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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
オルキ国の内政

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恋愛観

 



 * * * * * * * * *





「つまり、オルキ国に移住するための順番待ちが長く、優先的に順番が回ってくるよう結婚し身分を安定させたかったという事ですね」


「……はい」


「そこまでしてオルキ国に移住しなくとも、身なりや所持金を見れば祖国でそれなりに暮らせるのではないでしょうか」


「……」


「黙っているなら勝手に目的を挙げて、オルキ国王が満足する刑に処すとしましょう」


「だだだ黙っているのでは、なく」


 ソフィアの涙が止まった頃、警察署ではタムの取り調べが行われていた。オルキ国はこの事件を単なる痴話喧嘩ではなく、国籍ロンダリングや結婚詐欺、脱法的な国籍取得を目論む犯罪として扱う事にした。


 小さな取調室には机が1つ、椅子が2つ。土間の床、壁には明り取りの小さな窓があるだけだ。

 部屋の奥側の椅子にタムが座らされ、机にはガーミッドがノートを広げている。


 大柄な体躯に低い声。軍隊で鍛えられた精神、曲がった事を許さない性格。尋問担当としてはガーミッドが適任だ。


「黙っているのではないのなら、どうぞ話して下さい」


「……初期からいる国民の方が有利だと、思いました」


「何に対して有利というのでしょうか」


「例えば実際にあなた達は国の要職に就いているし、その他大勢ではなく、その……」


「権力を持ち、自分の好きなように出来ると考えましたか」


「……はい」


 タムの計画は幼稚なものだった。早く移住出来れば先住組として優遇されると考え、今回の計画を思いついたという。


「なぜソフィアさんを選んだのでしょうか。確かにソフィアさんはこの島で3人目の定住者で、国の大臣も務めていますが……」


「アリヤさんは王女ですし、面倒な事になりそうだと思ったので避けました。ソフィアは……ソフィアさんは、その、美人だし、一目惚れだと言って熱烈にアピールする事に不自然さがないと思ったので」


「ソフィアさんの事は最初から騙して捨てるつもりだったと」


「……恋人と一緒になる事は決めていたので、ソフィアさんとは結婚するまでの関係だと割り切っていました」


「騙して捨てるつもりだったか、そうではないかと尋ねています」


「……その、つもりでした」


 タムは隠す事を諦め、素直に動機を話す。お調子者を演じておきながら、かなり冷血な計画を立てていたようだ。


「自分の幸せのため、他人を踏み台にする性根の悪さ、他人を騙す事への躊躇いのなさ、救えませんね。1億歩譲って、無実の罪で国を逃れ、定住できなければ理不尽な死が待っているというのなら、強制送還で済ます事も出来たでしょうけど」


「……」


「ああ、失礼。それでは死んでしまいますね、はははっ」


 乾いた笑い声を響かせ、ガーミッドがニッコリと笑顔を見せる。その表情の不自然さが悍ましい程の恐怖を駆り立て、タムは口角をだらりと下げ震えていた。


 ガーミッドは調書のノートを閉じて立ち上がると、笑顔のままタムにもう1つ問いを投げた。


「何か言い残す事はありますか?」


「そ、そんな……お、俺はしししし死刑になるん……ですか」


 タムは絶望でまともに座っていられず、その場で力を失って背もたれからずり落ち、椅子の前に座り込んだ。ガーミッドはその様子に何かを言うでもなく、笑顔を崩さない。


「この国は法治国家ですよ。取り調べ後に裁判もせず刑を科すことは出来ませんし、死刑と言っても詐欺の程度次第です」


「ささささっきい、言い残すって」


「ええ、確かにそう言いました」


 ガーミッドが笑顔を止め、それでもやや口角を上げたままその真意を告げた。


「人間であるうちでなければ言葉は話せないでしょう」


「……は、い?」


畜生(ヒト)になれば言葉を話せませんからね。動物は鳴くものです。ところで……」


 ガーミッドが棚から1つ手錠を手に取る。


「共謀者の方にも罰を与える必要がありますね」





 * * * * * * * * *






 水曜日の定期船で何も知らないレナ・コールトンがやって来た。

 レノンから乗り、オルキ国に寄り、アイザスに行ってまた折り返しの便でオルキ国に一時入国。それをこの数週間続けているのだ。


 自身を貿易商だと名乗り、レノンで仕入れたものをアイザスで売っていると言っていたが、本当に商品があるかどうかは不明。

 レナ・コールトンは1週間おきの一時入国が不審だという理由で別室に呼ばれた。


「あの、どうして私が、何か疑われるような行動を取ったでしょうか」


「コールトンさんのように1週間に1度、定期船の停泊時間を使い必ず数時間の一時入国をしている方は、他にいないんです」


「あら、そうなのですか。でも私、この国が素敵だと思っていて……毎週の行商の間、入国しなくちゃ損だと思ったものですから。いつか住んでみたいと思っているんです」


「そうですか。お褒めの言葉には感謝を申し上げます。ところで、入国の目的は観光となっていますが、どちらをご覧になりましたか」


「えっと……いつもは港の周辺を散歩して、首都まで歩く事もあります」


 取調官はアリヤ。穏やかで気品のあるやり取りは、およそ取り調べとは形容しがたい雰囲気だ。レナは自分がこれからどんな扱いを受けるかも想像しないまま、ただの聞き取りだと思い和やかな会話に務めている。


「そうですか。もうすぐシルトンホテルも完成しますし、展望台への階段も整備している所です。もっと魅力的な島になりますから。対岸のクニガ島の飛行場は来年運用試験を受けるべく建設されています」


「そう聞くとますます住みたくなってしまいますね。この国でお店を持つのも良いかも。動物も身近にいて喧騒もなくて本当にいい島だわ」


「ええ。それに、この島には他にも魅力ある観光地があるのです。宜しければご案内いたしますよ」


「えっ、いいんですか!? でも、その、ご迷惑じゃ……場所を教えていただけたら、私1人で行ってみます」


 レナは感謝を表しつつも、やんわりと案内を断った。

 レナがこの島を訪れる目的はただ1つ。タムとの逢瀬だ。ただでさえ取り調べによってその貴重な時間が削られた上、したくもない観光案内までされたら、わざわざ高い金を払って定期船を何往復も乗っている意味がない。


 アリヤはごく自然な笑みで頷き、それならと場所を伝える。


「そうですか、ではこちらに是非。係の者が何人かいるはずですから、声を掛けて下さい。今はウェッジウッドさんとジョキアさんと、クラクスヴィークさんがいらっしゃると思います」


 ジョキアと聞いて、レナが一瞬だけ眉を動かした。タムがいるのなら、会いに行くついでに少し観光をしてもいい。アリヤの好意を無視した事にはならず、タムにも会える。

 2人きりにはなれなくとも、計画のためなら仕方がない。


「分かりました。その方々を訪ねてみます」


「では、お伺いするのはここまでで。ご協力有難うございました」


 アリヤは行儀よくスカートを押えながら立ち上がり、音を立てずに椅子を元に戻す。

 取調室の扉をゆっくりと開いてレナを解放した後、笑顔で去るその後ろ姿にため息をついた。


「恋している時の楽しさや世界の明るさはよく思い知っているつもりです。でも、それが誰かの犠牲で成り立つというのはやっぱり……いけない事ですよね」


 レナは活発でちょっと軽さを隠しきれていないが、こんな出会い方でなければ国民として歓迎できたかもしれない。タムとの恋がなければ、悪い性格ではないのだろう。


「恋は盲目と言いますけれど、薄目くらいは開けておくべきですね。自分達の事しか考えられない恋愛は、所詮は娯楽なのです」


 根が優しく親切なアリヤにとって、これはとても苦しい役目だった。


 ただ、ソフィアのために何か出来る事がないかと名乗り出たのはアリヤ自身。この国に他人を騙して居座るような人間を受け入れるわけにはいかないし、ソフィアが受けた心の傷に寄り添うと決めたのだ。


「ソフィアさん程の方でも恋の力に騙されてしまいました。目を覚ましたまま愛する事は出来るのでしょうか。私は……どうなのでしょうか」


 王女という立場で生きて来たアリヤは、自由な恋愛など考えた事すらなかった。これまでに想う相手はいたが、それ以上の仲になった事はないし、なるつもりもなかった。


「面倒な事になりそうだから……ですか。私は国の皆さんから、面倒だから付き合えないと思われているのでしょうか」


 周りが見えなくなるほど恋愛に夢中になれるソフィアやレナの存在は、理性の利き過ぎるアリヤにとって、羨ましく憧れる姿でもあった。

 オルキ国の人間となり、もうセイスフランナの王室からは離れた。アリヤを縛るものはもう何もないが、培った性分はそうそう変わらない。


「さ、私も行きましょう。イングスさんやニーマンさんのように、恋愛しなくても私は私ですから」

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