第78話 元大賢者は、騒ぎで逃げられた者に呆れる。
※ 少々残忍な描写があります。
「邪魔だ! 邪魔だ!」
「おっと、すまない」
「全く他国の冒険者ってヤツは常識が無いな」
おや? 殿下達が宿に向かう道中、何やら雲行きが怪しい状態に突入してる?
それは殿下達が街の往来のど真ん中を歩いてた時の事。一人の荷運びが殿下達を相手に暴言を用いて騒ぎ立てる。
すると背後に控えていた近衛が、
「貴様! その物言いは何だ!?」
その暴言が聞き捨てならないという様な素振りで割って入る。だから言ったのに近衛は連れて行くなって。
「あぁん? 物言い以前にど真ん中を歩く方が悪いだろう! お前等のような余所者が偉そうにするな!」
「偉そうだと!? 平民風情が粋がるな!」
今度はもう一人の血の気の多い近衛が荷運び相手に抜剣しかけるが、エリス様が喧嘩に発展しそうな一同に割って入り、仲裁を行う。
「まぁまぁ。落ち着いて下さい。貴方達も黙りなさい!」
「「は、失礼しました」」
そうして近衛達はエリス様の叱責により黙るも肝心の荷運びはそれだけでは飽き足らないのかエリス様を相手取り、
「ふん! アンタは神官か? 神官がよくまぁ平然と、この国に来られたな。頭大丈夫か?」
「貴様! この場で斬って棄ててやる!」
馬鹿にした事で黙った近衛達にまたも油を注いだようだ。
(だから神官服もダメだって言ったのに。忘れてたの?『忘れております』おいおい)
ある意味、この騒ぎは自業自得か。
「待ちなさい! こちらが悪いのです。その得物を振り翳すとどうなるかぐらい考えなさい」
「ほぉ、アンタは話が判るのかい? だったら、その神官服をこの場で脱ぎな! 目障りなんだよ!」
「き、き、貴様ぁ!」
「ギャーッ!」
あーぁ、遣っちまったぁ〜。
だから近衛はダメなんだって言ったのにぃ。
近衛兵は護衛対象がどれだけ身分を隠そうとも、分別が付かず本来の身分で護ろうとする。
それもあって血の気の多い合国民に対しては一番相性の悪い者であり絶対に連れて行ったらダメな部類の者だ。それを素材採取の勉強会で伝えていたのだけど二人は忘れているらしい。
それと神官服に関しても話している。
それは合国には教会支部が無いという理由を踏まえて当時の教皇が何を行ったのか話したのだ。これは例に漏れず文献を読んだという嘘を含めての事だけど内容は本当の事だったので当時は真剣に聞いて居たのを覚えている。
だが、疲れかイチャイチャが過ぎたのか判らないが、エリス様ですら失念していたようだ。
彼らが神官服を毛嫌いする理由。
それは当時の教皇が合国の民達に対して嘗ての王族の行いを恥じとし同一種族という名目で教会を全て取り壊した。そのうえ治療に関係する組織の一切合切を引き払い野垂れ死ねという意味合いの命令を発したのである。
結果、民達は神官という者を完全に嫌い王族と同列視して見るだけで喧嘩を吹っ掛ける者が増えたのだ。つまり国内に神官が居る。
それだけが彼等の逆鱗となるのである。
元教皇はその点を鑑みて逃げ込んだとも予測出来るけどね? ホントにゲスだわ、あの豚。
「おい! 今斬られたぞ!」
「余所者が斬りやがった!」
「許せねぇ! 遣っちまうか?」
「おう、どうせ何も知らないようなボンボンなんだろうよ?」
「遣ろうぜ! 遣っちまおうぜ!」
近衛一人の暴走により周囲のドワーフ達が大騒ぎ。斬られた者は虫の息で手の施しようがない状態であった。うん。胴体が真っ二つだね!
すると今度は先程まで黙っていた殿下が相手の体を眺めながら斬った近衛を問い糾す。
「お主、この件について、何か釈明する事はあるか?」
「私は悪く有りません! この者が暴言を吐いた事が悪いのです!」
エリス様もその状況に蒼白い顔となった。
下手したら戦争だからね?
「そうか。我にはお主がエリスの言う事を無視したとしか思えぬが? それがこの様だな?」
「殿下が何を仰いましても、私は悪うございません!」
肝心の近衛兵は何も悪くないと返すばかりで話にならず、殿下はその場で魔力を練り上げながら宣告を言い放つ。
「そうか、それがお主の釈明なのだな。ならば、死ね」
空間圧搾魔術という結界空間毎、中に居る者を圧し潰す術を行使した。これはまた本気で怒ってるねぇ? その代わり周囲に居たドワーフ達は、その光景に気勢を削がれ、絶句した。
「「「「「!?!?!?!?!」」」」」
「お主も何か釈明する事はあるか?」
しまいには残りの一人にも宣告しようとするが、こちらは恐怖心から大反省会となった。
「いえ、め、め、滅相も、ご、ございません」
「うむ。そうか。さて、ゴミ掃除といくか」
殿下もその一言を聞き安堵したようで今度はあっけらかんと「ゴミ掃除」と宣った。
それは圧壊した者の遺体を一瞬で消し炭と化し、ほぼ同時に死亡したドワーフに何やら秘術をかけ蘇生したのである。
「うぅ… あれ? 俺、生きてる?」
「「「「「!!!?」」」」」
魔王様、そこまでして大丈夫なの?『魂は側に居ましたので、時戻ししたようです』魔王様、流石にそれは空気を読もうよ?
殿下は目覚めた者に対して謝罪を申し出る。
「痛み分けとしたが許してくれぬか?」
「痛み分け、え? 俺を斬ったヤツが居ない」
「うむ。今し方、消したところだ。物理的に」
まぁ痛み分けではあるかな?
片方は消えているけど。
「そ、そうか。だが、それとこれとは…」
しかし生還者は話が別だと騒ぎだそうとした。希に居るよね、馬鹿の一つ覚えみたいに喧嘩をやりたがる破落戸が。
「「「「「や、やめろぉ!」」」」」
まぁ周囲からは止められるよね?
あの光景を見て同じように喧嘩を売る者は居らず、唯一事情の読めない生還者だけが一人で周囲を怒鳴る。
「何だよ!? お前ら!」
「命が惜しいのなら喧嘩は売るな! な? 理由は後で説明するから、今回は諦めようぜ?」
「?」
「「「「「失礼しました!」」」」」
そうして喧嘩を吹っ掛けに来たドワーフ達はもの凄い速さで生還者を担ぎ上げて去った。
あれは常習犯だね。
多勢に無勢な破落戸のようだ。
◆◇◆
「殿下?」
それから暫くしてエリス様は元の状態に戻り殿下に近付く。先程までは恐怖心で動けなかったみたいだね?
「すまない。余りにも周囲を見て居らぬ馬鹿だったのでな」
「いえ。あの者は元々が孤児故、分別が判らなかっただけでしょう。それよりも…」
間違いではないと肯定しながらも殿下も察したようだ。
「うむ。少し騒ぎすぎたか」
「はい。またも、逃げられたそうです」
肥満豚なのに逃げ足の速い事で。
殿下も今までの件と今回の件を踏まえて居残った近衛を見つつ告げる。
「前回を含めてこの有様では、頭痛しか湧かぬな。これは次回から、近衛を連れて歩くのは止めた方が良いな。またも同じ事が起きて宗主国の精鋭が消えるようでは今後に支障が出てしまうから… な?」
「は! はいぃぃぃ!」
今回は宗主国から近衛が出てたのね。
近衛も先程の事で失禁したらしく、その場から一目散に逃げ出した。これはクビだねぇ。
あ、元教皇の居場所発見! 帝国領北部・ロイナベル領側の港街。ギリギリ合国内だね!『ありがとうございます』いえいえ。
数年ぶりの改稿で申し訳ございません。
改稿を行いつつ続編を書いていきます。
〈改稿日:2022年12月18日〉




