場所でもあった。


「……別にいいけど」


「本当ですか?」


「うん」


澪の顔が、少し明るくなった。


「ありがとうございます」


澪はベッドに近づく。

そして恐る恐る腰を下ろした。


「……」


「どう?」


「……落ち着きます」


「ソファとそんなに変わらないだろ」


「違います」


「そう?」


「はい」


澪はベッドの上に横になった。

枕に頭を乗せる。


そして。


「……」


目を閉じた。

俺は机に戻った。


しばらくして。


「……九條くん」


「ん?」


「ここで寝てもいいですか?」


「もう寝てるだろ」


「……そうでした」


澪は少しだけ笑った。

そしてそのまま眠った。

俺はしばらく、課題をしていた。


でもやはり、気になってしまう。

ベッドで眠る澪。


俺の枕、俺の布団、俺の部屋。

そこに冬月澪がいる。

それだけなのに妙に不思議だった。




夜、俺は薬を飲んだ。


「……」


澪はまだ眠っている。

最近、よく眠るようになった。


俺の家に来るとすぐに眠る。

それだけ安心しているということなのだろう。

そう思うと少し嬉しかった。


でも同時に、胸の奥が重くなった。

俺がいなくなったらこの子はどこで眠るのだろう。

そんなことを考えてしまう。


「……」


俺はベッドの横に座った。

澪の寝顔を見る。


長い睫毛、整った顔。

学校では、誰もが憧れる美少女。

でも今はただの眠っている女の子だった。


「……」


澪が寝返りを打つ。

そして無意識に、俺の枕を抱きしめた。


「……」


俺は固まった。


「……それ、俺のなんだけど」


もちろん返事はない。

澪はそのまま眠っている。

俺は少しだけ笑った。

そしてその笑顔は、すぐに消えた。


――あと、数ヶ月。

俺はこの光景をあと何回見られるのだろう。



「……ん」


夜遅く。

澪が目を覚ました。


「……あれ?」


「起きた?」


「……私、寝ていましたか?」


「うん」


「……すみません」


「別に」


澪は周囲を見回した。

そして自分がベッドの上にいることに気づいた。


「……」


「どうした?」


「……ベッド」


「うん」


「私、ずっとここで寝ていましたか?」


「たぶん」


「……」


澪は少し恥ずかしそうにした。


「すみません」


「だから、別にいいって」


「……本当に?」


「本当」


澪はしばらく黙った。

そして。


「……ここで寝ると、九條くんの匂いがします」


「……」


「……」


「……冬月?」


「すみません!」


澪は顔を真っ赤にした。


「今のは忘れてください!」


「いや、別に」


「忘れてください!」


「はいはい」


澪は布団に顔を埋めた。

俺は笑った。


久しぶりに心から笑った気がした。

その時胸の奥が痛んだ。


「……っ」


笑った直後、呼吸が苦しくなる。

俺は口元を押さえた。


「九條くん?」


「……大丈夫」


「また……」


澪が起き上がった。

俺は背を向ける。

手のひらを見る。


赤いまた、血が出ていた。

澪には見せない。


「……九條くん」


「平気」


「……」


澪は何も言わなかった。

でも俺の背中に近づいてきた。


そしてそっと、俺の服の裾を掴んだ。


「……」


「冬月?」


「……少しだけ」


「何が?」


「こうしていても、いいですか?」


俺は答えなかった。

澪は、俺の服を掴んだまま。


「九條くんが、いなくなりそうで」


小さく呟いた。

俺の心臓が大きく跳ねた。


「……」


「変ですよね」


「……いや」


俺は、澪の方を見た。

彼女は俯いている。


「……変じゃない」


俺はそう言った。

そして彼女の頭に手を置いた。


ゆっくり撫でる。

澪は、少しだけ目を閉じた。


「……」


俺は思った。

――いなくなるのは俺の方なのに。


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