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5話: 『吉良殿、絶対切腹しないで仕返ししてやる!』

【第三章 5話】(小タイトル:呪いの隠し蔵と柳沢の「ういやつ」・第三章完結)

1.お決まりの爆走と、書状に隠された「巨大な陰謀」の罠

春の足音が近づいているとはいえ、夜半を過ぎれば、江戸の夜はまだまだ凍えるような静けさに包まれております。本所松坂町の夜空には薄雲がかかり、星の光も遮られた暗闇の中、吉良邸の周囲は水を打ったように静まり返っておりました。一学はもう、ノイローゼを通り越して執念の塊のようになり、いつ届くとも知れぬ密書を待ち受けて、闇を凝視していたのでございます。

その不気味な静寂の幕を破って、今宵もあの突風が駆け抜けました。

深夜、吉良邸の門前を時速百キロの猛スピードで何かが駆け抜け、「また、お届け物でぇ〜す。」の残響と共にクシャクシャの正式書状(暗号)が投げ込まれた。

今宵も郵便赤マークを胸に疾風の如く爆走し去った安兵衛たちの息遣いを感じながら、清水一学は執念でその書状を拾い上げ、宿直部屋の灯火の下でシワを伸ばした。

「……待て。今までの嫌がらせとは、明らかに様子が違うぞ」

今回の書状に並んでいたのは、意味不明な数式だけではなかった。

みなみの紀州に、天に届く一本の木(一坊)あり。ひがしへ歩めば、やがて御落胤の影が差す……。ヒント:敷居をまたいで右斜め後ろ』

実はこれ、内匠頭が適当に並べたハッキング数式の余白に、安兵衛が故郷の思い出か何かで適当に書き殴った紀州名物の落書き(一本の木)に過ぎなかったのであるが、一学のダンボの耳とバグった脳が、その言葉の裏にある不気味な響きを捉えてピクリと跳ねた。

「紀州……御落胤……天に届く一本の木……。バカな、これは浅野の内匠頭の仕業などという生易しいものではない! 幕府の根幹、将軍家の血筋を揺るがす『謎の巨大な陰謀(のちの天一坊事件を予感させる暗号)』の告発書ではないか!」

一学はガタガタと震え、小林平八や左右田孫兵衛が止めるのも聞かず、寝食を忘れてこの「謎の組織の壮大な陰謀」の解読に全ての耳と目を釘付けにされてしまったのである。だんだんに、その深みへとはまっていく一学の自滅の第一歩であった。

2.内匠頭みずからの「おべっか特攻」と柳沢の陥落

一学が勝手にデタラメな暗号の深読みで脳をバグらせているその頃。

お掃除班長・尾三次が大自慢で全漏らしした「最高の裏ルートと手薄な時間帯」を完璧にハッキングした浅野内匠頭は、なんと自ら小判の山を抱えて柳沢邸の奥の間へと直々に突撃していた。

「柳沢様、日頃の無礼をお許しくだされ。これは我が浅野家からの、心からの誠意おべっかにございます」

内匠頭が差し出したのは、ハットリ君が小栗金満路を脅して柳沢の隠し蔵からそっくり横流しさせた「金千両」の札束ビンタであった。

元々吉良上野介とは金に汚い同族嫌悪で相性が最悪だった柳沢吉保は、それが自分の財布から盗まれた金だとは夢にも思わず、まばゆい小判の山に満面の笑みで頬ずりした。

「おおお……! 浅野の内匠頭、愛いやつ、ういやつじゃ、ホホホ! 吉良の陰健全なジジイとは大違いよ! 浅野をいじめるのは金口道(もう禁止)じゃ!」

内匠頭の「裏では意地悪、表ではおべっか」のハッキング精神が、黒幕の脳を一瞬で骨抜きにしたのである。

3.「呪いの隠し蔵」怪文書と、吉良邸の完全な孤立

おべっか特攻を大成功させた裏で、ハットリ君は次なる手を打っていた。

「柳沢の隠し蔵から夜な夜な小判の鳴く声がする」「隠し蔵は呪われている」という怪文書(偽情報)を江戸中に流布させたのである。

自分の隠し蔵の存在がなぜか世間に漏れていることに気づいた柳沢は、一転して「まさか自分の使い込みがバレるのでは……?」と激しい疑心暗鬼と不眠症に陥った。

そこへ、吉良上野介が「柳沢様、浅野の動きが怪しゅうございます! 我が屋敷の一学など、怪文書の暗号解読でノイローゼになっておりますぞ!」と助けを求めてやってきたが、札束で買収され、かつ自身の隠し蔵の噂でパニックになっている柳沢は、吉良を大声で一喝した。

「うるさいわ吉良殿! 浅野はあんなにういやつではないか! 一学のノイローゼなど、お前の屋敷の風水が悪いだけじゃ! しばらく我が前に顔を出すな!」

「な、何ぃぃ主殿ぉぉ!?」

頼みの綱である黒幕・柳沢に完全に突き放され、吉良邸は江戸の中で完全に孤立してしまったのである。

4.第三章の着地・全員不眠症の夜

小林平八や左右田孫兵衛がどれだけ屋敷の防衛網を強固に敷こうとも、肝心の黒幕を骨抜きにされ、要の一学は「天一坊……いや、紀州の陰謀とは一体……」と虚空を睨んで暗号解読に没頭し、完全に防衛機能がバグってしまった吉良邸。

裏での徹底的な精神攻撃と、表での最高格のおべっかループにより、吉良も柳沢も、全員が完全な不眠症に陥ったまま、三月・寅の幕が静かに下りていくのでございました。

(第四章へ続く)

【今宵の一句】

ういやつと 言わせて孤立 させる春

【あっちゅ寝太郎エッセイ】

(吉良殿、柳沢殿、お互いに不眠症で目の下にクマを作って、本当にお気の毒だねぇ。小林平八殿たちがいくら身構えても、一学が勝手に「天一坊の陰謀だァァァ!」ってデタラメな暗号に脳をハッキングされて狂っているから、防衛なんて形を成していないよ。さあ、軍資金もたっぷり手に入ったところで、お次は四月・卯の『吉良のインフラ茶会ハッキング』と『吉良倉庫のすり替え劇』へと突入するよ。せいぜい今のうちに、一睡でも多く寝ておくがいいよ)

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