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【オルキ国】ー神に捨てられた人形と魔獣の孤島開拓-  作者: 桜良 壽ノ丞
国際会議

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静かなる神の崩壊

 



「島長、どうしたと?」


「……奴が今のイングスらを見たなら、取り返したいと考えると思わぬか」


 オルキが1匹でブツブツ言いながら考え込んでいると、アリヤの代わりに書類を便箋に入れていたソフィアが寄って来た。

 独り言ならぬ1匹言のため何でもないと言って良かったが、オルキはソフィアに自身の考察を聞かせた。


「前にも神にとって人間は失敗作っち、言いよったもんね」


「ああ。元は思い通りの世界を作るためには器用で知能が高く、自分と同じ事が出来る生き物として誕生させた」


 当初はそうだった。しかし、他の動物と同じく生き物は環境に左右され、生まれ持った個体差もある。

 弱い者には強く、強い者には従い、怠けて他人の財を奪い、他人の迷惑も顧みない。神の名を利用して金儲けを始める者まで出る始末。


 力を使い続け、なんとか神としての威厳を保てる程度の信者を確保する事は出来たが、全人類を消去して1から全てを作り直すには遅すぎた。


 世界を作り変えるだけの力は残っておらず、人類は神の想定以上に増えてしまった。ついには神の存在を疑う者まで出始め、自身が世に降り立って工作しなければならない始末。


 人形ならば逆らいもせず、無駄な世代交代も知恵と経験の継承間違いや喪失もない。そう思ったら今度は信仰心を持たずただ従うだけで神の力にならない。


「あの馬鹿は何でも出来るというのに、何をやっても上手くいかぬ愚図だった。世界を変える前に己を変えよと何度も言ってやったが、意見を聞き入れる能力はまるっと無い」


 長い時間を神の近くで過ごしたオルキは、神よりは素直だった。憎き人間を八つ裂きにするため、人間をよく観察し、思考も行動パターンも飽きるくらい学んだ。

 そうするうちに、人間ではなく神が元凶であったのだと気付き、オルキはいつか神を八つ裂きにし追い出してやろうと思うようになった。


「人の話を聞かんタイプって、あたし嫌いなんよね。そっか、神って人間を作る技術はあっても、使う才能はなかったっち事かな」


「そうだな。だいたい学び受け入れる事が出来ない癖に、育てる能力などあるはずもない。それ故に絶海の孤島に閉じ込めて吾輩に力を付けさせず、人間を観察し尽くした吾輩に育てさせ、収穫でもするつもりだったか」


 オルキからの評価の低さはルダのそれよりも酷い。何十万人の信仰心を集めても帳消しになりそうなくらいだ。そのオルキが徐々に支持を集め出した事で、神はより苦境に立たされているはず。

 少なくともこれ以上力を付ける事は出来ない。


 オルキはそう考え、この島から始まった神狩りも、そう遠くない将来に成し遂げられると自信を持って鼻を鳴らす。


「思い通りにはさせぬぞ、神めが」


「ま、あたし達はちゃんと神を見限っとるけどね。あ、あたしの洗礼名、知っとる? キャッピーばい、笑うやろ」


「何だその気の抜けた名前は」


「もうそんな名前も洗礼名書かれた紙も捨てたけどね。そうだ、あたしらオルキ教に入信するっち事でどうかな?」


「吾輩、宗教などと面倒な事はせぬ」


 ソフィアは自身がかつて授かったという名前で笑いを取ろうとし、悪戯っ子のようにニッと笑って見せる。オルキが神の真似事をしたがらないのは百も承知なのだ。


「じゃあさ、オルキ国の国民にはさ、国内だけで通じる秘密の名前を持たせるの。ずっと昔の伝説でね、魔女は名を隠して偽名を使ってたんだって。本当の名前を知られたら魔力を失うって信じられとったけん」


「そんな理屈の通らない噂話をまともに信じておるのか」


 オルキは呆れたようにソフィアを見上げ、そのくりくりとした両目の間に皴を作る。


「まさか。いくら魔女呼ばわりされとったけんっち、さすがにね。でも、魔女が偽名を使ったのは本当らしいよ。あたしも使ったけどなあ」


「なんだ、信じておるではないか」


「理由が違うんよ。本当は魔女呼ばわりされた女が、親族や生まれを隠すために偽名を名乗って素性を隠して過ごしたと」


「……苦労をしておったのだな。しかし名前とはそんなにも重要なのか。吾輩などこの島々がオルキ諸島だからオルキ、だぞ。イングスはフューサーの故郷、クラクスヴィークはケヴィンの故郷だ」


「あー、そう言えば神様が付けた名前じゃなかったんよね。新しく連れて来た人形達も全員名前がなかったし」


 23体の人形達は互いに名前を持っていなかった。おい人形、そこの人形では都合が悪いため、男型の人形にはエース、ビース、シース、ディース……と名付けていき、女型の人形にはエーア、ビーア、シーア、ディーア……と名前を割り振った。


 名を与えられたところで何の感情も持つ事はないはずだが、人形達は個を認識してから7割増しくらいでシャキッとし、機械的に、どこかボーっとしたように従う態度から目に見えて変わった。


「しかしまあ、そうだな。全員ではないにしろ、洗礼名とは神に与えられた名という事だ。吾輩の国民が何かを神に与えられているとは気に入らぬ。秘密の名前か、考えておこう」


「ふふっ、楽しくなってきちゃった」


「にゃーん」


「貴様にも隠し名をやろうではないか」


「楽しそうに話して、何かあったんですか?」


 アリヤや他の者も会話に加わる。人口が少ないため国民のための仕事より、国づくりのための仕事の割合が高い。淡々と自分のペースで仕事が出来るからか、有能なアリヤを始め、皆がのんびり仕事している。


「アリヤの洗礼名、なんだった?」


「え、私ですか、わ、私は……その」


「あ、アリヤももしかしてあんまり言いたくない名前? あたしね、キャッピー」


「か、可愛いじゃないですか……」


「笑い堪えるの止めちゃらん? アリヤは」


 室内にいる全員の視線がアリヤに向けられる。オルキのように耳を動かせたなら、耳もアリヤに向けられているはずだ。

 アリヤは顔を真っ赤にしながら、ソフィア以上に恥ずかしそうに洗礼名を明かす。


「ぴょ……ピョンコ、です」


 アリヤの告白で一瞬だけ静寂が訪れ、その後窓ガラスが割れるのではと思う程の爆笑が渦巻いた。珍しくオルキまでもが笑ったくらいだ。


「ひっ、ひひひひっ……これでもしガーミッドさんとか、可愛い洗礼名だったら」


「やめ……やめてく……ウフフフッ、会った時、絶対笑っちゃうじゃ……ないですか」


「ガーミッド……ピョンコロック……あはは、あたし耐えられん!」


「ガッ……ガーミッドキャッピロック……かも、知れないじゃないですか……!」


「止めてあたしの洗礼名で笑わないで……あはははは……お腹痛い」


「貴様ら楽しそうだの。吾輩は何の話をしておったのか」


 当初の真剣な話はどこへやら、輸出入承諾書を取りに来た商店の店主が何事かと扉を開けるのを躊躇う程盛り上がった役場内は、20分程してようやくいつもの静けさを取り戻した。


「島長、隠し名の件、考えとってね」


「ああ、発つ前に決めておく」





 * * * * * * * * *





 朝から立ち込める濃い霧が昼になっても居座る中、アイザスからレノンへと向かう定期船が入港した。


 アイザスからの下船は100名を超えるものの、島内で1週間を過ごす観光客は15名。

 15名以上が泊まれる施設がないのだから仕方がない。


「島長、お気をつけて。イングス、頼んだけんね」


「はーい」


「フューサーさん、分かってるっすよね。ガーデ・オースタンのタバコは分かるっすよね。ジェイソンの2ミリっすからね」


「分かったって、毎日そんな目ギラギラさせて言ってくりゃさすがに覚えるよ」


「ワニの絵柄じゃなくて、ヘビの絵柄の方っすからね、絶対ですよ」


「分かったって。俺が忘れてもケヴィンが買って来てくれる」


「は、何で俺!?」


 アドバンは目から光線でも出しそうなくらい真剣な眼差しでフューサーの腕を掴んでいる。

 お土産を頼んでいるようだ。


「イングスは覚えたよな」


「うん」


「ヘビ買ってこいってさ」


「はーい」


「ケヴィンさん」


「冗談じゃねえか、もうずいぶん吸ってねえんだからそのまま禁煙してろよ」


 一緒に行くのはアリヤ、フューサー、ケヴィンの3人。それにオルキとイングスだ。

 当初はソフィアが行く予定だったものの、オルキ不在中の入出国審査や荷物の検疫の際、ソフィアの能力は役に立つ。

 自分が出来るのならやるべきだと決心のついたソフィアは、蟻1匹も見逃さないと言って意気込む。


「ガーミッド、ニーマン。有事の際は人形共を有効に使役し、必ず国を守ってくれ」


「勿論です。国防の事ならお任せを」


「国王が不在になって壊滅するようでは、どのみちやっていけませんからね」


「皆さん、行ってきます! 国際会議の成功を祈っていて下さい!」

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