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【オルキ国】ー神に捨てられた人形と魔獣の孤島開拓-  作者: 桜良 壽ノ丞
国際会議

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ズィース

 


 その後もカカは偽物の方が本物だと主張を続けた。

 けれどオルキが問題を出し、イングスと偽物がメモ帳に答えを書き、ケヴィンが回答を出せば、その答えは2体でまるっきり違っていてどちらがイングスかはすぐ分かってしまう。


「火を起こした時、イングスは1年前まで何と言っていたか」


 偽物の回答は「火を起こした」だが、イングスを知る者は正解が「火がおはよう」である事を知っている。

 自然か人工かの判断についても、偽物は正確に、イングスは自分が納得したままを答えた。


 例えばイングスの解釈では馬は自然に含まれないし、ヒーゴ島は人工に含まれる。

 だが、羊毛で作られたセーターは自然に分類される。天然由来の素材を使うと教えられた物は自然で、自然に手を加えた物だと教えられた物は人工だと判断しているからだ。

 こんな複雑で異議しかない解釈は、人との生活で学んだイングスでなければ出来ない。


「貴様を見ていたが、目くばせで反応させているようだな。ならば人形に目隠しをさせるか」


「そんなのは言いがかりだ。あんたらは偽物扱いされているこっちの人形が可哀想と思わないのか」


「俺達からすれば、イングスじゃねえのにイングス役させられる人形の方が不憫だ。もう無理だから諦めろよ」


 イングスとオルキがいれば、仮に偽物が暴れたとしても周囲の人を守れるだろう。ルダの息子に起きた事件のようにはならない。だが、あまり長引かせても良い事はない。


「島長」


「何だ」


「偽物は多分、まだ……」


「ふむ、一理ある。どこまで付けたか」


「大丈夫だ、最後から付けりゃ間違いない」


「何をコソコソと相談してやがる。ま、どれだけでも待ってやるさ。俺が部屋に戻るのが遅いと、心配して警備の者が降りてくる頃だからな」


 カカはイングスとオルキの事を見くびっている。オルキが本来どのような姿なのか、イングスがどんな離れ業で国を守って来たのか、よく把握していないらしい。


「係の者よ、1つ教えてくれ」


「はい、何でございましょう」


「この国において、吾輩が人を喰らったなら裁きを受ける事になるだろうか」


 フロント係は僅かに驚いた顔を見せたものの、すぐに毅然とした表情に戻す。


「所有者を処罰する法律はございますが、人間以外を裁く法律はございません」


「正しい知識に礼を言う。という事だ」


「脅しのつもりか」


 カカは顔色を青くしながらも、まだ諦めようとしない。そして思いついたように慌てて引きつった笑みを作り、オルキを負かすつもりで口を開く。


「それならば、人形が人を殺しても人形は罪には問われないんだよな? おい人形、やれ」


 そう言うが早いか、偽物がケヴィンへと手を伸ばした。カカの言葉を命令と判断し、この場で一番近くにいる人間を殺そうとしたからだ。


 その手をイングスが掴むと、偽物はイングスを排除して命令を遂行するべく争いを始めた。


「イングス!」


「イングスが負けるわけなかろう、心配いらぬ。だがこの場で暴れては迷惑だ、外でやれ」


「はーい」


「1人も怪我人を出すなよ。死人を出すなど論外だ」


「はーい」


 イングスは当然のように偽物を蹴り上げ、起き上がろうとするところでもう一度エントランス側に蹴り飛ばした。


「クソッ! 何おとなしく蹴られてやがる! 最強の人形兵器じゃなかったのか!」


 イングスが偽物の手足を縛るように持ち上げ、ホテルの建物の外へと出た後で地面に叩きつける。偽物は特に感情を見せるでも痛がるでもなく、ただただホテルの中へ戻ろうと暴れる。


 イングスはそれを阻止するべく、偽物をひたすら殴り、蹴り、ケヴィンから遠ざけていく。静寂の中に鈍い音が響き、時折地面に布が摺れてザァーっと波のような音が立つ。

 その様子を見ていたカカは夜中である事も忘れ、たまらず叫んでしまった。


「おい! 何でやり返さねえんだ! この出来損ないが!」


 その大声で周囲の建物の窓が開き、照明の光が暗闇から筋となって外を照らし始めた。隠密のつもりがこれでは目立ち過ぎだ。

 カカは作戦失敗と判断し、人形に「逃げるぞ」と呼びかけ逃走を図る。しかし、そんなカカをケヴィンが後ろから羽交い絞めにして拘束した。


「悪いな、ブルーンの大臣さん。あんたを逃がすわけにはいかねえんだわ」


「放せ! 俺が何をしたってんだ!」


「言いがかりをつけて来たところからこの乱闘騒ぎまで、ぜーんぶ監視カメラに映ってるっつうの」


「わ、罠だ! 俺を罠に嵌めやがったな! 俺にこんな事をして、タダで済むと思ってんのか!」


 カカはとにかく逃げたい一心でケヴィンを脅しにかかる。ブルーンは人口1000万人を抱える大国だが、そんなマウントはオルキ国には通用しない。


「タダで済むとは思ってないさ。迷惑料くらい貰わねえと割に合わねえから、マイナス20万クロムくらいかね。あざーっす」


 エントランスにケヴィンが現れた事で、偽物は少しだけ抗う力が強くなった。イングスを跳ね除けて駆けだそうとし、イングスがそんな偽物をまた突き飛ばす。

 その様子を見たカカは、イングスよりも偽物の方が劣っているのだと判断し、ついに保身の言い訳を始めた。


「お、俺は悪くないんだ! 連合国側から脅されて、人質を取って帰らないと国で待つ妻子が……」


「何言ってんだ、お前も悪いっつうの。悪くないわけねえだろ」


 騒動で起きたのか、アリヤも警備の者と一緒に降りて来た。だが、どういう状況なのかは聞いていなかったようだ。


「島長さん、ケヴィンくん! イングスくんは何を……」


「俺は脅されていただけだ、従うしかなかったんだよ! お願いだ、許してくれ!」


 アリヤはイングスとイングスが争うような状況を見て、思わず固まってしまう。


「イングスさん!」


「はーい」


「はーいじゃなくて、何をしているんですか!」


「この人形がケヴィンを殺そうとしているから、殺せないようにしているんだよ」


「何ですって……」


「この愚か者が命じたのだよ」


「あなたは、ブルーン社会主義国のタンガニー・カカ様ですね! どうして人形を操って我が国の政務官を殺そうなどと……」


 アリヤの澄んだ声が騒めく中でもひと際通る。これで誰が何をして、今どういう状況なのかがすっかり伝わってしまった。

 これで万が一無罪となり釈放されたとしても、ブルーンの外務大臣が騒ぎを起こしたという事実が広まるのは確実だ。


「ハァー、まったく。頼るべき相手を間違えなければ、今頃貴様も貴様の家族も、貴様の国諸共危険なく平和な将来を約束されたというのに」


「何を言っている! おいクソ猫! 何が王だ、魔獣だ! 人間の世の中で偉そうに生意気な事を言うなよ!」


 オルキは獰猛で聡明ではあるが、冷血ではなく道理と義理は決して忘れない。非難され見下されようと、自身が間違っていれば聞き入れるし、間違った事を言われたら譲らない。

 ただし、それはあくまでも議論の中での話。一方的で理不尽で、明らかに意図しての侮辱を耐えてやるほど優しくはない。カカの言葉は放ってはいけないものだった。


「神の気持ちなど一生分かってやることはないと思っていたが、成程。こんな愚かな個体がゴロゴロいるのなら、捨てたくもなるだろうの。ケヴィン、さっさと人形を止めさせろ、もう良い頃合いだ」


「分かった。島長、喰うのだけはダメだからな」


 オルキがケヴィンの肩から飛び降り、その場で本来の姿へと変わり始める。


「ひっ……」


 カカは大きくなっていくオルキの姿に腰を抜かし、ただただその場でオルキを見上げるだけになった。


「どうした、先ほど吾輩に吐いた侮蔑の言葉は虚勢か?」


 オルキがカカの顔に鼻先が触れる程近づき、その顔をザラリとした舌で舐めてやると、カカは恐怖のあまり失禁してしまった。


「人形を止めよ」


「は、はははい……」


 カカが震える声で指示を出し、偽物は何事もなかったかのように静止した。


「人形への指示の出し方がヘタクソ過ぎ。こいつらはひと癖ふた癖どころじゃねえの。イングスと戦えって言ってないんだから、俺に向かおうとするだけでイングスに反撃しないのなんて当たり前」


「ケヴィン、この状態で何を言ってやってもどうせ頭には入らぬぞ。賢い脳を持っておるならこんな騒動にはならぬ」


「それもそっか。んじゃ思考力低下してるうちに。この人形、俺達が貰っていいな」


 カカは頷くしかない状況。小刻みに頷くのを了承と見做し、ケヴィンは偽物へとゆっくり近づく。


「お前、本当の名前は? どうせ無いんだろ」


「僕はイングス・クラクスヴィークと同じって言われた」


「それはお前の名前じゃなくて、イングスのフリをしてるだけだろ」


「そう言われると、そうかもしれないね」


 人形にはケヴィンの睨んだ通り、名前がなかった。

 ケヴィンがオルキとアリヤへ振り向き、1匹と1人はゆっくり頷く。


「よーし、んじゃお前の名前はズィースだ。イングスのフリはしなくていい、お前はイングスじゃなくて、ズィース。お前は魔獣オルキの物だ。分かったか」


「分かったよ」

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