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5話: 『吉良殿、絶対切腹しないで仕返ししてやる!』

【第二章 5話】(メインタイトル:陰謀・お庭グレードアップ案)

1.密偵・尾三次の「やんなっちゃった心の推移」

「……アチラの動向を、ソソソ(探索)してまいります」

吉良邸のお掃除奉公人にして、柳沢吉保の特命を帯びた大物密偵・ソソソの尾三次が、お隣の脇坂淡路守の屋敷へ、今日も今日とて出撃しようとした時のことでございます。

実はこの頃、尾三次の心の中で、何かがプツリと切れかかっていた。

最初は張り切っていた隠密任務だったが、昼は公式な庭石の力仕事、夜は正体不明の嫌がらせへの警戒、さらにはその間を埋める公式返礼品の往復ステップ。

「やってられっか、こんなバカバカしいお役目……。アホらしくて徐々にやんなっちゃったな」

すっかりこの贈り物合戦に嫌気がさした班長は、心身の癒やしを求めて、お隣へ「サボり」に行く大義名分を探していたのである。

2.伝家の宝刀と、物見櫓の一学

「おい尾三次! また脇坂殿のところで茶菓子を泥棒ステップしに行く気か! 真面目に吉良邸の警備を手伝え! あの『小石』とかいう闇の組織が、いつまた次なるからくり爆弾を送りつけてくるか分からんのだぞ!」

物見櫓の上から、寝不足でクマを作った清水一学のチャチ(ツッコミ)が飛ぶ。

「一学殿、これはただの出稼ぎではござらん。柳沢様から賜った、国家を揺るがす『大名たちの陰口特別調査』の御用でございますよ。文句があるなら吉保様にどうぞ?」

尾三次は懐から「柳沢吉保のお墨付き」をスッと出してドヤ顔でチラつかせた。

「くっ……それを言われると何も言えん……!」

一学を黙らせ、尾三次はソソソとお隣の脇坂邸へと滑り込んだ。

3.脇坂邸での出会いと、お庭グレードアップ作戦の幕開け

「いやぁ、尾三次さん。待っていたよ。今日も極上の玉露と羊羹を用意してあってね」

脇坂淡路守が、相変わらず不敵な笑みを浮かべて迎えてくれた。その傍らには、脇坂殿の親戚だという、貧乏な「部屋住みの若侍」が静かに座り、机の上に真っ白な図面用の紙と筆を広げている。

――そう、この若侍こそ、吉良邸に贈り物爆撃を仕掛けている張本人、浅野内匠頭が化けた姿であった。

「尾三次さん、この私の親戚の若者がね、しがない庭好きでしてね。おたくの吉良邸の庭に届いたあの銘石を、どう並べたらさらに風流になるか、ぜひプロの意見を聞きたいと言うんだよ」

「ほう、作庭の講釈でございますか。元・普請部次長のこのあっしにお任せくだせえ」

高級茶菓子を口に放り込み、尾三次はすっかり上機変で若侍の隣に座った。

4.図面引きセッション! 吉良邸「外側」の暴露

若侍(内匠頭)が、さらさらと図面の上に吉良邸の境界線を引き、一本の銘石の絵を描く。

「なるほど、悪くない。だが若いね、いとこ殿!」

尾三次は元・普請部のプロ魂に火がつき、若侍から筆をひったくると、自慢げに図面へ書き込みを始めた。

「庭の景観を締めるには、ただ石を置けばいいってもんじゃない。我が吉良邸の、この広大な『お庭』の傾斜を活かすんです。例えば、庭の隅にあるこの『炭小屋』……いわゆる外側の境界線から、こう風の流れを呼び込むように石を配置する。炭小屋の武骨な佇まいと、銘石の風雅さの対比が、これまた乙なんですよ!」

「なるほど、外側の炭小屋から……」

若侍は感心したように深く頷きながら、尾三次が引き終えた炭小屋の位置を、じっと目に焼き付けている。

5.班長の高説演説! 暴かれる「主要部屋」の位置

すっかり調子に乗った尾三次の講釈は、いよいよ核心の間取りへと突入していく。

「それだけじゃねえ! 家屋の構造も頭に入れなきゃいけない。ここが玄関、入ってすぐが『客間』だ。そして、その奥に進むと『居間』があって、一番奥のここが上野介様の『寝所』になるわけですな。どうですか、この完璧な配置は!」

尾三次はドヤ顔で、図面の上に「玄関」「客間」「居間」「寝所」の文字を、位置関係の通りにサラサラと書き込んでみせて、吉良邸の「主要部屋の位置」を完璧に教えてみせた。

「素晴らしい……! まさに極上の風流、お庭のグレードアップ案、恐れ入りました」

若侍(内匠頭)は、手ぬぐいの奥でニヤリと不敵な笑みを浮かべ、その図面を大切そうに懐へと収めた。

吉良邸の外郭データが、今、完璧に浅野側の手に渡った瞬間であった。自分が防衛線を自慢げに売り渡していることなど、お掃除班長は微塵も気づいていなかったのでございます。

(第六話へ続く)

【今宵の一句】

サボりつつ 図面を引いて 自慢顔

【あっちゅ寝太郎エッセイ】

(吉良殿、お掃除班長が自慢げに垂れるそのプロの講釈こそが、お前たちの屋敷の防衛線に空いた最大の風穴なのだよ。良かれと思って教えた炭小屋や寝所の位置が、そのままお前たちの運命のまとになるとも知らず、今日も庭が綺麗になったと喜んでいる場合ではございません。せいぜい隣近所で美味いお茶を飲んでいる隠密の、その軽口の代償を、その身を以て支払うがいいよ)

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