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第四章 1話:『吉良殿、絶対切腹しないで仕返ししてやる!』

【第四章 1話】(小タイトル:お決まりの爆走と、一学の「天一坊ノイローゼ」の深化)

1.春の夜の静寂と、新たなる爆音の襲来

四月(卯月)に入り、江戸の街にはようやく冬の刺すような寒さが和らぎ、春の柔らかな夜風が吹き始める季節となりました。本所松坂町の吉良邸周辺も、昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、夜桜の surveillance(見張り)を兼ねた物見櫓の灯火が、おぼろ月夜の中にぽつりと浮かんで、実に風情ある佇まいを見せておりました。

しかし、こののどかな春の静寂は、浅野側のさらなる進化によって、またしても無残にぶち破られることになります。

深夜、静まり返った吉良邸の門前を、郵便赤マークをつけた「爆走する大八車(F1風)」が猛烈な勢いで駆け抜け、車輪と路面の間から激しい火花を散らしながら激走していった。

あまりの轟音とスピードに門番たちが腰を抜かす中、大八車の上から、あの耳慣れた音速の残響ボイスが叩きつけられた。

「また、お届け物でぇ〜す。」

その声と共に、クシャクシャに丸められた新たな暗号文がフリスビーのように投げ込まれ、大八車は一瞬で闇の彼方へと消え去っていった。

2.左右田たちの警戒と、一学の限界突破

門前の大騒ぎに、吉良邸の宿直部屋から切れ者の左右田孫兵衛や小林平八が飛び出してきた。

「バカな! 今宵は馬ではない! 馬から車に進化したぞ!」

「何という速度だ……! 屋敷の防衛ハッキング警戒をさらに引き上げねばならん!」

左右田たちが青ざめて門前を警戒する中、肝心の防衛隊長である清水一学は、もはや車のことなど眼中にございませんでした。

一学は物見櫓から駆け下りると、クシャクシャの書状をひったくるようにして宿直部屋へ籠もってしまった。書状の端に書かれた、内匠頭が適当に並べた数式と、安兵衛が「ロープの絵」と「一本の木(坊)」を適当に書き殴った落書きを前に、一学のバグった脳は完全に限界を迎えていたのである。

「分からん……。拙者のダンボの耳を以てしても、この数式とロープの絵の裏にある巨大な陰謀が解読できん……。だが、これは絶対にただの嫌がらせではない。お家はおろか、幕府を揺るがす闇の組織の告発書だ……!」

一学は涙目で頭を抱え、自分の力だけでは解決できぬと悟ると、人脈を頼って、ある一人の「専門家」を極秘裏に吉良邸へと呼び寄せることにいたしました。

3.豪文字 盲之助の参入と、捏造された「綱一坊」の幻影

一学の呼び出しに応じて、真夜中の吉良邸の宿直部屋へソソソと忍び込んできたのは、幕府書院番組頭次席・豪文字ごうもんじ 盲之助めくらのすけ殿であった。

盲之助殿は、幕府きっての暗号・記録の専門家として知られるインテリ幕臣であり、その筆使いは実に豪快で大胆。しかし、致命的なことに「極度の近眼(眼が非常に弱い)」という弱点を持っていた。

「清水殿、お上の耳に達してはならぬ極秘の暗号とは、一体これのことか……」

盲之助殿は、持参した特大の虫眼鏡を目にハメるようにくっつけ、鼻先が紙にすれるほど顔を近づけて、クシャクシャのなげぶみを覗き込んだ。

「……むむむ! これは……! 拙者の鋭い眼(※すれすれの近眼)は誤魔化されんぞ! この『ロープの絵』と、隣にある『一本の木(坊)』の文字……。ハッ!! つ、綱……坊……? 『綱一坊つないちぼう』!! 将軍・徳川綱吉公の『綱』の字を冠する、この世に存在してはならぬ闇の組織の挙兵計画だァァァ!」

「な、何ぃぃぃ!? 綱一坊一派の陰謀でございますかァァァ!」

浅野側がただのイタズラで描いた落書きを、深読みしすぎる盲之助殿が、脳内で最悪のハッキング(捏造)をしてしまったのである。まだほんのりと煙る程度のただの落書きが、盲之助殿の勘違いによって、特大の国家機密へと化けてしまいました。

4.巨大な豪文字と、二人だけの自滅ドタバタ

興奮のあまり白目を剥いた盲之助殿は、懐から「すりこぎ」のような極太の筆を取り出すと、インクをなみなみとつけて叫んだ。

「おのれ闇の組織! 拙者がその暗号ルートをすべて暴いてくれるわ!」

盲之助殿は、大胆すぎる筆使いで、吉良邸の真っ白な障子や壁に向かって、「綱一坊、東へ進む!」「敷居をまたげ!」と、巨大な豪文字で勝手な考察をバリバリと書き殴り始めたのである。

「盲之助殿、声が大きい! 敷居をまたぐとはどういうことですな!?」

一学が慌てて止めようとするが、盲之助殿は「眼が弱い」せいで周りが見えていない。なげぶみのヒントにあった『玄関の敷居をまたいで、右斜め後ろを振り向くと……?』というマヌケな一文を大真面目に検証しようと、盲之助殿は虫眼鏡を覗いたまま吉良邸の玄関へ突撃。

「右斜め後ろ……ハッ、こっちか! どわぁっ!」

敷居に派手につまずいて転び、壁に激突して白目を剥きながらも、「……む、無念。綱一坊のハッキング能力、未知数なり……」とガタガタ震えている。

こうして、まだ幕府全体には漏れぬものの、吉良邸の宿直部屋の密室の中だけで、盲之助と一学の二人は「謎の闇の組織」の幻影に完全に呑み込まれ、涙目で狂いながら、長期にわたる空回りの第一歩を踏み出したのでございました。

(第2話へ続く)

【今宵の一句】

障子紙 豪快に裂く 綱坊つなぼう

【あっちゅ寝太郎エッセイ】

(一学殿、幕府の専門家を呼んだと思ったら、さらに輪をかけて脳がバグった近眼の盲之助殿を引っ張り込んでしまったねぇ。お前たちが吉良邸の玄関の敷居でドッタンバッタン転びながら「上様のご落胤の陰謀だァァァ!」と勝手に煙に巻かれている間に、お前たちの主君が最も大切にしている優雅な「お茶会インフラ」の足元には、内匠頭のリアルな経済ハッキングの牙がソソソと忍び寄っているよ)

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