3話: 『吉良殿、絶対切腹しないで仕返ししてやる!』
【第三章 3話】(小タイトル:謎の闇の組織の脅迫と、無敵の帳簿操作)
1.お決まりの爆走と、仕掛けられた一学の罠
前夜の激しい嵐は嘘のように去り、本所松坂町の夜空には、冷え冷えとした三日月がポツンと浮かんでおりました。吉良邸の周囲は不気味なほどの静寂に包まれ、時折、夜風が門前の木々をサワサワと揺らすばかり。そんな静まり返った暗闇の中、清水一学は物陰に身を潜め、じっと息を殺してダンボの耳を澄ませていた。
その静寂を切り裂くようにして、闇の向こうから、あのお決まりの爆走が突進してきたのでございます。
深夜、吉良邸の門前を時速百キロの赤兎馬(ナイキ風)が駆け抜け、「また、お届け物でぇ〜す。」の残響と共にクシャクシャの正式書状(暗号)を投げ込み続ける。
しかし、この夜の一学は一味違っていた。門前の暗がりに、馬の脚を引っかけるための極細の「特製ワイヤー」を密かに張り巡らせて待ち構えていたのである。
突進してきた赤兎馬(ナイキ風)は、一学の計算通りそのワイヤーに激しく接触した! ……が、内匠頭のハッキング技術によって極限まで鍛え上げられた赤兎馬(ナイキ風)の頑丈な脚力は、ワイヤーを「ブチィィン!」と火花を散らして力ずくで引きちぎり、そのまま何事もなかったかのように爆走し去っていった。
「な、何ぃぃぃ!? ワイヤーを引きちぎって走り去っただと!? バカな、どんな馬脚をしておるんだァァァ!」
一学が想定外の馬のパワーに門前でまたしても頭を抱えてバグっている、まさにその時刻。本所松坂町から遠く離れた小栗金満路の屋敷では、真の脅迫劇が幕を開けていた。
2.謎の闇の組織、現る
「……うう、あと五百両。どうしても計算が合わん。どうやって柳沢様への帳簿をごまかせばよいのだ……」
深夜、小栗金満路が一人きりの部屋でソロバンを弾き、顔面を蒼白にさせて震えていた、その時であった。
パッと部屋の灯火が消え、完全な暗黒が部屋を包み込んだ。
「だ、誰だ! 灯りを消したのは!」
小栗が腰を抜かして叫ぶと、闇の向こうから、何重にもエコーがかかった不気味な「謎の組織の声(変声機を通したハットリ君の声)」が響き渡った。
「……我らは、江戸の闇を統べる謎の組織、小石一派。小栗金満路、お前が柳沢吉保の隠し蔵から天文学的な額の裏金を使い込んでいる証拠は、すべてこの手にある……」
「ひ、ひええええ! なぜそれを!?」
3.恐怖の脅迫と、無敵の味方
闇の中からスッと差し出されたのは、小栗が隠していたはずの「真の裏帳簿の控え」と、夜逃げメモの写しであった。決定的な証拠を突きつけられ、小栗は恐怖のあまり床に両手をついてガタガタと平伏した。
「お、お許しくだされ! 柳沢様にバレたら、あっしは打ち首、お家は断絶でございます! 何でもします、何でもしますから命だけはァァァ!」
「……ならば、我が組織の指示に従え。お前の使い込みの証拠は、我らの指示通り『完璧な帳簿操作』を行う限り、柳沢の手元には一生届かぬようにハッキングしてやろう……」
謎の闇の組織の圧倒的な情報力と、命が助かるという甘い提案に、小栗は涙を流して「従います!」と誓った。こうして、柳沢吉保が最も信頼していた金庫番は、一瞬にして浅野側の「無敵の操り人形」へと変貌したのである。
4.バレない横流しの始まり
味方になった小栗の帳簿操作技術は、さすがに柳沢の金庫番を任されるだけあって超一流であった。
小栗は保身のため、天才的な手際で架空の支出や帳尻合わせを裏帳簿に書き加え、柳沢には一ミリも怪しまれない完璧な偽装を施した。そして、お上に隠れて溜め込まれていた隠し蔵の裏金から、莫大な額の小判を「謎の闇の組織」の指定口座へとたっぷり横流しし始めたのである。
これですべての準備は整った。
吉良邸の門前で一学が「次こそは、次こそはあの赤兎馬を捕らえてみせる!」と空振りの悔しさに血涙を流している間に、浅野側は柳沢の財布の紐を完全に手中に収め、次なる「表のおべっか作戦」の莫大な軍資金を手に入れたのでございます。
(第4話へ続く)
【今宵の一句】
ワイヤーも ちぎって走る ナイキかな
【あっちゅ寝太郎エッセイ】
(一学殿、せっかく仕掛けたワイヤーを力ずくで引きちぎられて、門前でポカンとしている場合ではありませんよ。お前が馬の脚力に驚愕している間に、ハットリ君は柳沢の金庫番・小栗を「謎の組織」として完璧にハッキングしてしまったよ。さあ、自分の金が裏でザクザク横流しされているとも知らない柳沢殿が、これからどんなマヌケな顔を見せてくれるか、今から本当に楽しみだねぇ)




