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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
オルキ国の内政

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利害の一致

 


 ソフィアはタムが隠していた事を次々と暴いていく。


 その時、玄関の扉がスコーンと景気よく開かれた。この開き方をするのはイングスと相場が決まっている。足元にはオルキも座っていた。


「ソフィア。アドバンが息を切らし楽しそうに笑いながら詐欺師が現れたと報告しに来たが」


「なんだあいつ、ちょっと楽しんでねえか?」


「島長……イングス。タムは……」


 ソフィアがオルキとイングスにも写真を見せ、更には1通の封の開いた手紙を手渡す。

 その手紙の封筒を見たタムは、とたんに顔の血の気をサッと引かせ、30歳も老いたように絶望に沈んだ。

 国王のオルキにまで見られたなら、もう処分は決まったようなものだ。


「僕がジェシカに頼まれて撮った写真だね」


「ふむ、これがどうした」


「後ろにおるやろ、こいつと本命の彼女の接吻」


「なんだ、他にも女がいるのか。手あたり次第とはまるで畜生と変わらぬではないか」


「あたしを騙して結婚して、国籍取得条件をクリアしたら頃合いを見て離婚して、その女とこの島で再婚。晴れて2人はオルキ国の国民っちわけ。その手紙にも書いとる」


 手紙はタムがレナ宛に書いたもの。ソフィアが手紙ならついでに出してくると言って預かって中を確認した。そこには計画通りに事が進んでいる事が自慢気に書き綴られていた。


「当事者で解決すべき事だが、国籍取得が関わるなら吾輩も無関係とは言えぬな……どうしたイングス」


 イングスがとても綺麗な「はい」をする。右手を高らかに上げ、いつもながら行儀がいい。


「不倫は罪だから、こいつはヒトに成り下がるかい」


「まだ結婚どころか婚約もしておらぬから、不倫にはならぬ」


「そうなんだね」


 オルキ国において、不倫は民事ではなく刑事裁判の対象だ。詐欺と同様に扱われる。その刑罰はお察しの通りだ。


「二股かける奴はまあ、そんなに珍しかねえよなあ。もちろん倫理観の面ではヒトデナシ、欲望のままに行動するオス豚と変わんねえとして」


「問題は国籍を得るためにソフィアを騙したって事だな。それはそれで罪だよな。詐欺だし」


「いずれにしても自白は早い方が良いだろう。タム・ジョキア、全て話せ。嘘や秘匿で切り抜けようとはせぬ事だ」


 タムはエフスとディーアの2体によって警察署に連行され、そこで計画を白状する事になった。


「ソフィア、悲しいのかい」


「……悲しいというより、情けない、かな。あたし、自分が自分の能力にいかに頼り切っとるかを思い知った」


「そうなんだね」


 タムの家を出てソフィアの家に戻ってから、数名がソフィアを気にかけそのまま滞在していた。

 オルキは警察署……と言っても集会所を改装した役場の一角に過ぎないが……へ向かい、イングスは残っている。


「自分の特殊な力に頼らなくても普通に生きていきたいっち思っとったくせに、いざそうやってみると人を見る目が全然ないなんて悔しいし情けない」


「あー、イングス。人を見る目ってのは、良い人か悪い人かを判断するのが苦手って意味」


「そうなんだね」


「俺達もアイツの事、突き抜けて明るいお調子者くらいに思ってたからな」


「マジで結婚する前で良かったって思えよ。それにジェシカちゃんもソフィアの事を考えて知らせてくれたんだぜ? 日頃の行いが自分を救ったんだってば」


「ケヴィンくん、良い事言いますね! たしかに、ソフィアさんは誰とでも仲良くて、だけど悪い事はちゃんと悪いと言ってくれるからみんな頼りにしています」


「でもあたしの方は見る目がなかったんやん。見抜けなかったあたしが悪い」


 皆がソフィアの人柄を褒め、あっという間に燃え上がったかと思ったら急に水をかけられ鎮火した恋を忘れるよう助言する。


「ソフィア、あのさ。信じてみて裏切られた気持ちはよく分かるよ。勇気を出したのにこれじゃ、辛いし言いよる男を全員疑いたくなると思う。でもさ、俺達みんなそうなんだよ」


 フューサーがやや遠い目をしながら慰めと励ましの言葉を口にする。


「俺達にはそもそも特殊な力はなくて、目の前に現れた1人1人を信じて行動するか、疑いの段階で拒否するかを常に判断してるんだよ。みんなが初めての恋人と成就する訳じゃない」


「……」


「相手は結婚詐欺師だったわけだろ? そりゃソフィアから見ていい男に思えるの当然だろ。そういう風に見られるための行動を冷静に出来るんだからさ」


「ソフィアは悪くないでしょ。騙す方が悪いんだよ」


「うん、私もそう思います。同じ手口が島中に広まっていて、それでも警戒心なく騙されたとなれば別ですけど、騙す方が悪いのであって、人を好きになって悪い事はないです」


「……」


 ソフィアは失恋と不甲斐なさと悔しさと憎しみとが混ざり合い、自分の気持ちにどう整理を付けていいのか分からない。涙は止まったがクッションに顔を押し付けたままだ。


 これ以上は時間が解決するしかない。そう思って皆がそろそろ解散しようと腰を上げる。

 イングスもそれに合わせて立ち上がったのだが、イングスの考えは皆とは違った。


「ソフィア。君の手伝いが必要なのだけれど」


「イングスさん、今はそっとしてあげましょう」


「僕はソフィアの手伝いをしたいから、ソフィアの手伝いが必要」


「ん? どういう事だ?」


「ソフィアは情けあるでしょ」


「情けないの反対は情けあるではないと思いますけど……立派だと思いますね。情けなくはないです」


「ソフィアは立派な情けある人間」


 イングスはイングスなりに、自分の知っている言葉でソフィアを励まそうとしたのか。

 言葉を使い間違えながら、持論を続ける。


「僕は悔しいという気持ちは習得していないけれど、人間は悔しい時どうすれば悔しくなくなるのかな。ソフィアは立派で情けあって、悪くない。あとは残ってる悔しいをどうにかしたら、ソフィアの修理は終わる」


「ソフィアのために何かしたいんだな。そうだな、悔しいなら見返してやろうぜ? こんな泣き腫らしてふさぎ込むような姿、似合わないだろ」


「騙す方が悪いのだから、悪い人間は裁判する。ソフィアが悪くない事を証明する」


「そうだな。でも、それだけじゃ足りないかな」


 イングスの言葉に触発され、フューサーがパンッと手を叩いて切り替えた。

 悔しい思いをすべきはソフィアではなく、タムだ。


「犯罪者が後悔すべきなのは当然だ。偽装結婚を企んでいたわけだろ? 国の根幹に関わる大犯罪の未遂だから、オルキも陪審員も刑罰対象と判断する。だけど、俺達はそこで終わっちゃいけない」


「……どういう事」


 ソフィアがクッションから半分だけ顔を覗かせる。長い髪が涙に濡れて束になり、腫れた瞼に貼り付いていた。


「君は被害者なのだから、ちゃんと被害届を出して犯罪者に刑罰を与えなくちゃ」


「うん。それともう1つ、裏切った相手がソフィアだった事を、心底後悔してもらわないとな」


「……ソフィアさん、まずは瞼を冷やしましょう。ソフィアさんにその気があるかどうか次第ですが、見返してやる作戦、乗りませんか」


 ソフィアは少しの間黙り込んでいた。

 今はそっとしておいてくれ、放っておいてくれという気持ちが大きかったものの、恋人以外にはこんなにも恵まれているのだと実感もしていた。

 この仲間達は今、自分のために動こうとしてくれている。何より、心などないはずのイングスまでもがソフィアを認めている。


 その思いに応える事で、引きずる思いを振り切れるのではないか。何かしていた方が気が紛れるのではないか。その思いがクッションを抱える手に力を与え、ついにソフィアはクッションをぶん投げて立ち上がった。


「乗る」


「そうこなくっちゃ!」


「偽装結婚? 結婚詐欺? そんなのどうでもいい。このあたしを騙した事を死ぬ程後悔させちゃる」


「ふふん、罪を償わせて、ソフィアの仕返しも出来て、一石二鳥ってやつだ!」


 ソフィアは真っ赤な目をキリっと鋭く細め、台所の蛇口をひねった。

 アリヤがタオルを持ち、ケヴィンとフューサーが作戦を練る。


 一方、イングスはこの結果に大変満足していた。いや、心など勿論ないのだが、考えている通りにソフィアは元気になり、そしてタムは成敗される。そしてイングスにとってもいい事だった。


「一石二鳥は、1つの事で、2つの欲しいものを得る事」


「ああ、そうだ」


「ソフィアは、タム・ジョキアの刑罰はどうでもいいって言った。2つあるうちの1つは要らないんだね」


「まあ、復讐の方が先みたいになっちゃってるな。ちゃんと裁判にも委ねるぞ」


「一鳥はソフィアのもの。1つ余ったのは僕が貰う」


「……ん?」


「与えたい罪を決めるのは、僕が欲しい。そうすればもっと動物園の展示が増える」


「なんて恐ろしい子」

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