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5話: 『吉良殿、絶対切腹しないで仕返ししてやる!』

刀を抜かない忠臣蔵です。

合法的な嫌がらせだけで、吉良邸を精神崩壊に追い込みます。

大目付は「ほほう」しか言いません。

御庭番は重要情報を漏らしますが誰も聞いていません。

謀略探偵は何でも「綱一坊一派の陰謀」と言います。

笑えます。たまに泣けます。最後は春が来ます。

全話予約投稿済み、毎日更新中。

第十章 第五話 ソソソ班長、決定的な一言

一、竪川沿い、掃除御庭番の朝

公儀お掃除御庭番という役目は、表向きは庭の手入れ、実のところは何でも屋に近い。ソソソの班長は、今朝も竪川沿いを箒片手に歩きながら、本所松坂町の方角をちらりと見やった。

「いやはや、ずいぶんと傷んでおられるご様子で」

塀の一部が傾いたままの吉良邸が、遠目にもはっきりと見える。

二、吉良邸、傷跡を見る

近づいてみれば、なおのこと。庭木は踏み荒らされ、下働きたちの顔には覇気がない。先日の「最後の差配」とやらが、結局は何ももたらさなかったことは、誰の目にも明らかであった。

「これはこれは……儂が手を入れるまでもなく、すでに崩れておるわい」

ソソソの班長は箒を持つ手を止め、しばしその光景を眺めていた。

三、脇坂邸、茶菓子のいつもの刻

昼下がり、いつものように隣の脇坂淡路守の屋敷で、お茶とお菓子の時間である。今日の菓子は、たっぷりと粉のふいた栗饅頭であった。

「して、本日のご様子は」

脇坂が問うと、ソソソの班長はいつもの調子で答えた。

「いやもう、塀は傾き、庭木は荒れ、人の顔色も悪い。あれではもう、何が起きても誰も驚きますまい」

四、決定的な一言

栗饅頭を大きな口で頬張りながら、ソソソの班長は何気なく続けた。

「来月にはまた、城中での大きなお役目が控えておるとか。あのご様子で大役を務められるものか、正直、儂は危ぶんでおりますがの。ブフッ、ソソソのソ!」

話に夢中になるあまり、栗饅頭の粉を脇坂の顔面へ思い切り吹き飛ばし、さらに勢い余って脇坂の分の饅頭まで手を出してモグモグと食べている。いつもの独り言の調子であったが、この一言には、これまでとは違う重みがあった。城中での御用——吉良が表に出ねばならぬ公式な機会の噂であった。

五、脇坂、今度は動く

脇坂淡路守は、顔についた粉を拭うのも忘れ、驚いて茶碗を置いた。

「ほう。それは、確かなことで」

「確かも何も、邸中の噂でございますよ。ソソソ」

脇坂はそれ以上深くは聞かなかった。だが、その夜のうちに、彼は一通の文をしたためた。誰に宛てたものかは、ソソソの班長はもちろん、本人すら気づかぬところで、静かに動き出していた。

六、小人の佑、算盤、悲鳴

その頃、蔵では小県小人の佑が、いよいよ手に負えなくなった帳簿を前に、算盤を弾く手を止めていた。

「小人、小人……これはもう、誤魔化しきれませぬ」

数字は、もはや言い訳の余地もないほどに膨んでいた。一学に相談しようにも、一学自身、ここのところ殿と白目の美を競い合うばかりで頼りない。

七、第十章、五話の結び

竪川の水面に、夕日が落ちていく。傾いた塀の影が、いつもより長く伸びていた。

ソソソの班長は、今日も「ソソソのソ」と呟きながら、脇坂の饅頭をすっかり平らげて何事もなかったように屋敷を後にした。自分の一言が、何かを動かし始めたことには、まるで気づかぬまま。

今宵の一句

ひとことが 風を集めて 雲となる

あっちゅ寝太郎エッセイ

(ソソソの班長、ついに「ソソソのソ」じゃ済まないレベルの情報をこぼしちゃったね。しかも脇坂様の饅頭まで勝手に食べながら粉吹くなんて、お気楽にも程があるよ。でも脇坂様も今回はただ聞き流すだけじゃなくて、ちゃんと動いてる。本人だけが何も気づいてないの、もう様式美だけど、そろそろ笑えなくなってくる頃合いかも。小人の佑くんの算盤も悲鳴上げてるし、十章、最後の総括に向けて、静かに色々詰みあがってきたなぁ。)

史実をよくご存じの方であれば、吉良殿の屋敷の隣は本来、土屋主水正殿の屋敷ではないかと思われるかもしれません。

ですが、本作では作者の好みにより、あえて脇坂安治の末裔である「脇坂淡路守」殿の屋敷を隣に据えさせていただきました。ちなみにこの脇坂家、途中で養子が入って家名を繋いでいるお家柄でもあります。

なぜ脇坂殿なのかといえば、あの松の廊下の事件直後、取り乱した吉良殿にぶつかられて衣類に血を付けられた脇坂殿が、「無礼者ッ!」と吉良殿をピシャリとやったという、講談でお馴染みのあの小気味よい逸話がどうしても好きだからです。このお方なら、内匠頭の仕返しを隣でニヤニヤしながら面白がってくれるに違いないと、物語の妙としてお引越し願いました。

ちなみに、そんな風にいがみ合っていた両家も、現代ではすっかり仲直りをして和解しております。歴史の枠をちょっとだけ飛び越えた、脇坂殿の粋な立ち回りを、どうぞ温かい目でお楽しみいただければ幸いです。

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