オルキ国の建国と強国への牽制
男が自身をギャロンの刺客と名乗った事で、ギャロンの代表らは明らかに焦っていた。
昨晩、ブルーン社会主義国のタンガニー・カカが逮捕されたというニュースは各国の耳に入っている。ブルーンの代表らは各国から会見を要求されても一切の質問を拒否しているのだが。
そのブルーンの大臣がギャロンに脅されたと主張している事と、被害者であるオルキ国が暴露した話の辻褄が合うと分かり、出席者の視線はギャロンへと集中した。
「我が国の大臣を脅迫し、オルキ国の王を暗殺させようなどとは酷い話だ。事実であるなら我が国の外務大臣はギャロン帝国によって実行犯に仕立て上げられただけの被害者であり、犯罪者ではない」
「……茶番だな。どうせブルーンはギャロンを形だけしか批判出来ぬよ」
ブルーンの首脳は毅然とした態度でギャロンを非難し、各国が家族を人質にされたせいでと同情を見せ始める。だが、オルキはその様子を呆れた顔で眺めていた。
「ブルーンの人間、君はどうしてオルキを殺そうとしたって分かったのかい」
「……ん?」
「昨晩ズィースが殺そうとしたのはケヴィンだよ、オルキじゃない」
「……ズィースとは何だ」
「操られた人形だよ。僕とそっくりの人形」
イングスが普段通り何も恐れぬ物言いでブルーンを問い詰める。ギャロンの機械人形がオルキ国の政務官を襲った話は周知の事実。
ただ、少なくとも一般向けの発表においてオルキが狙いだとは誰も言っていない。
「君はズィースがオルキを狙っていた事を把握していたんだね」
「ち、違う……言い間違えただけで全く知らない!」
「ズィースから話は聞いているよ。ズィースを作ったのが神で、ギャロンは神の理想の世界を作るべく世界を征服したいんだよね」
「デタラメな話を、そんな作り話で非難されるのは心外だ! こんな国の承認などして良いのでしょうか! 皆さん、危険な団体だと思いませんか!」
ブルーンの首脳陣がそうだそうだと声を揃え、連合国の国々からまばらな拍手が沸き起こった。
「お言葉ですが! 他国の王や政務官を暗殺しようとした人間がいる国よりは何億倍もマシだと思いますね。貴国は大臣が我が国の王と政務官を殺そうとした事を謝罪もしない無礼で非常識な国なのでしょう?」
フューサーが1つマイクを手に取り、ブルーンの主張に反論を始める。
「事実は事実、あなた達の外務大臣は、我が国を襲いました。事実です。我が国を危険認定する前に、自らの非礼を詫びるものではありませんかね、被害者側から指摘される前に」
「……我々だって外務大臣を脅され、刺客にさせられた被害者側なのですから、それは」
「なるほど、脅されてやったら殺人は無罪であり謝罪は不要、という事ですね。その道理、国内の全ての犯罪に対してスタンスを維持して下さいね。自国民にきちんと説明して下さい、脅されたら何をしても咎められないと」
「……」
「では島長、この会議が終わったら俺を脅して下さい。俺がブルーンの政治家を暗殺しに行きます」
「あ、じゃあ俺も行く! イングスも来るか」
「はーい」
「吾輩も向かおう。そうだな、誰か吾輩を脅してくれぬものか。悪人の2,300人でも喰らえば随分と腹も満たされよう」
まともな国なら、オルキ国だけは敵に回してはいけないと理解している。魔獣も人形達も規格外、しかも魔獣は人間の秩序に合わせてやっているだけで、その気になれば全て無視し殺戮の限りを尽くす事も出来る。
魔獣なのだから人間の法律など何ら適用を受けず、人間の兵士程度では全く歯が立たない。
「そうだな、別に今でも構わぬか。吾輩はちょうど腹が減っておる」
「ここでおなかを増やすかい。これ食べる?」
足元には恐怖でガタガタと震えるスナイパー。冗談を言っていない事は伝わったようで、ブルーンの首脳はようやく謝罪の言葉を口にした。
「求められなければ出て来ない謝罪に、貴様は幾らの値段を付けるつもりだ」
「た、大変申し訳ない事をしたと、心から謝罪させて頂きます」
「貴様の謝罪が吾輩にとってどんな利益になるのか、全く分からぬ。これまでの態度で貴様の謝罪に値が付かぬ事はよく分かっておる」
「我が国はギャロンに脅され……」
「それは我が国が汲んでやるべき事情ではない。ギャロンと貴様らで話を付けよ。そこのギャロンの愚か者共。振舞いには気を付ける事だ」
「……我々の与り知らない国内の犯罪組織が命を狙ったのでしょう。危険な目に遭わせた事につきましては謝罪させて頂きます」
ギャロンの代表らは表情を崩さず淡々と頭を下げた。いくらでもネチネチと責めることは出来たが、オルキはいったんこの話を終わらせる事にした。
「イングス、この畜生は我が国に連れて帰るぞ」
「はーい」
「それは国際的な通例に反すると思います。事件の起きた国、もしくは国籍に応じ祖国の刑を受けるべきかと」
「そうか。ならば国と国の話として対応をせねばならぬな。アリヤ、この殺し屋の母国に1000億クロムの請求書を送るように」
「分かりました。ガーデ・オースタン国内で起きた事件ですから、ガーデ・オースタンに送りますか? それともこの犯人の国籍に……どちらの国籍をお持ちです?」
殺し屋がギャロン国籍を打ち明ける。
ギャロン国籍の者は、現在国家の要人でなければ入国も滞在も認められていない。
「要人の護衛として入ったのだな」
「……はい」
「ガーデ・オースタンの代表にお尋ねします! ギャロン国籍の者が合法的に滞在する事は可能ですか」
「国際会議や皇帝並びに政府関係者と警護の者でなければ許可は下りません」
「ギャロンの代表として何か言いたい事はあるか。ジョエルもギャロンも我が国に攻め込んだならず者国家だ、我が国が好意的でない事くらい、覚悟は出来ておろうの」
「……」
各国の代表が勢ぞろいする中での公開処刑。しかも、ギャロンはオルキ国を攻め1度失敗している。
ジョエルは侵攻が失敗しただけでなく、捕えたフェイン王を奪い返されたという大失態のおまけ付き。
「我が国の主張は以上だ。我が国を承認されたし」
しばらく沈黙が場を支配した後、場内にアナウンスが流れる。
≪オルキ国の国家設立を承認する国の代表は、その場でご起立下さい≫
オルキへの期待感の表れか、起立した代表は100か国。一部連合国側の国も支持を表明している。ブルーンも起立しなければならない立場に追い込まれ、苦々しい表情ながら賛成だ。
「これで、正式にオルキ国ですね!」
「俺ら、ようやく国民って堂々と言えるんだな」
「色んな国と国交を結び、世界と渡り合える国にしましょう、島長」
「ああ。ひとまず悲願の1つは達成された。だがここで受けた恩は必ず返さねばならぬ。問題はこの後の
海洋交通に関する条約の変更だ。必ず阻止する」
国家承認を受けても、まだ手放しで喜ぶことは出来ない。
シール諸島、キュイ、合わせて4か国は海洋国家の権利を守るために手を貸してくれた。オルキ国が誠意を見せ、実際に救世主となれなければ存在価値は薄れてしまう。
ただ敵に回しては怖いから従うというだけでは、本当の意味でのオルキの支持者とは言えない。オルキが必要なのは召使いでも奴隷でもなく、支持者だ。
≪オルキ国の代表は席にお戻り下さい。続きまして、次の議題に移ります≫
領海内の航行に関する条約の見直しについて。前方のスクリーンに映し出された文字を見つめながら、各国が殆ど自身の立場を決めている。どちらにするか悩んでいるとしたら、それは内陸国でかつ連合軍の影響を大きく受けている国々だろう。
ただ、先ほどのオルキ国の態度を見て、連合軍を恐れ服従するしかないという空気が一気に変わった。
それは「オルキ国側についた方が得策」という情けない判断かもしれないが、連合国側、つまり船舶の航行は申請するだけで許可は要らないとする側の意見の支持が減ったという事。
≪こちらに関し、意見のある国は挙手を≫
20か国程の代表が一斉に手を上げた。どちらの立場かは分からないが、最初に指名された国の代表が立ち上がり、壇上へと向かう。
「モリガン共和国、首相のエリカ・ワトソンです。我が国は他国の領海を通らなければ物資輸送に支障が出る国々の代表として、船舶の航行を許可制から報告制に変更する事を支持いたします」
モリガンの首相は真っ赤なスーツをビシッと決め、真っ赤な口紅を見せつけながらハキハキと主張する。
心なしかオルキ国の席を見ている、そう思った時だった。
「先程のやり取りに現れておりました。他国を威圧するような態度を続けるオルキ国を見て、気分次第で海域を封鎖し、嫌いな国の船舶を追い出す事も可能な現行法は危険と思うのが当然です!」




