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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
オルキ国の内政

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罪の意識なき恋心

 



 * * * * * * * * *





「どなたもどうか、お入りください。決してご遠慮はありません」


「あ、はい……」


 港から15分程歩けばオルキ国立動物園だ。レナも存在は知っており、罪を犯した者達が収容される施設も併設されていると聞いてもいた。

 特にタムとレナの母国であるビリナイの政権は、オルキ国のように刑罰は世間への見せしめであるべきだと強く主張する立場だ。厳罰化を進める中で、空港が完成したらオルキ国を訪問したいと書簡が届いてもいる。


『 入園料 おとな 8ダール  こども 半額 3歳未満はおかねもらいません

 50クロム

 8イエン                       』


 レナは財布から50クロム紙幣を取り出して入園料ボックスに入れた。

 入口にいたのはイングス。放牧スペースでは3体の人形がテキパキと清掃をしていた。


「あの、他の係員の方はどちらに」


「ヒトの展示のところにいるよ」


 イングスが指し示す方へ歩けば、すぐに人の姿が見えた。園内の客は数名ほどで、展示されている動物や魚の方が多いくらいだ。レナはヒトの展示の前で話し込んでいる係員を見てタムではないと気付き、周囲を見渡した。


 しかし、タムの姿はない。レナはそれとなくタムの居場所を尋ねようと、敢えてソフィアに声を掛けた。


「すみません」


「はい? 何かお困りごとでしょうか」


「その……どうして人間が柵の中にいるのですか」


「人間はいませんよ。係員以外の方は立入禁止です。ああ、座ったりしゃがんだりしても駄目です」


「えっ、でも」


 目の前の柵の中には人間が5人。全員が薄茶色のつなぎを着せられ、何をするでもなく座り込んでいたり、うつろな目で歩いていたり。


「あれはヒトですよ。人間ではありません」


「でも、どこからどう……」


「人間ではありません。ヒトという動物です。飼育されている動物の詳細は、こちらの紹介文をお読みいただければよく分かると思いますよ」


 ガーミッドが低く明るい声で説明すれば、レナはガーミッドに見とれたように固まった。

 ソフィアが咳払いと共に場所を譲ると、レナは動揺を悟られないよう笑顔を作る。


 実のところ、タムに騙されている何も知らない哀れな女にちょっかいをかけるつもりだったのだが、実際に人間が家畜同然の扱いを受けているのを目の当たりにして、余裕がなくなったのだ。

 しかも目の前には背が高くガタイも良く甘いマスクのガーミッド。島内きっての男前が微笑んだなら、余裕を見せるための余裕が必要になってしまう。


「ヒトへの水やりはお止めください」「ヒトに餌を与えないでください」「ヒトにその他一切の物を与えないでください」「檻や柵の中に物を落とした場合、10万クロム以下の罰金をお支払いいただきます」


 レナが平常心を取り戻そうと胸に手を当てながら覗き込むと、注意書きの横に写真付きの解説が並んでいた。


 展示期間が無期限となっているのは、薬物を持ち込んだ個体だ。他にもその幇助をした個体、窃盗や暴力の個体を合わせて計5体。更にその横には、新しい6体目の解説が出来上がっていた。


「えっ」


 個体名はタム・ジョキア。ステータス部分には準備中のシールが貼られている。


 石に打ち付けられたその解説パネルを見てギョッとしたレナは、ついソフィアへと振り返った。


「どうしましたか? 気になる個体がありましたか」


「いや、あ……あの、その、ここには6体、ありますけど、えっと……あと1体はどこにいるのかなって」


 柵の中にいるのは5人。それと別の柵の中に羊が6頭と馬が2頭。タムの姿がない。


「ああ、あちらの檻の中にいますよ。昨日この動物園にやって来たばかりの個体で、まだ展示が始まっていないんです」


「そ……そうですか、有難うございます」


 レナはもはや愛想笑いを浮かべる事も出来ないまま、足早にタムの檻へと向かった。


「タム! タム!」


 レナが声を抑えて呼びかけると、崖に穴を掘って作られた一番奥の檻から返事がした。


「レナか!? レナ、駄目だ! 早く船に戻れ、来てはいけない!」


「タム、どう……して」


 レナが檻の前にやって来た時、そこには髪がボサボサで髭が伸びかかった男がいた。

 爽やかに髪を立て身綺麗にしていた恋人は、今やまだ身綺麗な方くらいの浮浪者の風貌になり果てている。


「どうして……何があったの!?」


「……俺達の計画がバレたんだ! レナの事にも気づいている、早く船に戻って、二度と来ちゃいけない!」


 タムの言葉を聞き、レナは涙を流す間もなく振り返った。ソフィアとガーミッド、その背後からイングスとアリヤも歩いてくる。


「ここはまだ人間になれていない個体を飼育している檻です。あまり近づいたり大声を出したり、しないで下さいね」


「あっ、えっと、わ、私か、帰ります」


 レナは化粧をしていても分かるくらいに顔色を真っ青にして立ち去ろうとする。こうなったらもう移住は無理だ。恋人を助ける事など出来やしない。今できる事はすぐに逃げる事だけだ。


「レナ・コールトン。あなたを結婚詐欺の幇助および国籍の詐取の疑いで拘束します」


「えっ、え?」


 ソフィアが口元だけで笑みを作り、レナの罪状を告げる。計画が完全にバレている事、敢えて今の今まで泳がされていた事、全てを悟ったレナは、力なくその場に座り込んだ。


「あたしがタムの恋人ごっこに気付かず浮かれとるのを見て、楽しかった?」


「そんな……」


 ソフィアがどこまで知っているのか、もしかしたらまだタムは自分のために全ては自白していないかもしれない。そう考えたレナはすぐ行動に移した。


「どういう事ですか、タムはあなたと付き合っていたんですか!? 信じられない……私と結婚しようって、いつか一緒になろうって、迎えに行くからって、言ってくれてたのに!」


「何を今更。もう全て知っ……」


「島で浮気をして、別の女と一緒になるつもりだったの!? 酷い! 私信じてたのに!」


「レナ? おい、嘘だろ、お前まさか俺を裏切って1人だけ逃げようとするつもりか!」


 タムが絶望の表情でレナの顔を見つめている。レナは自分が助かるため、タムを切り捨てようとしていると分かったからだ。確かにタムはレナに二度と来てはいないと忠告をし、レナだけでも助けようとした。

 だがそれは互いに愛し合っていると思っていたからだ。

 目の前であっさりと捨てる所を見せられるのは想定外だった。


「裏切ったのはそっちよ! 私というものがありながら、この人と……あの、彼女さん! 私、騙されていたんです! 彼女を作っているなんて知らなかったんです!」


「言いたい事はそれだけでしょうか。署までご同行願います。この場で騒ぐと営業妨害になりますから」


「ならないよガーミッド」


「えっ?」


「お客の人々が集まって来た」


 皆が100メータ程先の園の入り口へと視線を向ければ、そこには20人程の人だかりが出来ていた。


 娯楽と言えばカヤック体験や釣り、後は散策くらいしかない島だ。動物園付近を散歩している観光客がいてもおかしくない。


「お客がいっぱい集まると、動物園の利益が増える。だから署に行かなくていいよ」


「そ、そうですか? まあ、イングスさんが言うのであればそうしましょうか」


「私、入り口で皆さんの入場をお手伝いしてきますね」


 アリヤが入口に向かい、アリヤなりの全く通らない細い大声で「現在、イベント中のためお早めにお入りください! お釣りが必要な方はお申し付けを!」と言いながら受付を始める。


 イングスよりはマシだが、アリヤは時々一生懸命さが明後日に飛んでいく。天然とはこういう人の事を言うのだろう。

 ソフィアは一瞬だけ笑いそうになった事にハッとして頬を両手で挟み、レナに全て知っている事を告げた。


「あなたがタム・ジョキアの恋人である事だけでなく、共謀している事も把握済みです。自白を聞いていますし、送り合う予定だった手紙も押収しました。密会の会話も聞いています」


 港で抱き合いキスをする写真、レナがタムに送った手紙と、タムがレナに送るはずだった手紙。

 まだそれは自分じゃないと言い逃れするかと思いきや、レナはあっさりと諦めた。


「ハァ……なーんだ、最悪。せっかく移住して来れると思ったのに。移住出来るって言うから付き合ったのに、これじゃ意味ないっての」


「れ、レナ?」


「気安く呼ばないでくれない? 私はあんたを利用して移住したかっただけ。結婚まで漕ぎつけて国籍を手に入れたら、頃合いを見て捨てるつもりだったの」


「嘘だろ……俺を、騙していたのか」


 レナの突然の告白で、タムは涙をボロボロと流し、口角をだらりと下げた。もう好青年だった頃の面影はどこにもない。


「騙してた? 私と付き合ってる間、十分楽しませてあげたでしょ、この役立たず! 私はこの人と付き合いたくてこの島に移り住もうと思ったのに!」


 レナがガーミッドを指さす。その瞬間、誰もが「はっ?」と声を揃え、珍しく狼狽えるガーミッドを凝視した。

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