2話: 『吉良殿、絶対切腹しないで仕返ししてやる!』
【第五章 2話】
:亀井引っ越しと、魔石を抱いた可愛い水攻めの始まり
1.小タイトル:上野介のマウント自慢と、小県小人の佑のバジェット悲鳴
「なははは! 見たか小人、田舎大名の亀井めが、ワシの高雅なマナーを直々に学ぶために頭を下げて引っ越して来おったわ!」
能の興行からホクホク顔で帰還した吉良上野介は、お気に入りの「赤穂の塩細工(中身は偽物)」を愛おしそうに撫でながら、高笑いを響かせておりました。
その傍らで、吉良家のリアル金庫番である小県小人の佑は、ソロバンをパチパチとセコセコ叩きながら、涙目で首をすくめます。
「はぁ、名誉な公儀決定にございます……が、小人、小人。お隣の引っ越し工事のホコリと長雨の湿気対策やら、物資の滞りやらで、吉良家の今月のバジェットはすでに火の車にございますれば……」
「喧しいわ! 田舎大名がワシの足元にひれ伏すのじゃ、これ以上の快感があろうか!」
上野介が極上のマウントに泥酔しておりますが、この完璧すぎる大義名分を裏でビルドしたのが浅野内匠頭殿であるとは、夢にも思っていませんでした。
2.小タイトル:お決まりの爆走と、盲之助の豪文字新説
その夜、深夜の本所松坂町に、例のお決まりの突風が駆け抜けました。
「また、お届け物でぇ〜す。」
郵便赤マークのゼッケンを胸に貼った誰かが、時速百キロの猛ダッシュで吉良邸の門前を爆走し、クシャクシャの書状をフリスビーのように投げ込んで消えていった。
「出たァァァ! 今宵もまた、闇の組織のポスティングだァァァ!」
不眠症の限界を迎えた清水一学が、涙目で書状をひったくって宿直部屋へ籠もります。宿直部屋では豪文字盲之助殿が虫眼鏡を目にハメて待ち構えており、書状を覗き込むや否や白目を剥いて叫びました。
「ハッ! この数式の配列……『亀井の引っ越し』こそが、綱一坊一派の江戸進出ハッキングの暗号だァァァ!」
「な、何ぃぃぃ!! 亀井殿まで綱一坊の手先だというのかァァァ!」
盲之助殿はすりこぎ筆に墨をドップリつけ、「亀井=綱一坊の刺客!」と巨大な豪文字を障子にバリバリと書き殴って一人でバグり散らかしております。
その障子の外では、ソソソの班長が新築現場の縁台に腰掛け、大河原棟梁たちとお茶をすすりながら呑気に世間話をしておりました。
「いやぁ、亀井様のお引っ越しは実に賑やかで、ソソソのソ。ところで吉良邸の隠し蔵の警備、最近は特に夜間が手薄と聞きましたが……」
班長はいつものように悪気もなくツルリと漏らし、大河原棟梁が「へえ、そうっすか」とニヤリとうなずきます。
一方、宿直部屋の奥では盲之助殿が「亀井家の家老・多胡外記こそ綱一坊の参謀に違いないッ!」とさらに豪文字の新説を展開しており、一学は涙目でそれを聞きながら夜明けを迎えるのでございました。
3.小タイトル:多胡外記の「新興住宅地おべっかコンサル」と、魔石の静かな起動
翌朝、工事のホコリが吉良邸の調度品に積もっていることに気づいた清水一学が、目を血走らせて文句を言いに参りますと、そこへ亀井家のスマートな家老・多胡外記殿が上品なお茶を手にソソソと現れました。
「いやぁ、一学様、お隣の工事のホコリ、大変失礼しております。何分、ここ本所松坂町は、最近お上が切り開いたばかりの『新興住宅地』でございますからな。地盤が緩く、風が吹けば砂が舞い、お互い色々トラブルがございますねぇ。……それに比べ、吉良様のこの防護柵は、まるで難攻不落の要塞! 新興の地でこれほどのセキュリティを構築されるとは、流石は清水様、恐れ入りました!」
「う、む……新興住宅地、なれば致し方なし、か……。いや、我が防衛術を理解するとは、多胡殿、貴殿は話がわかる」
多胡殿の流れるような「新興地言い訳コンサル」とおべっかに、一学の疑念は一瞬で無力化されました。
そして多胡殿はにこやかに続けます。
「それはそうと、このジメジメとした湿気も難儀でございますねぇ。これなるは我が津和野藩秘伝の『お清めのハイテク魔石』。邸内をサラサラに乾燥させる、実に優れものにございます。どうぞご遠慮なく床下においてくださいませ」
上野介は大喜びでこれを屋敷の床下へ大量に配置させましたが、この魔石こそ、浅野土木部が仕掛けた恐怖の「水攻め逆流インフラ」への呼び水。多胡外記が去った後、亀井邸の新築現場の床下では、水田氾濫の佑が静かにバルブをカチャカチャと調整しておりました。
「へへっ、魔石、設置完了っす。あとは梅雨の長雨を待つだけっすね、大河原の兄貴」
「ああ。焦らず、ソソソとな」
さて、その頃、宿直部屋では吉良上野介が、ノイローゼ気味の一学の顔をしげしげと眺めて、珍しく眉をひそめておりました。
「……小人よ、一学の顔色が酷いではないか。あれではまともな警護もできまい」
「おっしゃる通りにございます、小人、小人。何か手立てはございませぬものか……」
上野介はしばし考えると、蔵の奥から小ぶりな蓋付きの薬壺をソソソと取り出しました。
「これなるは、神君家康公が諸大名へ広くお配りになったと伝わる、秘伝の超スタミナ薬『ユンビタA丸』じゃ。高家筆頭たる吉良家には、ありがたくもその拝領品が眠っておった。一学に飲ませてシャキッとさせよ」
「かたじけのうございます、上野介様、小人、小人!」
吉良邸の床下に、ほんのわずかな水の音が、チョロ……チョロ……と忍び込み始める中、善意のユンビタA丸が一学の手元へと届けられていくのでございました。
【今宵の一句】
新興の 地盤のせいにと 魔石置く
【あっちゅ寝太郎エッセイ】
(吉良殿、亀井様が「お隣に来てくれた」だけで大満足のマウントに酔いしれているところへ、多胡外記殿がニコニコと「お清めの魔石」を差し出してくれたねぇ。お前が床下に大切に並べているそれ、実は竪川の泥水をソソソと集めてくる、浅野土木部特製の可愛い水道管だよ。宿直部屋では盲之助殿が「亀井=綱一坊の刺客!」と障子を豪文字で真っ黒にしていて、班長はお茶を飲みながら夜間警備の手薄情報を漏らしている。そしてお前が一学を心配して持ち出した神君拝領のユンビタA丸、あれが次の話でとんでもない大バグを引き起こすよ。善意というのは、時に一番恐ろしいねぇ)




