表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/68

3話: 『吉良殿、絶対切腹しないで仕返ししてやる!』

【第六章 3話】(六月・水無月)

タイトル:嘘スケジュールトラップと、大高源五の大鼠ハッキング

1.小タイトル:勅使饗応の日取りと、江戸城本丸の緊張

六月も下旬に差し掛かり、江戸城本丸では、来たる七月の勅使饗応に向けた準備が本格化しておりました。本丸御殿の長い廊下には、儀式に用いる調度品が次々と運び込まれ、上級旗本たちの草履の音がパタパタと忙しく響いております。

高家筆頭・吉良上野介もまた、この日取りの管理を任されておりました。

「なはは! 小人、小人、いよいよ仕上げの段階じゃ。あの『嘘の儀式スケジュール』、できておるか?」

「ハッ、こちらに……。当日の刻限を、寅の刻(午前四時)から卯の刻(午前六時)へと、二刻ほど遅らせて記してございます。これを浅野様、亀井様にお渡しすれば、お二人は当日、定刻より遅れて参上することとなり……」

「うむ、それでよいのじゃ! 浅野めらに恥をかかせるには、遅刻させるのが一番! さすが小人、たまには鋭いではないか、なはは!」

小県小人の佑は、「卯の刻」と記した嘘のスケジュールを完成させました。これを浅野家、亀井家に渡せば、両家は本来の登城刻限である寅の刻に遅れ、勅使の前で大恥をかくという算段でございました。

2.小タイトル:嘘スケジュールの手渡しと、内匠頭の静かな受領

その日の夕刻、吉良邸の奥座敷にて、上野介は浅野内匠頭、亀井茲親の両名を呼び出し、恭しくスケジュール表を手渡しました。

「これが勅使饗応当日の正式な刻限表じゃ。よいか、当日は卯の刻(午前六時頃)に登城せよ。これより早くても遅くても、無礼にあたるぞ」

実際の登城刻限は寅の刻(午前四時頃)。一刻早い「正しい刻限」を知らぬまま登城すれば、浅野家と亀井家は大幅な遅刻となり、勅使を待たせる大失態となる仕組みでございました。

内匠頭は刻限表を丁寧に受け取り、目を通すと、いつもの涼しい顔で頷きました。

「なるほど。卯の刻登城。100%ロジカルにインプットいたしました。我が家臣一同、当日は遅れることなく参上いたします」

「ふふふ、よいよい。しっかりと『学んで』くだされよ」

3.小タイトル:赤兎馬の陽動と、眠る班長の横をすり抜けるハットリ君

その夜、本所松坂町には、お決まりの爆走が駆け抜けました。

「また、お届け物でぇ〜す。」

時速百キロの赤兎馬(実は安兵衛殿の疾風ダッシュ)が吉良邸の門前を爆走し、クシャクシャの書状を投げ込んで消えていく。

「出たな、闇の組織ッ! 今宵こそ、この一学が成敗してやるわァァァ!」

神君拝領のユンビタA丸と高麗人参で気力満々の清水一学は、物見櫓から飛び降りると、赤兎馬の去った方角へ猛然と追いかけていきました。屋敷の警備の要が、まさに屋敷の外へと飛び出していった瞬間でございます。

その頃、吉良邸の縁側では、公儀お掃除御庭番のソソソの班長が、昼間に振る舞われた茶菓子に仕込まれていた遅効性の眠り薬が効き始め、「ふぁ……ソソソ……の……」と縁台に座ったまま、見事な居眠りを決め込んでおりました。

「ニンニン。一学殿は外、班長殿は夢の中。さあ、行くでござる」

闇の中から現れたのは、エリート隠密のハットリ君。三章で柳沢家の金庫番を完璧にハッキングした、あの男でございます。ハットリ君は懐から一匹の大鼠を取り出し、眠る班長の横をソソソと音もなく通り過ぎ、吉良邸の奥座敷――上野介自身が保管する「本物の刻限表」の文箱へと、大鼠を案内したのでございます。

4.小タイトル:文箱のすり替えと、大高源五の見張り

奥座敷の外、庭先では、俳諧と剣の両道に通じ、江戸の文化人たちの間でも名の知れた赤穂藩士・大高源五殿が、静かに気配を消して見張りに立っておりました。

「ニンニン。源五殿、文箱、開けるでござる」

大鼠は文箱の隙間へと潜り込み、墨を含んだ小さな筆を器用に操って、上野介自身が保管する「本物の刻限表」の文字を、カリカリと書き換えていきました。寅の刻と書かれていた部分が、すべて卯の刻へと変わっていく――つまり、吉良上野介自身の手元にある「正しい記録」のほうが、嘘の刻限に書き換えられてしまったのでございます。

「……ニンニン、完了でござる」

ハットリ君が文箱を元通りに閉じ、大鼠とともに庭先へ戻ると、源五殿が小さく頷きました。

「うむ、ご苦労であった。さて、一学殿が戻ってくる前に……」

5.小タイトル:盲之助の的外れな一矢・その三、源五の冷や汗

ちょうどその時、吉良邸の宿直部屋では、幕府書院番組頭次席として出向中の豪文字盲之助殿が、刻限表の控えを虫眼鏡で覗き込んでおりました。

「むむむ……『卯の刻』『寅の刻』……二つの刻限が記されておる……。ハッ!! これは、綱一坊一派が時間そのものを操る『時間ハッキング』の暗号に違いないッ! 卯の刻と寅の刻、二つの時を同時に存在させることで、勅使饗応そのものを『なかったこと』にする企みだァァァ!」

盲之助殿はすりこぎ筆を握り、障子に「二つの刻限=時間侵略!」と巨大な豪文字をバリバリと書き殴り始めました。

ちょうどその時、庭先で引き上げようとしていた大高源五殿は、この豪文字の声を耳にしてしまい、ギクリと足を止めました。

(……『二つの刻限』……? ま、まさか、こちらが今まさに行った『刻限表のすり替え』が、もう見抜かれているのでは……!?)

源五殿は冷や汗をかきながら、しばし息を潜めて様子を窺いましたが、続く盲之助殿の言葉を聞いて、すぐに肩の力を抜きました。

「……間違いない! 二つの刻限が交差する刹那、綱一坊一派は本丸御殿の天井裏から将軍家の御落胤を担ぎ出す計画だァァァ!」

「……ふっ。なんと、的が外れておった。盲之助殿は、ただ吉良殿自身が書いた嘘の刻限と、本物の刻限の『書き間違い』を、陰謀の暗号だと思い込んでおられるだけか。危ないところでございました」

源五殿は静かに息をつき、ハットリ君と大鼠とともに、ソソソと闇の中へ消えていきました。

6.小タイトル:勅使饗応前夜、二つの刻限表とスケジュール大バグ

一方、屋敷の外へ赤兎馬を追いかけていった清水一学は、いつものように何も捕らえられぬまま、肩を落として戻ってまいりました。

「……今宵も、奴を捕らえることはできなかった……。だが、この一学、屋敷を離れていた間に何も起こらなかったか、念のため確認せねば」

一学が宿直部屋へ戻った頃、縁側ではソソソの班長が「ふぁ……ソソソ……」と、何も知らずに気持ちよさそうな寝言を続けておりました。

数日後、勅使饗応を翌日に控えた夜。吉良邸では、最終確認のために両方の刻限表が並べられました。

「小人、小人、念のため、本物の刻限表と、浅野たちに渡した刻限表を確認するぞ」

小県小人の佑が二枚の紙を並べたところ、上野介は怪訝な顔をいたしました。

「……む? どちらにも『卯の刻』と書いてあるではないか。……いや、確かにワシは浅野たちには卯の刻と教え、本物の記録には寅の刻と書いたはず……。小人、お前が書き間違えたのではないか!?」

「は、はい……? 確かに寅の刻と記したはずにございますが……も、申し訳ございません……!」

小県小人の佑は、訳がわからぬまま頭を下げるしかございません。実際には、ハットリ君と大鼠によって本物の記録のほうが書き換えられていたのですが、吉良邸の誰もそれに気づくはずがございません。

「ええい、まあよい! どちらも卯の刻ならば、問題はなかろう! 明日は卯の刻に登城じゃ!」

こうして、吉良邸全体が「卯の刻登城」で動くことが確定し――そしてそれこそが、本来の正しい登城刻限そのものでございました。

竪川を渡る夜風が、本丸御殿の方角からひんやりと吹き込み、本所松坂町は勅使饗応前夜の、静かながらも緊張をはらんだ夜を迎えるのでございました。

【今宵の一句】

二つの刻 書き換えられて ひとつなり

【あっちゅ寝太郎エッセイ】

(吉良殿、浅野殿と亀井殿を遅刻させようと「嘘の卯の刻」を教えたつもりが、ハットリ君と大鼠の連携ハッキングによって、お前自身の「本物の刻限表」のほうが書き換えられてしまったよ。一学殿が赤兎馬を追って屋敷を空け、班長殿が眠り薬で夢の中という、まさに完璧な隙の時間帯を見事に突いたねぇ。結果、両方とも卯の刻――つまり、正しい登城刻限で一致してしまい、お前の嘘は嘘でなくなってしまったよ。幕府出向の盲之助殿はまたしても「二つの刻限=時間侵略!」と的外れに叫び、当代一の文化人・大高源五殿を一瞬ギクリとさせたが、結局は吉良殿自身の書き間違いを陰謀だと勘違いしているだけだったよ。さあ、明日はいよいよ勅使饗応当日。お前の嘘のスケジュールトラップ、まさかの不戦敗で終わってしまったが、お次の第4話は、コンサル料という名の財宝の逆流が静かに進行するよ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ