炙り出された飼い犬達
* * * * * * * * *
レナとタムが捕えられ、実刑を受ける事になった後、アイザスとレノンに潜んでいたスパイも捕まった。
レナから計画の全貌を聞かされた後、アドバンがそのままアイザスに向かう便に乗ってダミーの手紙を届けに行った。
わざと「レナ・コールトンという人物から預かった手紙なんですけど」と大声で案内所を尋ね、そこに現れた女を控えていた警察官が任意同行。
そこから1週間後にレノンを訪れたアドバンは、港の施設内でわざと目立つ便箋を持ったままキョロキョロと周辺を見回した。
いつもはターミナルの2Fの待合室で手紙を渡していると言っていたため、そこで便箋を持ってうろうろしていれば、ターゲットから接触してくると考えたのだ。
物見遊山な何も知らない観光客に対し、ターゲットは「何かお困りですか」と声を掛けて来た。
その服装は港湾職員の制服。明るい金髪の背の高い女は、にこやかながらも手紙から視線を外さない。
「あー、なんか、島で船の手続きミスったっつう女がさ、手紙だけでも届けないと商談がどうとか言うから、預かったんすわ」
「そうですか、その手に持っている手紙の事ですか?」
「ああ、そうっす。なんか商談の人っぽい奴いるかなーと思ったんすけどね」
「では、港湾の案内所でお預かりしましょうか」
職員はニコリと微笑み、手紙を受け取ろうとする。アドバンは明らかに怪訝そうな顔を向け、手紙を懐にしまった。
「いや、あんたに渡してもさ、その商談の奴がここで女探してたら分かんねえじゃん。だってそいつ女がここに来られなくなった事も知らねえんだぜ」
「そう……であれば、その方はいつここに来るのでしょう」
「知らねえよ、だって押し付けられたんだもん、俺」
「では、渡せないのでは……ないでしょうか」
「だから、商談っぽい奴がいねえかここで見てんだろ? いいよ、俺ここで探すから」
アドバンはいかにもな今時の青年。口調も警戒心と中途半端な使命感も、どう見てもただの素人。
職員は強引に手紙を奪う事なく、放送をしてあげましょうと言って「女」の名前を尋ねた。
「あー、これ手紙の宛先に何も書いてねえんだわ」
「では、手紙の受け取りを待っている人、という内容で案内放送をします。あなたはここで待っていてく下さい」
職員は足早に事務所に戻っていき、やがて女の声で放送が流れ始めた。
その数分後、アドバンが壁に寄りかかって待っていると、そこに先程の職員と、もう1人背が高く黒いコートを羽織った厳しい目つきの男が現れた。
「お待たせしました、この方との事です」
「あんたが手紙の受け取り人か? でもアイツは2階で待ってるって言ってたのに、あんた2階にいなかったぞ、今1階から上がって来た」
「……姿が見当たらず、館内を探していた」
「俺、船降りて入国審査受けた後からずっと居たけどな」
「……」
「一応さ、面倒な依頼受けちまったけど、こっちも責任があるんすよ。はい私ですって名乗られてじゃあ渡すって、簡単にいかねえって分かるよな」
目の前の青年が予想外に警戒心を見せるものだから、職員も男も一瞬押し黙った。男がハァッとため息をつき、手紙の送り主の名前を尋ねる。
「それはあんたが言うべきじゃねえの? そいつだとか相槌だけで知り合い認定出来ねえんすわ」
「……レナ・コールトンという女だろう。俺の客だ」
「あんたの名前は。商談なら名刺持ってるよな、ちょーだい。ちゃんと渡した証明しないと持ち逃げとか間違って渡したとか言われたくねえもん、俺」
男はしばらく考え込んだ。本来なら接触するはずのない相手だ、もちろんダミーの名刺など持っていない。
「もし……よろしければ、私の名刺をお預けします」
「あんたに渡した事にしても、そこからこのおっさんに渡された証明になんねえじゃん」
「では、私の名刺に、この方がサインをしてお渡ししては。商談相手のサインなら問題ないでしょう」
「ああ、そうだな」
アドバンはあっさりと頷き、男がそこにサインを始める。その奥の通路からは警察官、そしてイングスやニーマンとはまた違った見た目の人形が2体歩いて来た。
「アドバン、職員を呼んできたよ」
「おう! エース、ビース、こいつら捕まえて」
「はーい」
「えっ」
女職員が振り返る隙も無く、オルキ国からアドバンと一緒にやって来た人形のエースとビースが2人を瞬時に捕まえ、すぐ近くの小さな談話室に投げ込んだ。
そこから警察官が2人を拘束するため手錠をかけるまで、1分も掛かっていない。
「手紙の受取人が連合軍の人間っつう事はバレてんだわ」
「わ、私は何も知らない! たまたまこの子に声を掛けただけ!」
「俺は商談に来ただけで、何もしていないのに拘束される理由など……」
「レナ・コールトンはスパイだと見破られて今頃檻の中っすよ。アイザスとの電話連絡の女は声が良く似た警察官っす」
「そんな……チッ、連絡が回っていたなんて」
アイザスにいるスパイからの連絡が途絶えてしまえば、絶対に怪しまれる。そう考え、オルキはアドバンに大統領への親書を持たせていた。
ドイル大統領はすぐに対応を決め、捕えたスパイと声のよく似た警察官を選び出し、スパイを罠に嵌めたのだ。
スパイ同士の暗号は、故郷の話をすればいい。アドバンがオルキ国の刑罰を説明し、国家転覆を狙った犯罪者はどうなるかと問いかけると、スパイの女はあっさりと降参した。
ドイル大統領が、オルキ国からの手配依頼を受けている、身柄を渡すと言ったのも効いたようだ。
スパイの女は1人だけで、他に仲間はいないと言った。
その証言通り、アイザス側のスパイが捕まった情報はまだレノンに届いていなかった。レノン国内に何人いるかは分からないが、少なくともこれでアイザスの偵察はしばらく出来なくなる。
「国家機密法第6条、13条及び19条への違反として、身柄を拘束する!」
「被疑者確保です、2名、男と女、1人は港湾職員として潜入」
女は身分を偽って職員に変装し、アイザスへの渡航書類を不正に遠し、スパイに協力をした。
男は身分査証およびレノンおよびオルキ、アイザスのスパイ行為。捕まった事実は認識しても、まだ言い逃れが出来ると思っているのか、まだ2人はどこか余裕がありそうだ。
「同行してもらおう。拒否権はない」
騒めくフロアの中、警察官が署へ連行しようとしたところで、ふいに被疑者2名が身を捩って警察官の拘束から逃れた。手錠は嵌められたままだ。
警察官は武道にも心得があったのだが、スパイ達の方が実力は高かったらしい。
すぐに追いかけようとする警察官を巻くように、一足早く群衆の中に突っ込んでいった。
「まずい! 被疑者が逃走! 応援を!」
警察官が焦りで震える声を響かせる。アドバンが「あー」と言ったところで、何とも気の抜けた言葉が発せられる。
「誰が頑張っているのかい」
「誰を応援すればいいのかい」
エースとビースだ。どうやら応援を「がんばれーと言う」行為だと誤認識したようだ。
「あー、違うんだよ、手伝って欲しいっつう意味でもあんの。えっと警察さん」
「なんだ!」
「生きて捕まえたら怪我させてもいいよな?」
「本来なら逃げた時点で射殺対象だ、生きて捕まえられるなら」
「よっしゃ! エース、ビース! さっきここで捕まえて今逃げた2人を捕まえてここに連れて来い」
「わかった」
「殺すなよ、面倒だから。あと他の人は怪我させるな」
「はーい」
エースとビースが駆け出し、群衆の目の前で大きく跳び上がって皆の頭上を超えていく。その身体能力の高さに、騒めきも一瞬で静まった。
「あの2人に任せたら大丈夫っすから。絶対に逃げらんねえよ、エースもビースも絶対に諦めねえから」




