第86話 元大賢者は、元弟子の告白に大困惑。
それは、リディの件から暫く経っての事。
今は鍛冶師科の設立に向けて、講師となる者の募集を掛けていたのだけど、何故か講師の希望者の中にゴライアスの書類があったの。
「えーっと、これは何? シーナ? これの事情は聞いてる?」
「はい。一応は、伺っておりますが前代未聞の状態でして〈人亜連合〉に問い合わせ中です」
「そう? だとしても突然過ぎるでしょう? 何なの? 三〇〇年もの歴史ある学園理事長が突然解任されるって? 異常も異常で何が起きているのか、判らないわよ?」
確か、先日の話し合いでは学内異常があるなら改善するというような事と言っていた筈なのだけど、蓋を開けてみれば理事長の解任劇となっていたのだ。
「運営元と何かあったのでしょうか?」
「運営元って言っても今の教皇派も王権派への歩みよりを行ってて学園の運営からは離れていると聞いているし、残りの各国も資金は出せども基本はノータッチだよ? 一体何があれば発起人の解任に至るのか不明過ぎるよ?」
元々は雌豚になった元教皇が牛耳っていた学園運営だけど、今はその教会が魔導学園の運営から離れ、託宣巫女を育てる初等教会学院の方に力を注ぎだしたのだ。
そのため学園運営に関しては従来の〈人亜連合〉に手綱が戻り、多少は真面になると期待してたのだけど今度はゴライアスが解任され誰が運営権を持っているのか判らなくなったの。
斯く言う帝国も昨今の学園の為体に呆れ、我が学院の創設に力を注いだ結果、魔導学園の運営と資金提供からは手を引き現状で関わっているのはエルリア首長国とシルフェンド王国のみであろう。
否、シルフェンド王国も土地と人材の貸し出しはしているが、その実体はエルリア首長国に丸投げしているので実情はエルリア首長国が完全管理していると言っても過言ではない、筈なんだけど何か不自然過ぎるんだよね?
(何せ、エルフである者を解任するとか、あの国がそれを是とするのはオカシイもの……)
そう、シーナとの話し合いに結論が出ぬまま沈黙を続けているとシーナが手に持つ遠隔報告魔道具に通知が入った。これは記述水晶の応用で作り出した板状の魔道具で、主に帝国執政部と学院関係者のみが持つ魔道具である。
「今、リーナから報告書が上がりました」
「読み上げて」
「はい。『我が〈人亜連合〉では彼の者の解任には関わっておらず、全ては学園運営の大元締めである〈ノタルジア工魔会〉に一任している故、これ以上の回答は出来ない』とあります」
シーナはリーナの報告を読み上げた。
しかし、そこには聞き覚えの無い組織名が出てきたのだ。一体何者なの?
「〈ノタルジア工魔会〉? 聞いた事のない組織名だけど、シーナは知ってる?」
「いえ、存じ上げませんね。陛下にも問い合わせたところ、知らないとだけありますね」
シーナも知らず、伯父上も知らない謎組織。
各国の上に居るのは確かだから、やはりあの豚が何か知っていたとみるべきか?
そこで私は一つの仮説を立ててシーナに問うてみる。
「もしかすると、大元締めとあるし、各国から寄せられた運営資金の取り纏め役かもね。本来ならばその下に教会があったとして教皇を犬としていた組織なのかも」
「なるほど。その線であれば辻褄も合いますね。体よく蜥蜴の尻尾切りと表舞台に出てきた事による解任劇なら、何を以て存在していたかが、謎ですが」
シーナも今回の解任劇は不審に思っていたのだろう。今回集めた情報から導き出されるのはその大元締めが表舞台に出てきた事によるからだ。だから思うのは危険という認識であろう。
「大元は第二第三の大賢者を育てるという理念があったけど、蓋を開けてみれば真逆の性質だからね? この組織が何時頃から関わったかが鍵だろうけど、ゴライアスの解任劇と併せたらキナ臭い事この上ないし、調査はここで打ち切りとしようか?」
「そうですね。リーナにもそう伝えておきます」
「お願いね」
そうして急遽出て来た〈ノタルジア工魔会〉という謎組織の調査は打ち切りとした。ゴライアスも、それに関係する資料を見たのかもしれないしね?
いやはや問題が口を開けて私の元を訪れるのは一体何時になったら落ち着くのかな?
◆◇◆
「では、オーウェン殿には鍛冶師科・上級クラスの担任を任せようと思う」
「ありがとう存じます」
我が学院は来る者拒まずの精神だからゴライアスには上級クラスの担任になってもらった。
これは大賢者の一番弟子であった功績を鑑みての事ね? 後の中級と初級は帝都からきた宮廷魔術師が執り行う事となり後は開校までの期間で授業内容の策定を行うだけとなったの。
「後は気軽に行えばいいからね? 肩肘張っても怪我したら元の子もないし」
「そうですね。失礼しました」
という事で今は学長室での任命式と共に新規で用意した鍛冶師科の学生棟と教員棟を案内しつつ、主なる施設を巡るだけである。
「ここから通常の魔術師科の棟になります。順次、見ていくと判りますが…」
「!? く、く、空間が! こ、この、魔術、まさか!」
すると突然、ゴライアスが目を見開いて固まった。なんぞ? と思いながら彼を見ると学生達が学ぶ教室の広さに驚いていた。
まぁ総勢一〇〇名が入る大講堂のような階段式の教室だからね? 教師が出入りする扉は実質的には一階扉で学生達は二階扉から出入りする決まりとしているのだ。
だが、その後の言葉から私と背後を歩く宮廷魔術師の二人が訝しげにゴライアスを見る。
その直後、ゴライアスは目を見開いたまま私に質問してきた。
「この術は何処で学ばれたのですか?」
「え? 文献による独学ですが?」
「文献? 独学? そ、そんな筈はない! あの方は口伝でしか学ばせなかった。まして文献が残っているなら私が買い占めていますよ!」
もしかして、マズった?
聞いてきたのは学んだ場所だ。
しかし、独学として返すしかなく文献まで出せば大概は回避出来たのだ。
だが、腐っても一番弟子だからか私の性質をよーく覚えていたらしい。
だから言い訳かもしれないがダンジョンをネタにした逃げ口上を選択する。
「ま、まぁ、落ち着いてね。実は偶々ダンジョンに潜った時にね、一枚だけ拾ったの。時間停止された宝箱の文献をね。それを見て私なりに身につけたというわけ。それで納得出来た?」
「そ、そうなのですか? だが、あの方はそのような物を残すような方では…」
「気まぐれとかあっt」
「そんな事はない! 失礼。まぁ現状で同様の術を行使しているので、これ以上の問答は不要ですね。ただ、気まぐれという言葉は取り消して戴きたい!」
「あー、その。すみませんでした。取り消します」
私自身の事だけに気まぐれはあると思ったのだけど、ゴライアスからすれば無いという。
だから失言としてお詫びしたよ。
(まさかとは思ったけど、何気に私って慕われていた? 頭をグリグリと撫で回すのも愛情表現だったとか?)
過去の事だから今は何も言えないけどね。
そうしてゴライアスも私の詫びを聞き許したようだ。
「許します。こちらこそ、失礼しました」
だからか私も、その態度が少々気になったので大きなお世話かもしれないが更に詳しく聞いてみる事にした。失礼を承知でね?
「なるほど。それだけ熱心に見ていたのであれば、師匠の事がお好きだったのですね?」
「!? すっ… そ、それは、まぁ… はい。大好きでした」
いや、止めて! こんな真っ赤に染まるゴライアスとか見たくない! というのは置いといて、この顔は完全に惚れていた顔じゃないの。
何だろうこの感じ?
「………」
「何で学長が顔を赤くするんですか?」
ヤバっ! 顔が赤くなってた。
いやいや、弟子に手を出すとかないから!
流石の私もゴライアスの発言を聞き嬉しいような哀しいような状態でいるとゴライアスが訝しげな表情でこちらを見てきた。
まぁ言い訳かもしれないが流す事にしたよ。
「コホン! 失礼。では案内を続けますね」
数年ぶりの改稿で申し訳ございません。
改稿を行いつつ続編を書いていきます。
〈改稿日:2022年12月19日〉




