2話: 『吉良殿、絶対切腹しないで仕返ししてやる!』
【第三章 2話】(小タイトル:ハットリ君のソソソと、小栗金満路の秘密)
1.一学の執念と、赤兎馬(ナイキ風)への罠の予兆
吉良邸の門前で毎夜のように繰り広げられる、あの時速百キロの赤兎馬(ナイキ風)による「定期ポスティング」。
ノイローゼ寸前の一学であったが、ただ怯えているばかりではなかった。ダンボの耳で無音の襲来タイミングを完全に計算し、いずれあの音速の馬を絡め取るための「物理的な罠」の設計図を、宿直部屋の机の奥で密かに描き始めていたのである。
「いつまでも空振りさせられていると思うなよ、闇の組織め……。次は必ず引きずり落としてくれるわ」
一学が執念の炎を燃やしているとも知らず、赤兎馬(ナイキ風)は今宵も風のように走り去っていく。しかし、これらはすべて浅野側による完璧な「陽動」であった。吉良邸が門前の防衛に全神経を注ぎ、一学が罠の準備に没頭しているその隙に、浅野側の真の刺客が動き出していたのである。
2.エリート隠密ハットリ君、動く
「ニンニン。吉良邸の耳飾りの大将(一学)が門前に釘付けになっている今こそ、絶好のソソソ日和……」
闇に紛れてそう呟いたのは、自称・エリート隠密のハットリ君であった。
今回のターゲットは、吉良上野介の黒幕である柳沢吉保。その柳沢が、公に隠れて、将軍家の威光をカサに私腹を肥やしているという「外部の隠し蔵」の全貌を暴くことが、内匠頭から下された極秘任務であった。
ハットリ君は、柳沢の隠し蔵を一手に管理しているという最高責任者であり金庫番の勘定方、小栗金満路の身辺調査を開始した。
3.小栗金満路の、誰にも言えない秘密
小栗金満路は、表向きは柳沢吉保に忠実に仕える、極めて厳格でカタブツな勘定方として知られていた。しかし、ハットリ君が数日間にわたり、天井裏や床下からその動向をソソソと徹底的に洗ったところ、とんでもない裏の顔が浮かび上がってきた。
小栗は、柳沢が溜め込んだ天文学的な額の賄賂を管理するうちに、その金の魔力に狂わされ、裏帳簿を操作して自分自身も莫大な額の使い込みを働いていたのである。
「ひええ……、あと金五百両、どうしても計算が合わん……。これが柳沢様にバレたら、一族郎党打ち首、あっしは切腹だ……」
夜な夜な部屋にこもり、ソロバンを叩きながら冷や汗を流し、ガタガタと震えている小栗の姿を、天井裏のハットリ君はしっかりと視界に捉えていた。
4.掴んだ決定的な証拠
ハットリ君は、小栗が使い込みの事実を隠蔽するために書き換えていた「真の裏帳簿の控え」と、小栗が夜な夜な夜逃げのルートを書き殴っていた怪しいメモの存在を完全に突き止めた。
これさえあれば、小栗金満路という男の首根っこを完全に掴んだも同然である。
「ニンニン。これほどの小判の塵がザクザク出るとは、調べた甲斐があったというもの。さあ、この使い込みの秘密をどう料理してやろうか……」
ハットリ君は闇の中で不敵にニヤリと笑うと、内匠頭の待つ脇坂邸へと風のように引き上げていった。柳沢吉保の経済インフラの土台が、身内から静かに崩壊しようとしていることなど、まだ誰も知る由はなかったのである。
(第3話へ続く)
【今宵の一句】
隠し蔵 叩けば出るわ 金の塵
【あっちゅ寝太郎エッセイ】
(柳沢殿、小栗金満路といえばお前の最も信頼する金庫番だったねぇ。そのカタブツが裏でソロバンを叩きながら、お前の金をたっぷり使い込んで、夜逃げの準備まで始めているよ。一学が赤兎馬(ナイキ風)に罠を仕掛けようと躍起になっている間に、お前たちの足元はハットリ君にソソソと完璧にハッキングされてしまっているよ)




