第85話 元大賢者は、友の胸見て己が胸触る。
その後、リディが眠ってる間に負荷で壊れかけていた魔術回路を一度剥がし、再施術までの数日間は集中的な治癒をエリスにお願いしたのだった。
エリスも原因を作った負い目があるからか反論もせぬまま治癒に没頭し予想よりも早い段階で再施術が行える状態にまで回復したよ。
その間のリディもずっと眠り続け相当に疲れていた事が理解出来る話だね?
ちなみに身体の汚れや汗などはアイカとエリスがリディを剥いて隅々まで拭いていたのでそれ程汚れておらず、施術に際しての禊もエリスの行う神殿化で問題なく実施出来た。
「一先ず、施した新紋様は〈風雷紋〉だね。元々の〈風花紋〉では出せなかった雷系統が発熱の要因だったみたい」
施術後に隣部屋で待機していたエリスへと事情を伝えると安堵はしていたが、ある意味で読み間違いが要因であったため、何ともな顔で返してきた。
「リディ様の読み間違い… ですか?」
「主なる要因で言えばね? その状態に数本の細い経路と魔力圧、元来の潜在魔力もあったから複数の要因が重なって今回の事態に陥ったという事みたいね」
まぁ魔術回路は本人が思い描いた紋様を客観的に見て施す事ではなく、その者が持つ特性から専用術を介して適用出来る紋様を施す事なので、その点がリディに足りなかった後少しという部分だろうね? 特性理解と紋様が一致しない限り、完全な高位化など夢のまた夢だから。
「そうなると、普段は風ですか?」
「うん。今まで同様に風だけになるね。ただ、完全解放すると雷を伴うから、近くに居る者は絶縁結界を張って回避するしかないけどね? 最悪、落雷で死ぬ事もあるから」
「そ、それは恐ろしいですね」
「うん。リディの解放に巻き込まれないよう、それ用の装備は作らないとね」
ホント、雷系統とは恐ろしい話だよ。
何処でこの系統が混ざったのかは知らないけどエリスも巻き添えは勘弁という苦笑いで戦々恐々としていたよ。
私達の氷結系やらリリィの炎熱系と異なり自然界でも類例のない属性を発揮するのだから。
(これは風系統の発展型だからこそ何だけど)
その間違いで魔術師生命が絶たれるのは惜しい話だよね?
「さて、このまま放置では風邪引くから、布団を戻してっと」
「ところでリディ様の治療の方は宜しいのですか?」
「うーん、精神の方は完治しているし身体の方も戻っているから、大丈夫だよ? リディも今は疲れを癒やす方に尽力しているみたいだから完全回復するまでは寝かせておく方が良いかもね? 精神の疲れって、中々取れないからさ」
「そうですね。では少しばかり、室内の高位化だけ施しておきましょうか?」
「うん。それで充分だと思うよ?」
そうしてリディの施術後は療養目的として寝かせる事とした。その際に癒しとしてエリスが神殿と同じ空間を施し疲労回復が促進される状態へと変えていったのだった。
(この状態だと目覚めまで半日あればいけるかな?)
一応、注意書きなどは側に置いているから目覚めたら読むよね? きっと。
◆◇◆
私の自室に戻るとアイカが寝間着の状態でベッドから起き上がりリディの事を心配したので状態を報告した。
「お帰りなさいませ、姉様」
「ただいま、アイカ」
「それで、リディの様子はどうだったのですか?」
「元気にはなったよ。今は疲れを癒やすために寝かせているけどね」
「そうですか。それと紋様はどうなったのでしょうか?」
「紋様はね? 雷が付いてたよ」
「い、雷、ですか?」
私も少々疲れているので、寝間着に着替えながらアイカが気にしている紋様の件を伝えると怪訝となりつつ問い返してきた。
「うん。雷ね? 例外中の例外だろうけど、その特性が発熱の要因だったみたいだよ。それもあって、今回の施術では例外的に髪の毛の根元にも施しているから雷の余波で逆立つ事はなくなると思う。元々、リディが魔術行使すると髪の毛の数本が逆立ったまま戻らなかった事があったでしょう?」
私は寝間着に着替えベッドに潜り込みながらアイカに事情を語る。アイカもリディが猫のように髪が逆立った姿を思い出したのだろう。
「あー、そういえば。何故かいつも逆立つからって手櫛で直していましたね?」
「それも結果的には特性が薄く出ていたせいね?」
「では、特性として気付けて無かった事が…」
「紋様間違いとしての、熱暴走だったんだね」
アイカもそれで納得したようだ。
普段から雷系の特性が漏れていたから金髪が逆立ち羽根のように見えたのだ。
結果、左右のレイピアと併せて〈双翼の剣姫〉という二つ名が付いたのだから理由にも納得したであろう。まぁアイカの不安も消えたみたいだし今日はもうお休みだね。
ふわぁ〜今日も疲れたよ、おやすみアイカ。
◆◇◆
そして翌日。リディは漸く目覚め、書き置きを見て納得したようだ。
まぁ発熱の要因と特性を知った事で今後の扱いに気をつけると予測してみるけど、その辺はリディ次第なので今はまだ様子見中だね?
私は目覚めたリディに挨拶して状態を問う。
「おはよう〜。どう? 調子は?」
「おはよう、アリス。何とか体調面は戻ったわね。体力が少し落ちてるけど、これは仕方ないでしょうね」
「まぁ疲れを癒やすためだからね。ただ読んだと思うけど完全解放は行ったらダメだからね? 魔力量も従来の一千五〇〇万マナと潜在魔力の無制限化があるから。たちまちは少量行使での魔力操作を覚えるようにね?」
まぁ本人は何故裸なのかとは問わない代わりに身体が楽になった事を喜んでいたよ。
しかし、私が注意した言葉を聞いてから問い返してきたよ。
「え? 今、無制限化って言った?」
「うん。無制限化だね? どうも亜人に正しい魔術回路を施すと魔力量の無制限化が起こる事が判ったの。それは人間であれば五〇層で施すところを亜人であればその倍以上となる事が判明してね? リディとアイカで言えば一五〇層はあるね。見える範囲で言えば」
「み、見える範囲って…。え? アイカも? あの子は人間だったんじゃ?」
アイカの事は説明してなかったっけ?
リディは自身の魔力の事よりもアイカの素性を気にしだした。
「言って無かったっけ? アイカはハーフドワーフだよ?」
「え? じ、じゃあ、身内って事?」
「身内だから立場上はそうかもね? アイカの実年齢は三二七才だから、二五〇才のリディよりは年上だけど」
リディに対しては詳細を伏せても通じるのでアイカの種族だけを教える。今は養子縁組で身内としているけど年齢から推して知るべし内容でもあるためリディは生き残りが居たとして喜んだようだ。
「そう、なのね。でも、亜人であれば増えるって?」
「元来の性質だと思うよ? 元々が長命種だから目に見える範囲の成長期が終わった後、魔力が成長する度に潜在魔力へと変化していっただけだからね。その結果、特性に合った正しい魔術回路を施せば、完全な形で魔力の出力が可能になるという事ね?」
「そうか、長命種だから」
そして魔力量の事に意識が向いたので人間との違いだけを示した。
「短命種な人間と異なり、その成長期も長いしね? 従来でも一千万マナまでは成長するから、その後の魔力鍛錬次第では限度無しに伸びるというわけね」
人間で言えば上限値を一五〇万マナで抑えているけど、亜人の場合は通常が異なるので一千五〇〇万マナを上限値としているの。
まぁそれはアイカもそうだけど通常は人間として擬態するために一五〇万マナで留めるよう命じているけどね。生き残りという点で狙われてもおかしくないのだから。
その後は時間もあれなので朝食へと促すと漸く裸である事に気付いたようだ。
「まぁ、一先ず服着て、朝食にしない?」
「え? あ! 何で私裸なの?」
「身体を拭いてそのままだね。寝っぱなしだから汗掻いてたし」
「な、何か悪いわね?」
「まぁ拭いたのはアイカとエリスだから、お礼はそっちにね?」
「う、うん。判った」
最後は気恥ずかしさを出しつつもそそくさとベッドから出て下着と服を身につけるリディであった。ま、またも胸が成長してるよ?
(羨ましい。─ペタペタ─)
数年ぶりの改稿で申し訳ございません。
改稿を行いつつ続編を書いていきます。
〈改稿日:2022年12月19日〉




