4話 : 『吉良殿、絶対切腹しないで仕返ししてやる!』
【第五章 4話】一応完
:泥水のイライラと、吉良上野介の理不尽ロックオン
1.小タイトル:泥水まみれの吉良邸と、尻尾なき虚無
「小人、小人〜! 上野介様、もはや一刻の猶予もございませぬ! 清水殿の『東照大権現デバッグ』のせいで、屋敷中の排水口がユンビタAの空き瓶で完全に目詰まりいたしました! 逆流した竪川の泥水が、ついに上野介様のお部屋にまで浸入しておりまする〜!」
金庫番の小県小人の佑が、泥水に濡れたソロバンを頭の上に乗せながら、セコセコと悲鳴を上げて転がり込んできました。
「な、なんじゃとおおぉぉッ!?」
吉良上野介が慌てて床下を見ると、そこには生暖かい泥水がプクプクと泡を立てて湧き上がっておりました。上野介は「ヒェェーッ!」と悲鳴を上げ、棚の上に飾ってあったお気に入りの「赤穂の塩細工(中身は偽物)」をハッと両腕で抱きかかえ、泥水から必死に死守いたします。
「危ないところじゃったわい! ワシの最高のマウントコレクションが泥まみれになるところじゃった! ……しかし誰じゃ! 一体どこのどいつが、我が完璧なる吉良邸のインフラに、このような陰湿な水攻めなどを仕掛けてきたのじゃッ! 清水一学、説明せよッ!」
上野介が怒鳴り散らしますが、ユンビタAのバグから静かに半覚醒した防衛隊長・清水一学は、泥水の中で静かに首を振りました。
「……申し訳ございませぬ、殿。どこをログしても、誰かが意図して侵入した形跡は何も掴めぬのでございます。何分、ここ本所松坂町は周りが工事だらけの新興住宅地。おまけに近くで行われている幕府の突貫治水工事の配管エラーが重なり、エリア全体の排水が大バグを起こした模様。すべては悪天候による不運な偶然にございます……!」
「ええい、役立たずめッ! 証拠がないなど、そんな虚無な報告があるかァッ!」
宿直部屋の奥では、豪文字盲之助殿が「この泥水の流れ方……ハッ! 竪川の水脈そのものが綱一坊一派にハッキングされておるのだァァァ!」と白目を剥きながら、ずぶ濡れの障子に「水脈=綱一坊の支配下!」と極太筆でバリバリと書き殴っておりますが、吉良邸内はただ、異臭を放つ泥水と、犯人の特定できないイライラという名の最悪の精神バグに包まれていくばかりでございました。
2.小タイトル:お決まりの爆走と、班長のお茶会
翌朝、泥水の引いた吉良邸の前を、ソソソの班長と小栗金満路殿が楽しそうにお茶を飲みながら通りかかりました。
「いやぁ、昨夜の泥水騒ぎは大変でしたねぇ。新興住宅地は何かとトラブルが多うございますなぁ、ソソソのソ」
「へへ、金満路さん、建前の調査お疲れ様です。げんばの天ぷら蕎麦でも手繰ってくださいよ」
「おほぉ! ありがたい、ソソソのソ」
最高権力者の裏切り金庫番と公儀の隠密が、浅野土木部の面々と一緒になって楽しそうにお茶を飲んでいる。その目の前を、絶望に震える清水一学が、今日もトゲのない茨の道でカニ歩きしながら通りかかりました。
「は、班長殿……! 小栗殿まで……! 職務を忘れて何をしておられるのかッ!」
「あー、清水殿。これも周辺の環境調査でございますよ。異常なし、異常なし。お侍様もカニ歩きなんてしてないで、一杯いかがです?」
班長がお茶をズズーッとすすりながらユルく返します。一学は悔しさと孤立無援の惨めさに涙目のまま、カニのようにもぞもぞと茨の奥へ退散していくのでございました。
その夜も深夜の本所松坂町に、お決まりの突風が駆け抜けました。
「また、お届け物でぇ〜す。」
クシャクシャの書状がフリスビーのように飛び込んできましたが、今宵の一学はそれを拾う気力すらなく、ただ泥の乾いた床板の穴を眺めながら夜明けを待つのでございました。
3.小タイトル:上野介の理不尽ロックオンと、いじめやすいターゲット
翌朝、無事だった塩細工を大事そうに脇に抱え、濡れた畳の上で地団駄を踏んでいた吉良上野介は、突如として考えるのをピタッとやめました。目を皿のようにして周囲を睨みつけると、ギラリと嫌な光を宿らせてフンと鼻を鳴らしたのです。
「……う〜ん、ええい! お上の治水工事のバグじゃと? すべては偶然の重なりじゃと? そんなことは、もはやどうでもよいわッ! 誰の仕業にせよ、ワシのこの泥水のイライラが100%収まらぬのじゃ!」
上野介はニヤリと下品な笑みを浮かべ、江戸城のある西の空を指差しました。
「それならば、この江戸城内で、今一番ワシがいじめやすく、マウントを取りやすい小人は誰じゃ……? ……そうじゃ、浅野内匠頭と亀井茲親だぁァァッ! 幕府の工事への文句などどうでもよい、あやつらを徹底的に圧殺して、このワシのストレス発散のバックエンドにしてくれるわい!」
浅野と亀井の完璧なハッキング工作は完全に隠蔽されたまま。ただ「いじめやすいから」という狂気極まる理不尽脳だけで、ターゲットを完全ロックオンした吉良上野介。
宿直部屋の奥では、盲之助殿が「上野介様の目の動きから割り出した! 次の綱一坊のターゲットは浅野と亀井だァァァ!」と、またしても偶然に正解をかすめながら、全力で엉뚱한 方向へバグり散らかしております。
4.小タイトル:松の廊下を人質に、恐怖の行儀見習いコンサル契約
数日後、江戸城の一室。
吉良上野介は、来たる朝廷からの勅使を迎える国家イベント「勅使饗応」の最高責任者という立場を人質に取り、浅野内匠頭殿と亀井茲親殿を呼び出しました。その傍らには、ユンビタAの残響でまだ目が怪しく光っている清水一学と、ソロバンをパチパチ叩いて「コンサル費用」を計算する小県小人の佑が控えております。
「なははは! 内匠頭殿、そして亀井殿! 聞けばお主たち、今度の国家プロジェクトでのご儀式、何一つ作法を知らぬそうではないか。今のままでは、朝廷のVIPを前にして100%大爆死、お家断絶の間違いなしでございますぞ!」
上野介は、抱きかかえた「赤穂の塩細工」をこれみよがしに机にドンと置き、高圧的な態度でマウントを仕掛けます。
「そこでじゃ! 高雅のカリスマたるこのワシが、直々にお主たちの『行儀見習い最高顧問』になって進ぜよう。もちろん、コンサル料は通常の三倍、吉良家のバジェット修繕費として、今すぐこの場で契約してもらうぞ、なはは!」
吉良上野介が突きつけたのは、わざと間違ったドレスコードや嘘の儀式スケジュールを掴ませて大恥をかかせるための、理不尽極まりない「いじめ強制契約」でございました。
しかし、呼び出された浅野内匠頭殿は、少しも動じることなく、いつもの涼しい冷徹なシステムエンジニアのような顔で、吉良のコンサル指示書を静かに見つめました。
「なるほど。吉良上野介殿。その理不尽なマナープロトコル、100%ロジカルにインプットいたしました。我が浅野家、そのコンサルティング、謹んで受託いたします」
「……ぬ? な、なんじゃ、そのスカした態度は……!?」
怒るどころか、精密機械のように淡々と契約を受け入れた内匠頭の態度に、上野介は一瞬、口をパクパクさせました。
しかし、内匠頭が裏でニヤリと笑っていたことを、上野介は知る由もありません。浅野内匠頭の脳内ではすでに、安兵衛殿や大高源五殿らと連携し、吉良の「嘘コンサルの矛盾」を逆手に取って吉良自身をセルフ自爆させるための「ステルス逆ハッキング・プロトコル」が、ソソソと起動していたのです。
こうして、泥水まみれの五月は幕を閉じ、舞台はいよいよ吉良の嘘コンサルと浅野のデータ書き換えバトルが火を噴く、六月の「コンサルいじめフェスティバル・風雲吉良城」へと、激しくバグを孕みながら突入していくのでございました。
【今宵の一句】
いじめにと ロックオンされ 梅雨晴れる
【あっちゅ寝太郎エッセイ】
(吉良殿、泥水の原因も犯人も最後までわからないまま、ただ「いじめやすいから」という理由で浅野殿と亀井殿をロックオンしてしまったねぇ。お前の隣で盲之助殿が「綱一坊の次のターゲットは浅野と亀井だァァァ!」と偶然に正解をかすめながら全力でバグり散らかしているのが、実に愛おしいよ。浅野と亀井の仕掛けは完璧に隠蔽されたまま、お前だけが泥水のイライラを抱えて理不尽な逆襲を始めるわけだが、その逆襲の矛先を受ける内匠頭が「謹んで受託いたします」と涼しい顔で返してきたときのお前のパクパク顔は、実に見物だったねぇ。さあ、六月の風雲吉良城では、お前の嘘コンサルと浅野のステルス逆ハッキングが、盛大に火花を散らすよ。松の廊下の掃除をしっかりしておくがいいよ)




