第87話 元大賢者は、襲い来る者達に困惑す。(上)
「左翼はシーナがお願い! 右翼はリーナで! 前方中央と後方中央はヨハネスとレイズ殿で、お願いします!」
「「承知しました!」」
「「任された!」」
現在、学院では厳戒態勢を敷き、学生達に気付かれないよう、粛々と処理に当たっている。
それは謎の夜襲だった。原因は不明であり、ただの破壊工作で訪れたのは確かだった。
そう、必要があれば先触れを出すのが定石。
それすらしないまま一方的に壊しに来れば。
「こいつらの目的は判らないけど、喧嘩を売った相手が誰かくらいは示さないとね?」
◆◇◆
事の起こりは漸く鍛冶師科が本格始動となる前日の深夜。それは唐突に学院周囲を囲う結界が破壊されたとする通知音が私の自室内に鳴り響いた。
『─カンカン! カンカン! カンカン!─』
「うぉお!? こ、この音は外部結界の一部が壊された?」
「姉様? 一体何が?」
「外部の第一防御結界が破壊されて今は第二の破壊工作が進んでいるみたい」
「防御結界の破壊? どういう事なのです?」
「うーん。何が何やら? とりあえず関係者を全員、学長室に集めて! 私は情報収集にあたるから!」
「はい!」
そう、この魔術学院には破壊工作を防止するための結界が幾重にも敷かれており、今回の夜襲によって外側の第一防御結界が破壊された。
まぁそれでも公爵邸と繋がる学院の敷地内を中心とした全方位一〇〇ケメルという広範囲に敷いた結界の一部なのだけど、その残数で言えば一ケメルにつき一つの結界で九十九の防御結界を破壊しない限り中央には到達出来ないの。
その一つ一つの強度も〈極大始原〉級の魔術をあてがって漸く破壊出来る代物で、そんな規模の魔術を行使出来る者など人間には居ないため、宝の持ち腐れ感がするとシーナから突っ込まれたのも懐かしい話である。
そして今は透視魔術でそれらを見るが、
「この黒い装備は? 何処かで…。あ! 懲罰部隊!? でも何で?」
どうも学院への破壊工作を行う者達は例の懲罰部隊だった。しかし、肝心の〈人亜連合〉からは通達が出ていない。なのに懲罰部隊が居る事が不可解だった。
それに今回の派兵〈人亜連合〉のこの部隊が出る時は大概は各国のトップに連絡が入るのだが伯父上からの通達が何もないのだ。
その行使は国を滅ぼす事のみに使われ公爵家だけを狙うなんて真似は前代未聞の事である。
「とりあえず民に迷惑が掛かるとダメだから」
私は一先ず屋敷の外に出て周囲がよく見える職員寮の屋根に飛び上がり、最大量の魔力を練る。そして行使するはゴライアスに聞かれるとかなり不味い代物だけど、この際、四の五の言ってられないので、実行する事とした。
「空の間と時の空・始原の理を問き・神と御倉の道標となれ・問うは我が知・発は魔が断ち・世界を縛る戒め綻び・再び結ぶ力となれ・束縛の牙」
それは私の固有魔術を応用した特定空間内に群がる者達を空間の牙で喰らう空間束縛術である。一応、今は少しでも情報収集の時間を持ちたいから時間稼ぎの名目で懲罰部隊の者達を空間隔離したの。赴いた理由を知るためにね?
その代わり、
「この詠唱は、あの方の空間束縛術の筈だが? 誰がこの呪文を?」
ゴライアスには聞かれてしまったようだ。
唯一、近くで見聞きした者だからこそ覚えていたらしい。
(あちゃ〜。やっぱり聞かれてた。まぁ誰かまでは気付いていないみたいだけど、とりあえず存在希薄魔術で回避一択!)
そうして予期せぬ来訪の対処を済ませた私は学長室に移動した。
ただ一人、困惑顔の元弟子を残して。
◆◇◆
開口一番はヨハネスからの問いだった。
「アリスよ? 一体何があったのだ?」
寝ているところを起こされて若干機嫌が悪そうだけどね。というか似合うわね、そのナイトキャップ。しかもエリスとのお揃いなのね?
「単刀直入に言うわ、今学院の外に懲罰部隊が展開されていたの」
それは置いといて、たちまち判明している事実を伝えると一同は絶句した。
「「「「「!!?」」」」」
するとヨハネスが先に復帰して問い掛けた。
「そ、それは誠か?」
私は分かっている範囲の事実を明かした。
「ええ。今は民達に気付かれないよう、空間結界で隔離しているから、時間稼ぎだけは何とかなるわ。これは私の魔力が続く限り永久に隔離される代物だから」
続く限りというか本当に永久なんだけどね。
殿下は安堵し通達の有無を確認した。
「そうか… して、何か通達はあったのか?」
この問いは〈人亜連合〉に関わる者は知っての通りなので、そのうえで真剣に告げる。
「無いわね。いきなりの強襲だもの。先触れもなく結界の破壊が行われていたわ」
すると、エリスが顔面蒼白のまま呟き…
「そんな… では〈人亜連合〉が?」
「そもそもの話、目的を発する事はしてるの? あれは大概、処断前に何かを言っている筈だからね?」
リディが思案しながら質問した。
私はそのうえで、一同に告げる。
「それも無かったよ。突然の夜襲… この一点のみだね」
リンスも不安気ながらではあるが私へ問う。
「陛下は何て?」
「こちらに来る道中で伯父上に確認したら、あちらも頭越しで来ていたみたいでね。〈人亜連合〉に伯父上から問い合わせたところ、誰一人として命じていないというの。その命令書自体も発行されてなくて、今は〈人亜連合〉の方でも大慌てだそうよ」
そう、各国に頭越しだったとの事だ。
この答えはゴライアスが知ってそうだけど。
一体何が起こってるのか頭が痛いよ。
それこそソイオンスの愚者達が私怨で行使していた事と同じだね?
数年ぶりの改稿で申し訳ございません。
改稿を行いつつ続編を書いていきます。
〈改稿日:2022年12月19日〉




