2話: 『吉良殿、絶対切腹しないで仕返ししてやる!』
【第四章 2話】(小タイトル:吉良のインフラ「茶会」の完全ハッキング)
1.朝霧の入場と、大高源五の真空飛び膝蹴り
四月も半ばを過ぎ、吉良邸の庭園には朝霧がしっとりと降りておりました。美しく水が打たれた飛び石の緑が朝日に濡れて鮮やかに映え、本所松坂町の屋敷は、最高級の外交サロンとしての風雅な佇まいを見せている。
今宵催されるは、吉良上野介が最も深いプライドをかける「春の大茶会(桜の宴)」。その賓客として、時の権力者・柳沢吉保殿の愛娘である若き令嬢、柳沢の姫君が、厳かにお姿を現し、まさに茶室へと入場されようとした、その瞬間のことでございました。
内匠頭が仕掛けた「真のハッキング作戦」が、早くもここで発動いたします。
浅野家子飼いの隠密「大鼠」が、姫君の足元を狙って、床下からソソソと勢いよく飛び出してきたのである。
「きゃーっ! 鼠、大鼠でございます!」
姫君が美しくおののき、お付きの者たちが慌てふためくその刹那。
浅野家のお供として控えていた文武両道のイケメン・大高源五殿が、家格の垣根を飛び越え、着物の裾をハラリと翻して風を切り裂くような、演技の軽い「真空飛び膝蹴り」を鮮やかに繰り出した!
ズバァァン! と見事な風切り音が響く。蹴られた大鼠の方もプロの隠密でございますから、蹴られる瞬間に姫君には決して見えぬ角度で、源五殿に向かって「ウィンクしながら、バイバイちゅう」と小さく手を振り、そのまま天井裏へと消え去っていった。
「あ、鮮やか……。何という武勇……」
入場早々、危機を救われた柳沢の姫君は、源五殿の強さと美しさに最初から完全にハートをハッキングされ、感謝の眼差しを熱く注がれたのでございます。
2.いびりを粉砕する、器の銘と言いきり
お茶会が始まると、最初から見せ場を奪われてへそを曲げた吉良上野介は、浅野師弟を「田舎大名」と見下し、わざと難しい茶道具を差し出して恥をかかせようと、意地悪く微笑みました。
「内匠頭殿、我が吉良家伝来のこの茶碗、いかなる銘があるか、お分かりになるかな? なはは、風雅を知らぬお国柄には少々難しかったかのう」
しかし、内匠頭は全く動じることなく、器を静かに手に取ると、吉良の顔を真っ向から見据えて言い切った。
「これは千利休居士が愛した珠玉の逸品、銘は『黒楽茶碗・禿』。我が赤穂の塩がもたらす知性と教養を侮られぬよう」
完璧な目利きで銘をビシッと言い切られ、吉良は度肝を抜かれて言葉を失いました。さらに、庭の桜を見た俳諧の番でも、大高源五殿が春の夜の美しさと柳沢家の繁栄をそれとなく寿ぐ、天下一品のみやびな俳句をサラリと詠み上げたのでございます。
吉良は「おのれ、わしの茶会なのに、最初から最後まで、すべての見せ場と柳沢家への点数を浅野に持っていかれた!」と、顔を真っ青にして歯噛みするしかございませんでした。
3.その裏で、一人バグり続ける盲之助
お茶会が浅野側の完全勝利で静かに進む中、吉良邸の宿直部屋の奥では、豪文字盲之助殿が虫眼鏡で「お茶会の座席表」と「大高源五の動線」を必死に覗き込んでおりました。
「……むむむ! 浅野内匠頭の座る位置と、大高源五の真空飛び膝蹴りの放物線……。この角度は……ハッ! 『綱一坊一派』の暗号通信(打電)だッ! あの大鼠は、上様のご落胤の使い魔に違いないッ!」
盲之助殿は白目を剥きながら興奮し、すりこぎ筆に墨をドップリつけると、吉良邸の大切な障子に向かって「綱坊、膝を蹴る!」と巨大な豪文字の考察をバリバリと書き殴って一人でバグり散らかしている。
派手にインフラを壊すことなく、教養と人望を完璧にハッキングして奪い去り、吉良の脳と一学たちのノイローゼをさらに深めて、物語は次なる「爆音蕎麦打ち」の五月蝿い夜へと向かっていくのでございました。
(第3話へ続く)
【今宵の一句】
膝蹴りに ハートも跳ねる 春の茶会
【あっちゅ寝太郎エッセイ】
(吉良殿、お茶会が始まる前から柳沢の姫君の信頼を奪われ、利休の銘までビシッと言い切られて、お気の毒だねぇ。お前が田舎大名と見下している間に、内匠頭と大高源五殿は完璧なハッキング(武勇と教養)を決め、宿直部屋では盲之助殿が障子を豪文字で真っ黒にしているよ。さあ、これでお前たちの精神がじわじわと削られたところで、お次の第3話は、隣から俵星玄蕃殿の二十四時間爆音蕎麦打ちノイズが降ってくるよ。耳栓の準備はできているかねぇ)




