とてつもなく平和主義で、ありえないほど脅迫上手。
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≪続きまして、国家承認を求める地域、自治領の紹介です≫
会議が再開され、いよいよ国家承認を得たい者達の時間が訪れた。壇上のスクリーンには3つの新国家の名前が並んでいる。オルキ国だけではないようだ。
「アウルム、南ジョエル……」
「ジョエル連邦が自分の領土から独立させるとは思えぬが」
「アウルムも南ジョエルも、私には不自然に見えます」
≪並びは申請受付の順となっております。ご了承下さい≫
オルキが疑問を投げかけ、アリヤも何かがおかしいと答えた。
オルキ国は3番目。不審な点はあれど、他のやり方を先に見る事ができるのは幸運だ。
≪アウルム社会主義共和国の代表団は、壇上へお上がり下さい≫
「社会主義国、か。アリヤ、アウルムってどこの地方か分かるか?」
「……ギャロン帝国の東方にある山岳地帯の事ですね」
「そんな所が独立? つうか、ギャロン帝国が自国からの独立を許すと思えないんだけど」
アウルムの位置がスクリーンに表示され、続いておよその面積と人口、産業などが映し出された。
厳密にはギャロン帝国に3方を囲まれ、東の険しく高い山脈を超えなければ東の隣国に行けない地理にあり、ギャロンに頼らなければ何も出来ないような場所だ。
「人口1万人……あれは山岳少数民族エブラ族の居住地の人口に等しい数だと思います」
「エブラ族って、ギャロンの強制労働に対抗しようとして弾圧された奴らだよな」
「そうです。身体能力が高く聡明で温厚な民族ですが、ギャロンの弾圧で今は独立どころではないはず……」
壇上に立っている者達はアリヤが知るエブラ族ではなく、ギャロンの8割を占めるギャロン人だという。アウルムの代表らは特に感情を込める事もなく淡々と声明を読み進め、まばらな拍手を気にもせず判断を待つ。
「我々がギャロンに弾圧されているという噂はあくまでも噂であります。この度、ギャロン帝国は我々の独立を支持し応援すると表明して下さいました。寛大で心優しいギャロン帝国政府に感謝申し上げます」
場内にどよめきが起きた。それもそのはず、弾圧はこの数年の出来事であり、その惨い仕打ちは世界中から非難されたのだ。
「これは何か裏があるようだな」
≪アウルムの国家設立を承認する国の代表は、その場でご起立下さい≫
少数民族が大半を占める国家の独立。それを支持しないというのはなかなか難しい。特に連合国の国々や貧しい国々の賛成が目立つ。
だがレノン、ガーデ・オースタン、シール諸島を始め、連合国側を除く海洋に面する国々は着席したままだ。結果、大勢が起立したように見えたものの、賛成派は122か国中38か国。
国家承認は5か国で良いのだから、38か国が支持すれば問題なく国家となれる。
議長がアウルムを国家として承認する旨の宣言をし、国家承認の設立証明書が手渡された。
≪続きまして、南ジョエルの代表団は、壇上へお上がり下さい≫
壇上に上がったのは、やはりジョエル人。南地方に多いとされる褐色肌の人種ではなく、大多数を占める肌の白い者達だ。
南ジョエルもまた、38か国の賛成をもって、国家設立が承認された。
しかも、どちらの国も予め国交を結んでいる国が連合国を形成する主要国家であり、全く同じ5か国だ。
「これは、連合国による何らかの工作と見た方が良い」
≪続きまして、オルキ国の代表団は、壇上へお上がり下さい≫
オルキ国の番になった。
一番後ろの列から1匹と3人と1体が緩やかなスロープを降り他国に拍手を送られながら壇上へと向かう。劇場のような造りの会場の壇上に立てば、奥へとせり上がっていく会場中の視線を浴びることになる。
参加国の席からでは、目が悪ければ視認も難しい大きさのオルキが演説台に飛び乗った。
イングスがマイクを演説台に寝かせて置いてやると、威厳あるオルキの声が会場に響き渡る。
「吾輩は魔獣オルキである。この度はオルキ国建国を宣言するため参った。皆、我が国の建国につき承認されたし」
観客席からは本当に猫が喋っている、魔獣という話は本当だったのかなど、戸惑いや驚きの声が聞こえて来た。
一方、アイザスの代表団、セイスフランナの代表団の席からは場違いな程元気な拍手が聞こえてくる。
「オルキ諸島は既に連合国の攻撃を数度受けた。だが、たった人口数十人の我が国は連合国を打ち破り、未だ領土領海を守り抜いておる。愚か者の征服欲のために世界は存在しない。この世界から戦争を排除し、争いを好み畜生にも劣る者を止めたいのなら、我が国を支持するべきだ」
オルキに怖い者などない。既に5か国以上の支持を取り付けてもいる。オルキの物言いに不安を覚える代表団もいるようだが、オルキは堂々と演説を続けた。
「連合国から支援と称し粗悪な施設や鉄道を押し付けられ、返済に苦しんでいる国もあると聞く。そうやって連合軍に従わねば息の根を止められるという恐怖に支配され、不本意ながら従っている国も……」
「その発言は聞き捨てならない! 連合国への侮辱である! 訂正と謝罪を求める!」
勢いよく立ち上がり大声で怒鳴ったのはギャロンの代表団だった。
世界第1位の人口を抱える軍事国家であり、連合軍の主要国。本来ならオルキ国のような小国が従う相手でもおかしくない。
しかし、オルキはギャロンの事など何も恐れていない。それどころか、人間の中でも特に愚かな集団だと認識している。
「侮辱しておるのだ、当たり前だろう。我が国に攻め入り、無様にも我が国に戦艦を奪われた連合国の畜生共をなぜ吾輩が尊重してやると思うたか。小僧、何の力も持たずただ権力に縋るだけの無能が強がるのもいい加減にしておけ。少なくとも吾輩の前ではな」
オルキは演説台から降り、その体を本来の大きさに戻し始める。
会場中から悲鳴が上がり、さすがのギャロン代表もその場でのけ反るように距離を取ろうとした。
「くだらぬ争いは、身を滅ぼす。そう思うだろう。貴様ら如き、吾輩は何の恐怖もないのだよ。おとなしくしておけ、次に我が国に害成す行動を取れば……この先は言わずとも分かろうものよ」
オルキの迫力に、もう抗議をする者は続かなかった。
オルキは最後に連合国側の国々、そして立場の弱い国々に釘を刺した。
「オルキ国が国家承認を要請すると聞き、慌てて2か国を用意したのだろう? 海洋航行の規則変更に関し、我が国の加入で反対派は3分の2を超えるからな」
オルキは連合国の魂胆を見抜いていた。一瞬表情を歪めたジョエルとギャロンの代表を、オルキ国の参加者が見逃す事はなかった。
体を猫の大きさに戻し、力を使って辛い様子を微塵も見せようとしないオルキに代わり、アリヤが代わりにマイクを握った。
「昨晩、我が国は暗殺者を送り込まれました。国の名誉として名は伏せましょう。そして、この会場に来る際も車を狙撃されました。犯人はまだ捕まっていませんが、恐らく我が国が承認されては困る勢力があるのでしょう。まだ狙撃犯は捕まっていませんが……」
「捕まえたよ」
「……えっ?」
「狙撃犯は捕まえたよ」
「……イングス君? 狙撃犯は今どこに」
思わず聞き返したアリヤの声をマイクが拾う。イングスは当然のように大きく頷くと、おもむろに壇上を降りて入口へと駆けだしていく。
「ちょっと、イングス君!」
イングスが会場を出て行き、皆が呆気に取られる。1分程でイングスが1人の男を引きずりながら戻って来た。男は走るイングスのせいで床や机に体中を打ち付け、壇上に転がされた時にはもう呻くだけ担っていた。
慌てて警備員が追ってきたが、時すでに遅し。
「預かってもらっていたよ。きっと美味しいからオルキが食べたいはず」
「……ガーデ・オースタン国内の犯罪者は吾輩が喰うわけにはいかぬ」
「そうなんだね」
「イングス、そんなガッカリした顔する場じゃねえぞ」
「僕はガッカリしているんだね」
「いや……何でもない。続きをどうぞ」
壇上に転がされた黒ずくめの男は何なのか。新興国が突然連合国を挑発したかと思えば魔獣がとんでもなく大きくなったり、急に少年が走ったかと思えば男を引きずってきたりと、参加国の代表らはさっぱりついて来れていない様子。
イングスは男を強制的に立たせ、マイクを口元に押し付けた。
「誰か君の命を保証してくれるのかい」
「……」
「君の味方であるべきが誰か、よく考えるべき状況だと思うよ」
イングスは穏やかな笑みと口調でえげつない脅しをかける。黒ずくめの男はとうとう観念して口を開き、潰れかかった喉から声を絞り出した。
「ぎゃ……ギャロン政府に、雇われ……殺し屋、です」




