6話: 『吉良殿、絶対切腹しないで仕返ししてやる!』
【第二章 6話】(メインタイトル:四十七の銘石と、隠し蔵の咆哮)
1.図面を挟んだ、お庭の「大自慢セッション」
脇坂邸の座敷では、今日も今日とて、お掃除班長・尾三次による、熱を帯びた「作庭大演説」が繰り広げられておりました。
「いいかい、いとこ殿。そこなんだよ。そこにその『四十七個目』の最後の銘石をポンと置くだろ? だが、ただ置いたんじゃ素人だ」
尾三次は高級羊羹を豪快に口へ放り込み、お茶で流し込むと、若侍(浅野内匠頭)の引いた図面にグイッと筆を突き立てた。
「元・普請部次長のあっしから言わせてもらえばね、この石は、さっき教えた庭の隅にある『炭小屋』の影から、母屋の『玄関』、そして『客間』を抜けて、一番奥にある上野介様の『寝所』へと向かう、ちょうど『風の通り道』のド真ん中に据え置くんだ。そうすると、夜露が降りた時に、石の表面に月明かりが反射して、寝所の窓まで一本の光の道がピカーッと繋がるって寸法よ! どうだい、このあっしの完璧すぎるグレードアップ案は!」
「……ほう。夜になると、寝所の窓まで、一直線に光の道が繋がる……」
若侍(内匠頭)は、手ぬぐいの奥の目をギラリと光らせ、尾三次がドヤ顔で書き込んだ「光の直線(実は完璧な誘導レーザーの射線)」を、じっと見つめて深く頷いた。
「そうともさ! これで浅野家から届いた通算四十七個の石が、すべて一本の線で繋がった! 吉良邸の庭は、あっしの講釈のおかげで、今ここに『完全無欠の風流』として完成したわけだァ!」
尾三次は自分のプロとしての才能にすっかり悦に入り、自分が吉良邸の防衛ハッキングを完璧に手伝わされていることなど、一ミリも気づかずに高笑いを上げているのでございました。
2.国元から届いた「おべっか(賄賂)指示書」の衝撃
尾三次が「いやぁ、今日もいい仕事をしちまった」とホクホク顔で吉良邸へ帰っていった後、若侍の変装を解いた内匠頭の元へ、赤穂の国元(および江戸詰めの幹部)から、一通の極秘の書状が届けられた。
「……お庭のハッキングデータはすべて大石に送り終えた。さて、次なる作戦は何だ?」
内匠頭が書状を開くと、そこには今後の動きとして、にわかには信じがたい「おべっか(賄賂)攻勢」の指示が認められていた。
「……な、何だこれは……? 吉良上野介へ金五百両、さらに柳沢吉保様へは金千両……!? おいおい、ちょっと待て!」
内匠頭は書状を握りしめ、思わず部屋の中で立ち上がった。
「公式の進物ルールに則るにしても、これはあまりにも桁が違いすぎる! 浅野家の一年間の予算が、この二人への『おべっか』だけで丸ごと吹き飛んでしまうではないか! なぜ、これほどの大金を動かす必要があるのだ!?」
武家社会の表向きのルールを遥かに超越した、ドロドロとした裏の要求額に、内匠頭はただただ呆然とするしかなかった。
3.暴かれる、二人の「外部隠し蔵システム」
呆気にとられる内匠頭の前に、脇坂淡路守が、いつものようにニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、お茶をズズッとすすって声をかけた。
「おや、内匠頭どの。驚くのは無理もないが……あの二人をただの高家と側用人だと思ったら、大間違いだよ」
「脇坂殿、ご存知なのですか? この異常な金の動きの意味を」
「あのな、吉良も柳沢も、お上(幕府)の財政を裏で牛耳る『勘定方の超・切れ者』だ。頭が良い上に、これ以上ないほど金に汚い。彼らはな、幕府の厳しい監査の目が絶対に届かない江戸城下のあちこちに、お上に隠れて『外部の秘密の隠し蔵』をいくつも持っているのさ」
「外部の、隠し蔵……?」
「そうだ。諸大名から集めた天文学的な額の賄賂を、公式の財産に計上せず、その秘密の蔵に分散して隠し持っている。いわば裏の巨大マネーロンダリングシステムだ。お前さんが送ろうとしているその大金も、吉良邸ではなく、その外部の蔵へソソソと吸い込まれていくのさ」
庭石を使った風流な心理戦の裏で、実は江戸の闇を支配する「巨大な情報・経済戦」が動いていた。その全貌の触りに触れた内匠頭は、驚愕に身を震わせながら、次なるリニューアル作戦の闘志を静かに燃やし始めるのでございました。
(第7話へ続く)
【今宵の一句】
大自慢 引いた図面が 命取り
【あっちゅ寝太郎エッセイ】
(吉良殿、お掃除班長が『最高の風流だ』とドヤ顔で並べた四十七の石の直線は、夜になればお前たちの寝所を正確に射抜く、恐怖の誘導ライン。おまけに、必死に隠している『外部の隠し蔵』の金の匂いまで、浅野の若様に嗅ぎつけられてしまったよ。勘定方の知恵を絞って集めた裏金が、一体どこの蔵から吹き飛ぶことになるのか、せいぜい今のうちに枕を高くして、その見事な庭のライトアップとやらを楽しんでいるがいいよ)




