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6話: 『吉良殿、絶対切腹しないで仕返ししてやる!』

刀を抜かない忠臣蔵です。

合法的な嫌がらせだけで、吉良邸を精神崩壊に追い込みます。

大目付は「ほほう」しか言いません。

御庭番は重要情報を漏らしますが誰も聞いていません。

謀略探偵は何でも「綱一坊一派の陰謀」と言います。

笑えます。たまに泣けます。最後は春が来ます。

全話予約投稿済み、毎日更新中。

第十章 第六話 第十章総括

一、評定の間、いつもの面々

月末の評定は、いつものように形式張った報告から始まった。大目付・金目鯛煮付之助は、丸い眼鏡の奥から、居並ぶ面々を一人ずつ見渡している。

「ほほう、ほほう」

相槌だけは変わらぬが、その目つきはここ数ヶ月、確実に何かを見極めようとする色を帯びてきていた。

二、金目鯛、ほほうと頷く

「吉良殿の御邸、近頃なにかと物入りと耳にしておりますが」

誰へともなく、金目鯛はそう呟いた。塀の修繕費、夜半の出入りの多さ、蔵の出納の不審——一つ一つは些細でも、積み重なれば形になる。

「播磨の旅の者からの便りも、近頃また増えておりましてな」

その一言に、座の空気がわずかに揺れた。

三、盲之助、また一矢

「いや、これはすべて綱一坊一派の差し金でございましょうぞ!」

盲之助が、いつものように虫眼鏡を片手に割って入る。誰もまともに取り合わない。だが彼はこう続けた。

「金目鯛殿、近頃、風向きを読むのがお上手になられた。それも、何やら裏に糸を引く者がおるのでは」

的外れな結論の中に、ほんの少しだけ核心がかすめた。金目鯛は表情を変えず、ただ「ほほう」とだけ返した。

四、風向き、確かに変わる

評定が終わり、人々が散っていく中、金目鯛は一人、廊下に残った。竪川の方角を見やりながら、彼は小さく独り言ちた。

「風向き、もはや疑いようもなし」

その声は、誰に聞かせるためのものでもなかった。

五、色部、決意を固める

吉良邸では、色部又四郎が荷物をひそかに整え始めていた。ランマル君の様子、邸の崩れ具合、すべてを見届けた今、もはや迷いはなかった。

(潮時、というものがある)

口には出さず、ただ静かに、その時を待つだけであった。

六、内蔵助、静かに次の手を思う

鉄砲洲の浅野家旧邸、内蔵助の元には、脇坂家を経由した一通の文が届いていた。来月、城中にて吉良が表に出る大きなお役目の機会がある——その一文に、内蔵助はしばし目を落とした。

「見えるものは見抜かれてよい。されど、ここから先は……」

かつて吉良邸から密かに回収し、ずっと守り抜いてきた本物の赤穂の塩細工を、そっと指先で確かめる。月明かりはまだ出ていなかったが、それでも構わなかった。

七、第十章、結び

赤穂の塩は、まだ本物のまま、誰にも知られず懐の奥にある。盲之助の懐には、赤兎馬の放った嫌がらせのクシャクシャの書状が、今宵もまた一通増えていた。すべてが揃い、解読されるその時を静かに待っている。

神無月の風が、本所と鉄砲洲、両方の屋敷の上を、同じように吹き抜けていく。何かが、確かに動き始めていた。

今宵の一句

風向きの 定まる頃や 神無月

あっちゅ寝太郎エッセイ

(第十章、振り返ってみると、吉良殿の邸はほとんど自分たちだけで崩れていったよね。誰も刀を抜いていないのに、これだけ傷んでる。金目鯛さんはもうほとんど浅野寄りだし、色部さんも腹を決めたし、内蔵助さんのところには来月の御用の話まで届いてる。盲之助くんのクシャクシャの紙切れも、あいつの執拗な嫌がらせの全貌を解き明かす鍵になりそうだ

史実をよくご存じの方であれば、吉良殿の屋敷の隣は本来、土屋主水正殿の屋敷ではないかと思われるかもしれません。

ですが、本作では作者の好みにより、あえて脇坂安治の末裔である「脇坂淡路守」殿の屋敷を隣に据えさせていただきました。ちなみにこの脇坂家、途中で養子が入って家名を繋いでいるお家柄でもあります。

なぜ脇坂殿なのかといえば、あの松の廊下の事件直後、取り乱した吉良殿にぶつかられて衣類に血を付けられた脇坂殿が、「無礼者ッ!」と吉良殿をピシャリとやったという、講談でお馴染みのあの小気味よい逸話がどうしても好きだからです。このお方なら、内匠頭の仕返しを隣でニヤニヤしながら面白がってくれるに違いないと、物語の妙としてお引越し願いました。

ちなみに、そんな風にいがみ合っていた両家も、現代ではすっかり仲直りをして和解しております。歴史の枠をちょっとだけ飛び越えた、脇坂殿の粋な立ち回りを、どうぞ温かい目でお楽しみいただければ幸いです。

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