表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【オルキ国】ー神に捨てられた人形と魔獣の孤島開拓-  作者: 桜良 壽ノ丞
国際会議

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/159

思惑と根回しに自衛策を

 




 * * * * * * * * *




「オルキ王、明日の会議ですが、開始はおそらく1時間程度遅れるでしょう」


「何か紛糾しておるのか」


「連合軍側と和平軍側、それに中立国と言いつつ利害関係にある国々、それぞれの意見がまったく纏まらないのです。今更ですが」


 豪かなホテルのパーティールームに、レノンの要人4名と護衛、それにオルキ国側の3人と1匹と1体が揃っている。

 レノン側の計らいで食事会が設けられ、オルキ達の前には島で味わえない贅沢な料理がずらりと並ぶ。

 レノンからすれば、オルキ国など交流のある数多の国のたったひとつ。

 しかし、オルキ国は連合軍と和平軍に分かれ延々と続く戦乱の世のゲームチェンジャー。良かれと思っての招待だが、当然恩を売って味方に付けたいという思いもあるだろう。


 イングスは食事を摂らない。オルキのためにスープを冷まし、魚の骨を綺麗に取り除き、ステーキをひと口大に切り分ける役だ。


「メインランドではお見掛けしませんでしたが、本当に……人形なのですか」


「うん」


「こうして一緒にいると何も食べさせていないように見えてしまうから、申し訳ない気持ちになっちゃうんですよ」


「食べたいとは思わないのですか」


「思わないよ。君達が食べたくないと思わないのと一緒じゃないかな」


 イングスが本当に人形である事を確かめたレノンの要人達は、イングスの武勲も知っている。

 もしこの人形が戦争で使われていたなら、たった10体相手でも何千人の兵士が殺されていたか分からない。

 実際、ジョエル連邦で襲われた際は、殺すなと言われていなければ数百の兵士全員が死んでいただろう。

 その主がまた魔獣なのだから、絶対に敵に回したくない国なのは間違いない。


 オルキ国の面々とレノンの面々を見比べ、レノン側の方が緊張しているようにも見える。


「つう事は、明日のトリスとの打ち合わせを9時からやんなくても良かったんだな」


「1度決めたのだから、時間は守った方が良かろう」


「何か、ご予定が入ったのですか」


 レノンの外務大臣が隣に座る首相と表情だけで合図する。


「シルトンホテルの社長と商談があるのです」


「9時から、ですか」


「ええ。何か」


 政務官の女が手帳を開き、明日のスケジュールを見せながら首相と何かを相談する。1分も経たずに政務官がノートを内ポケットにしまうと、首相が申し訳なさそうに理由を話し始めた。


「可能でしたら、11時には会議場にお越しいただきたいのです」


「打ち合わせは早めることも出来るであろう。13時の会議予定が14時からになるとして、11時に向かう事情があるようだ」


「はい。島嶼防衛会議に出席いただいて、外国籍の船が領海および排他的経済水域内を航行する際、許可制ではなく申請制にしたいという話が出ている事はお伝えしたと思います」


「ああ。開催日自体が延期された結果、その採決が我々の加盟後ではなく、加盟前にされる事になったと」


「ええ。ですが会議が長引き、その議論が明日の昼からの予定に間に合いません」


 停戦の提案をする和平軍、和平軍から賠償と領土割譲をもぎ取りたい連合軍。どちらも譲らないのだから話は進まない。中立軍は和平軍の支持に回る国が殆どだが、停戦命令に効力を持たせる「3分の2の賛成」まであと数か国足りない。


 連合軍は一度はフェイン王国を占領し、沿岸部の広範囲を統治するまでに拡大した。

 次は石油資源の豊富なシール諸島と金銀宝石、鉄鉱石など鉱物資源に恵まれたセイスフランナを占領しようとしているため、経済的に豊かで発展した国ほど和平軍側についている。


 しかし、一方で貧しい国々は殆どが連帯政策と呼ばれるギャロン帝国など連合軍側の発展途上国支援に頼っている。

 セイスフランナやレノン、ガーデ・オースタンなどの経済大国が名を連ねる世界合理化基金という制度もあるが、連帯政策の審査は緩く、返済計画が非現実的でも融資を受ける事ができるからだ。


「連合軍の支援を受ける国は年を重ねるごとに増えています。今年可決も否決も出来ない状態で会議が終わってしまえば、来年にはとうとう申請制を支持する票の割合で可決されるかもしれません」


「フン。奴らめ、悪知恵が働くようだ」


 実態は連合国による弱貧国の傀儡化だ。

 とにかくお金が欲しい、橋を架けたい、飛行場が欲しい、道路を敷設したいという切羽詰まった思いにつけ込み、相手国に支援を持ちかける。


 必要な資材は全て連合軍側から供給され、労働者も連合軍側の国から来る。それら労働者向けの商人が店を開き、現地の人々は完成するのを待つだけ。


 国内の産業が潤うでもなく、経済が回るきっかけにもならず、失業者に仕事が与えられることもない。

 要望通りではない施工で不必要な設備や機能を追加され、追加の工事金はしっかりと請求される。

 ただ不相応で品質に疑問の残る完成品がその場に残され、莫大な借金を払っていくだけだ。


 資材の代金、労働者への賃金、それら国内で持て余しているものを相手国の金で払わせる。支援と称して実態はただの連合国側の金稼ぎなのだ。

 騙されている事に気付くのは、全てが止めようのない所まで進んでから。


 その政策の危険性は各国が叫んでいるというのに、弱小国からは未だに貧しい国を支援してくれる優しい連合軍として支持されている。2度、3度と支援を受け、騙されている事に気付いていない国もあるくらいだ。


「ですが、その採決にオルキ国は参加できないんですよね」


「ええ、おそらくそれが狙いでしょう。オルキ国が加盟すれば、オルキ国が申請制への変更を支持しないと分かっているからです」


「じゃあ、どうにもできないんじゃないですか」


 ただ会議が長引き、可決も否決もされず、オルキ国の正式加盟が遅れるだけ。オルキ国が出来る事は何もないように思える。


 だが、アリヤがそこでふと制度の1つを思い出した。

 丁寧にフォークとナイフを置き、口元を拭いて、とても急いだ様子はないのに会話のペースを乱さない。


「会議が終わったら帰る国がありますよね。会議の終了時間は3時間しか延長できない決まりで、この10年間で少なくとも4回は時間切れになっているはず」


「はい。会議後の滞在費は自腹ですからね、予算のない国はすぐに引き上げます」


「だから、議題1つにつき延長は1時間まで。全体の予定が2時間ずれた時点で次の議題を先に片付けることになるはず」


「その通りです、アリア様。今回の会議、否決するための票数も可決するための票数も足りない事は分かっていました。連合軍側が票を買収している事も承知しています。ですから、我々はどうしても当初の予定通り、先にオルキ国の正式加盟を済ませなければならないのです」


 国際会議における承認行為は省く事が出来ない。時間切れで承認できない事になってはならないため、後に控えた議題を先に済ませ、残った時間を紛糾した議題に充てるようになっている。


 わざと海域問題までの幾つかの議題を長引かせ、海域問題が時間切れで後回しになるよう、否決派の国々が質問を大量に投げかける。明日はそうやって11時に時間切れとするのだ。


「オルキ国の加盟表明を受け、意見を変える国があるかもしれません。連合軍側は支援の中止や貸付金の即時返済を迫るかもしませんが、その場合、我々世界合理化基金の加盟国も再審査で援助する用意があります」


「なんつうか、政治ってそんなおっきな思惑で溢れてんだなあ。俺みたいな一般人が出て大丈夫なのかよ」


「軍隊に2、3年いただけで、俺達は何も分かっちゃいないんです。レノン軍の2年生が国政に口出しできると思いますか? 荷が重すぎます」


 あまりにも戦略と策略と謀略にまみれた世界を見せられ、ケヴィンもフューサーも気後れしてしまう。


 だが、オルキは特に気にした様子もない。むしろ面白がっているようでもある。


「イングス。今日はこのロビーに待機せよ」


「はーい」


「この者らとホテル内に滞在する連合軍以外の国々全員を守れ」


「はーい」


「そなたらはガーデ・オースタンの警備隊に厳重警備を依頼し、他のホテルに滞在する者を警備させよ。和平軍側の思惑に気付いているなら、今夜仕掛けて来るぞ」


 オルキの忠告に、レノン側の全員の顔が強張る。


「心配は要らぬ。どれだけ愚かで哀れな国々を操ろうとも、人の道を外れては生きていけぬと吾輩が教えてやろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ