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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
沖縄本島編 序章 有名人 〜She became the star〜
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海の家

「行かないんですか?」


 不意に頭上から声が聞こえてきてハヤトは目だけでそちらを見やった。するとそこには(あま)色の癖毛の髪をした少女、ソフィアが水着の上にパーカーを着て、微笑を浮かべながらハヤトを見下ろしていた。相変わらず悪戯しそうな雰囲気と、どこか人を喰った雰囲気が物凄く感じられる。まるで何か企んでいるようだ。


 まあ、いつものことだし気にしない。

 それに、気にしない方がいいかもだし。


 ただ、それでも一つだけ、どうしても気になってしまうことがある。それはソフィアの装いだ。今彼女は紺色のオフショルダーバックフリルビキニと水着のスカートを優雅に身に纏い、つばの広い白の女優帽(スラウチ・ハット)を頭に被っている。しかもナチュラルに化粧なんかもしていて、一言で言えば、意想外だった。


 家でのソフィアの服装はお洒落の”お”の字もなく、彼女自身それに興味すら抱いていない。いつも引き篭もっている印象が強いソフィアが着飾っているとあまりにも眩しく見えてしまった。それ故にハヤトは内心動揺してソフィアがどうかしてしまったのではないかと思ってしまった。


 しかし眠かったので、とりあえず彼女の言葉にうつ伏せながら返す。


「どこに?」


「ほら。浜辺で美少女たちが追い掛けっこしてますよ?参加したらどうですか?」


「めんどい。ねむいぃ〜」


「あらあら、だらしない」


 ここは海の家の簡易的なテーブル席なのだが、如何せんそれでも暑い。屋根もあって直射日光は避けられるが外と内を仕切るものは一切なく、冷房も扇風機もない。

つまり、ほとんど暑さからの逃げ場がないのである。ホテルに帰ることも考えたが、なんかそれはそれで引き篭もりみたいに思えて嫌だった。


「でも、美少女と海辺で追い掛けっこするのは男の夢だとか聞いたことありますけど、事実ですか?」


「知らねえよ。もう眠くて考えてられないんだ……」


「情けないですね……」


 ソフィアは呆れたように肩を竦ませ、ハヤトの向かいの席に腰を下ろす。


「私のファッション、どう見えますか?」


 唐突にそんなことを彼女が言うもんだから、本気でハヤトは心配してしまった。


「どうした?頭でも打ったか?」


「ハヤトの中で私がどうなっているのか気になるところですが、これは不可抗力です。私だっていつもの私服でいたかったですよ。本当なら水着なんか着ずに備瀬のワルミに行きたかったですし……。ま、沖縄限定のパフェを食べに来たと思えば、それはそれで良かったかもしれません」


「……ああ、そういうこと……」


 思考がまともに回らないハヤトでも容易に何があったのかを理解できる。恐らくソフィアは母を始め家族皆に連れ出されたのだ。きっと、折角来たのだから一緒に楽しもう、とか言われて。そして遊ぶならファッションは必須だよね、みたいなノリで派手な水着を着せられたに違いない。

実際、ハヤトもここに来る前に服やら水着やらを買いに引きずり回されて、女勢の買い物の長さに疲れたのを覚えている。


 ソフィアも女だけど、あまり買い物には興味なさそうだし同類かな?


 けれど沖縄旅行の雑誌にあった沖縄産のパイナップルやマンゴー、グァバ、シークァーサー、パパイヤなどが入った限定パフェを食べに来たというのは事実だろう。意外と彼女は甘党なのだ。


 確か、パフェを食べるためだけに全国を食べ歩いたことがあったとか、言ってたっけ?

 それくらい甘いものが好きらしい。


「で、どう見えます?」


 再度問うてきたので、ハヤトはチラッと彼女を見て、応えた。


「いいと思うぞ。いつもそうしていればいいのに」


「面倒臭いです」


 面倒臭いにしては水着を着て楽しんでいるように見えるのは、なぜだろう?

 実は結構嬉しかったり?

 それとも他になにか?


「そう言えば夏にピッタリの魔法を組んでみたんですけど、使ってみますか?」


「魔法?」


 そんな魔法があるなんて知らなかった。怪しげなものでないかちょっと不安になるが、それでも夏にピッタリというのだから気になる。

もしこの暑さが軽減されるのであれば、なお欲しい。


「ええ。いつでもそよ風が自分にランダムな方向から吹いてくる魔法です。無風の日でも風に当たれますし、ある程度なら風力調整できます。いりますか?」


「まあ、それならほしいかも」


 とは言ってもここは浜辺だ。それなりに風は流れてくる。蒸し暑い風なのが難点であるが、魔法のそよ風なら涼しいかもしれない。

しかし。


「あ、気温は変わりませんよ?周りの空気をマナリウムが送ってくれるだけなので」


「え、そうなのか?」


「じゃあ、オプションで電子ドラッグっぽく幸福を味わえるようにして、どんな熱風でも脳が涼しく感じるようにしましょうか?」


「絶対イヤだっ」


 ドラッグとか物凄く嫌な響きだ。その作用と使った後の結末を想像すると虫唾が奔るし、気分が悪くなる。

あまりよく知らないけど、絶対に使いたくない!


「そうですか」


 ソフィアは手を上げてアルバイトらしき店員に何やら注文をした。帽子を取り、それを隣の席に置く。暫くしてソフィアが注文したらしい品々がテーブルを覆うほどやってきて、流石にハヤトもそのままではいられず上体を起こした。


 注文した量が妙に多いのは恐らくハヤトに上体を起こさざる得ない状況に追い込むためだろう。流石に一緒に暮らしていればソフィアの考えもなんとなく分かる。


「はぁ……」


 眠くて寝られない状況に溜息を吐けば、呆れたようにソフィアが目を細めた。


「元気出して下さい。じゃないと、エレナが悲しみますよ」


「エレナが?」


 一瞬どういうことか分からなかったが、考えてみてようやく納得する。家族が気分悪くて海の家に引きこもっていたら確かに楽しめないだろう。心の底から楽しむには不安なことはない方が良い。そう思うと色々と申し訳なくなって気力を振り絞ることにした。折角ここまで来たことだし。


「そんな帽子持ってたんだな」


 でも、何か話していないと、ぼうとしてしまいそうで適当にそんなことを聞いてみた。今も頭がくらくらして話が頭に入るかは分からないが。


「これですか?これはここに来る前にネットで買ったものですよ。日差しに当たりすぎると私の身体は劣化して見るも無残なことになりかねませんので」


「どういうことだ?」


 それは白色個体(アルビノ)のように日差しに弱いということだろうか?しかし人工実存(AE)の、しかも再生能力が異常に高い彼女にありえるのだろうか?簡単にどうにかできそうなものだけど。


「別に簡単な話ですよ。私は最初に完成した人工実存(AE)ですから、まだまだ不具合が多いんです。本当なら一月に一度は骨格の検査やら内臓の検査をして不具合があったら交換しないといけません。エレナみたいな最新版にしようにもお金と時間がかなり掛かりますし、それはそれで面倒臭いですしね」


 なんとなく面倒臭いから更新しないというのがメインの理由に聞こえる。たぶんだけど彼女は検査をほとんどやっていない。本当に不具合らしい不具合が出ないと交換もしないのだろう。自分の身体に対する意識が軽薄すぎる気がした。


「日差しでも不具合が出るのか?」


「そうですね。今は陽に晒されすぎると肌が剥がれるくらいですけど、昔は髪もボロボロで肌も溶けて、それでも陽に当たり続けると筋組織もブチブチ切れて、網膜が全部やられて、それから――」


「まて。もういい」


 流石に止めた。不服そうに少し眉間に皺を寄せるソフィアだったが、ここは海の家だ。つまり他にもヒトがいる。しかもその中には食事中のヒトもいるのだ。こんなグロい話はしない方が懸命だろう。実際少人数ながらこちらを嫌そうに睨む目線がいくつかある。


 視線が厳しいから話題を変えよう。


「そう言えば、()()は調べてくれたか?」


「ああ、()()ですか?調べましたよ。色々と知りたくないことも出てきましたが」


 ()()とは新潟でエヴェリンが暴走させた管理者権限の【プロトタイプ】についてのことである。本来あれはCONEDsの『管理者』が危険すぎるということで使うことを断念した代物だったらしい。だからそれを安全になるように調整して今の管理者権限の魔法にしたということしか聞かされていない。


 なのになぜあの【プロトタイプ】を使うためのシステムがエヴェリンの、ヒトで言う脳に当たるコアにあったのか。それが謎だった。そこで科学魔法に詳しく、エヴェリンを手術したらしいソフィアに調べてくれるように頼んでいたのだ。


「で、結果ですけど、どうやらエヴェリン以外にも私達家族全員持っている可能性が出てきました。全員を調べたわけじゃありませんが。それでもちゃんと解剖して確かめましたよ。間違ってはないと思います」


「そうか……。ん?解剖した?誰を?」


 エヴェリンは手術の時に確かめただろうし、その後に他の誰かの頭蓋骨を開けたのだろうか?

 え?

 誰を?


 そんなことを思っていたらこともなげにソフィアは言った。


「私以外にいないでしょう?手術ならエリーにもしましたし、既に経験済みだったので問題はありませんでした。まあ、私達は自在に物を動かせるんですから出来ないなんてことはありませんよ」


「……」


 確かに科学魔法を使えば、身体を使わずに物を動かすのは容易いことだろう。正確な動きも練習次第で可能だ。ソフィアくらいの熟練者なら、ピンセットで糸を織って布を編むくらいの細かな操作でもできてしまうに違いない。


 しかしソフィアは自分で自分を手術したと言った。しかも中枢神経の塊である(コア)があるのは人間と同じく頭蓋骨の中のはずで、なのに自分のそれを切り開いたなんて、一体どういう神経をしているのだろう?非常識に過ぎる。たぶん科学魔法で、切ったところを他人が見るように認識しながら確認したのだろうけど……。


 もはや狂気的だ。

 こんなに暑いのに寒気が止まらない。


「今度ハヤトの頭も覗いていいですか?人間はまだ確かめていないので。ふふふっ」


「絶対イヤだっ!」


「ふふっ。冗談ですよ」


 その笑みが怖い。冗談に聞こえないから本当に質が悪い。帰ったら自分の頭蓋骨を切り開かれるんじゃないかと本気で思ってしまった。ただ知識を求めるだけの、医者でもない少女にそんなことをされたくない。

やったら誰もが認めるマッドサイエンティストだ。


 いや、既に自分の頭の中を見て、妹の頭蓋骨を開いているんだからもう(マッド)科学者(サイエンティスト)か……。


「いただきます」


 ソフィアはハヤトの慌て様を楽しそうに見て、注文した品々を頬張り始めた。


 グルクン――タカサゴのこと――の唐揚げに、近海魚のバター焼き、ヤクンガイ――夜光貝――の刺身、沖縄の野菜がたっぷりの焼きうどん、さらにはグァバジュースに限定パフェ。一つ一つがそれなりに量があるからソフィア一人では食べ切れそうにない。

しかし。


「〜〜〜〜〜〜ッ!!うま……っ!」


 とても美味しそうだった。普段見せることのないソフィアの緩みきった表情を見ているとその美味しさが嫌でも分かる。自然と涎が溢れてきてしまった。ここにあるのは家では食べたこともない食材ばかりで、食欲が唆られて仕方ない。その未知の食感と味が気になって、でもソフィアが頼んだメニューに手を出すのも躊躇われて、ハヤトの中では葛藤が渦巻いていた。


「あぁ……やっぱり旅行はいいものです。うますぎます。幸せ……です」


 た、食べたい……!


「あ、食べます?」


 そんなハヤトを見てソフィアが目を細めながら訊ねてくる。


「いいのか?」


「注文しすぎましたし。でも、私も食べたいので、半分ずつですよ?」


「ありがとう」


 そしてハヤトは沖縄の料理に舌鼓を打ったのだった。たぶん妙に注文した量が多かったのはハヤトの分も最初から考えてのことだったのだろう。


「ほんと、南国の海は潮臭くなくて橋が進みますね?ふふふっ」


 しかし実はソフィアの考えはハヤトが思うようなものだけではなかった。ハヤトはその時、ソフィアの怪しい笑みに気づけていなかった。

 なにやら企んでいる――?


 本日も本小説をお読みくださりありがとうございます。


 備瀬のワルミ。沖縄本島に実際あって、パワースポットのような場所らしいですよ。実際神秘的とすら言えるような場所で一度は言ってみたいです。しかし観光客のマナーがなっていないのか、今では立入禁止で、それでも不法侵入が絶えずに金網を張り、Googleマップで検索しても閉鎖なんて文字が出てきます。道路はすぐそばにあるのに秘境そのものになっています、海岸沿いに行こうにも厳しいらしいですし、あまりにももったいないですね。


 感想、評価、質問、お待ちしております。ブックマークもぜひ!またまた〜。

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