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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
里面的世界編 第三章 礎石 〜Top of mind〜
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作戦開始

あけましておめでとうございます。今年も本小説をよろしくお願いします。

 それから新潟市のとある場所に至り、コンコルディア神奈川支部のメンバーたちは新潟支部が用意した一つの大型車の中に集まっていた。これからの作戦の最終確認のためである。

そしてもちろんエヴェリンも神奈川支部の代表としてそこに参加していた。


 因みにハヤトたちはここに来る時に乗っていた車に待機させている。神奈川支部が勝手に連れてきたわけだから、流石に新潟支部にまで迷惑を掛けるわけにはいかない。


「…神奈川支部支部長、浜崎です。今回はよろしくお願いします」


「新潟支部の支部長島崎です。こちらこそ、ご協力ありがとうございます」


 まずは互いの支部長であるエヴェリンと島崎が挨拶を交わす。新潟支部の支部長は40代くらいの男性で比較的ガッチリした体つきの背筋の良いヒトだった。それに人当たりが良さそうにも見える。先程から見ていると的確に部下に指示を出していて、それなりにリーダーシップを発揮できる人間のようだ。それに彼の部下たちもテキパキと指示通り働いて逐次報告を上げているところを見るに、島崎は組織の長として信頼も厚いに違いない。


「…それでは始めましょうか」


「はい。そうしましょう」


 そして確認されたのは今回の作戦における互いの支部の役割についてだ。今回は戦闘が予想される。しかし新潟支部はまだ戦闘員が充分に育っていないため、まだ余裕のあった神奈川支部が応援に来ているのが現状である。


 つまり必然的に前に出るのは神奈川支部となる。だが、正直な所、沖縄と北海道に並んで危ない地域である新潟の支部なんだから、もう少し研鑽を積んで戦闘力を高めてほしいと思わざるを得ない。

ないものを願っても詮無いことだが。


「では、事前に決めていたように突入隊は神奈川支部の皆さんにお願いします。恥ずかしながら我々は経験不足ですので、後方支援に徹します」


「…いえ、後方支援もとても大事な仕事です。よろしくお願いします」


「尽力します」


 実際、戦闘に置いて後方支援は絶対必要だ。というか軍隊なら、これがなければ戦線の維持も出来ない。例えるのなら食べることも水分補給も怪我の治療も許されない状況で、スポーツの大会に出るようなものだ。大会に出た者ならその無謀さがよく分かるだろう。最初は戦えても、すぐにバテて戦闘継続能力を喪失する。後方で支えてくれる、マネージャーのような存在が必要なのだ。後で支えてくれるヒトたちがいるだけでもモチベーションが維持されるという面もある。


 しかしコンコルディアのような一見テロリストにも思える組織は現場に限れば、後方支援に情報、通信と衛生が最低限あればいい。なぜなら戦闘行為自体が超短期的だからだ。だからといって後方支援を軽視することも出来ない。情報がなければ最悪連携も取れずに作戦は失敗して殲滅され、大怪我した者など治療が遅れれば助かる命も死に至ってしまう。そんなリスクを少しでも無くそうとした結果、軍隊の組織を模倣して似通ってしまったのがコンコルディアであった。


 まあ、規模が小さすぎるので、端から見るとただのテロリスト集団である。


 閑話休題。


 さて、分単位の作戦行動やら、現場の状況の再確認、突入経路、撤退順路など、細かなすり合わせを行い、いよいよ彼らは動き出すことになった。


「御武運を」


「…感謝します」


 そうして神奈川支部と新潟支部の作戦会議は解散され、彼らはそれぞれの向かうべき場所へと足を運んだのだった。自分たちの未来を信じて。




 装備の確認や、戦闘服の着替え、武器弾薬の点検など必要な準備をエヴェリンは戻ってきた車の中で行っていた。長い髪も束ねて邪魔にならないようにしてから暗視装置が装備されたゴーグルや視野を広げるヘルメットなどを装備する。首元の布で鼻と口を覆って、顔を隠した。端から見たら真っ黒だ。ただ機能美だけが追求された無機質な一式。見栄えなんて全く考慮されないそれは、しかし自分の命を守るためのものだ。着ないという選択肢はありえない。


 今の所全てに問題はないようだ。あとは、分隊全員の状況を確認をして、作戦を実行するだけ。


 因みに着替えと言っても身体の結晶を隠すためのトレンチコートやマフラーを脱いで、その上から戦闘服を身につけるだけなので周りを気にする必要はない。


「…準備はいい?」


 全ての確認が終わり、周りの部下たちに問いかければ同じく準備を終えていた彼らは頷いた。今回エヴェリンと共に行動するのはサヤと神奈川支部からいち早く現地入りしていた部下4人だ


「「異常なしです」」


「…了解。ヴィル。他はどう?」


 今度は別の車両でハヤトたちの護衛を頼んだヴィルに端末でエヴェリンは問いかける。今回彼は部隊の状況を逐次バックアップする仕事を任せていた。ヴィルはその見た目に反して後方で誰かを支えるのが得意なので、ある意味適材適所と言える。ハヤトたちにも無謀なことをしないように言ってあるから、危険なところに跳び込んでくることはないだろう。


『予定通りの地点にほとんどの班は配置済み。まだの班も直ぐに準備が完了できる。後は計画の実行をリーダーが命じるだけだな』


「…敵情は?」


『この通りだ』


 ヴィルが端末を通してデータを送信してくれる。そしてその情報をコンピュータが搭載されたコンタクトレンズの画面に映した。それによれば今まで虫型ドローンなどで収集した情報と照らし合わせても敵は普段と変わらない行動をしているらしい。先程の作戦会議の内容と相違はない。

こちらの動きはバレてないと見ていいだろう。


 しかし、一つだけ気になる。


「……」


「どうかしましたか?」


 黙り込むエヴェリンを見てサヤが不思議そうに問いかけてきたので、今思った疑問を口にした。


「…何度も強盗されたコンビニは何もしないのかな?」


「は?」


 サヤは何のことだかわからないというような顔を浮かべた。遠回しに言っているのだから当然と言えば当然だが。


「あっ、もしや――」


 しかしそこで部下の一人が最初に理解したらしくエヴェリンが言いたかったことを代弁した。


「――何度も襲撃されて対策されていないことをリーダーは疑問に思っている。そういうことですか?」


 エヴェリンもそれに頷く。


「…そう。これは少しおかしい」


 実はこれから襲撃する対象は過去何度かコンコルディアが襲撃している。それも全国の支部が連携してそれを繰り返した。CONEDs の機密を海外に出さないように妨害した相手も今回と同じ。つまり、こちらから何度も喧嘩を売っているのである。しかも彼らはコンコルディアによって少なくない被害を被っていた。


 だからそんなことが繰り返されている事実があるにも関わらず彼らが普段通り何もしない。寧ろ一切の警戒をしない。そんなことなどあり得るだろうか?


 絶対にない。


 例えばコンビニで強盗事件が多発しているとする。そんな状況でその店やそれを聞いた同じ系列の店舗が強盗対策をしないなんてことがあるだろうか?必ずと言ってもいい程何らかの対策を講じて直ぐに警察を呼べるようなシステムを構築したり、怪我人が出ないように従業員に対応の仕方を隅々にまで浸透させるに違いない。


 だから何も対策をしてこない敵のことを考えると少し不気味だ。何らかの罠がある可能性が大きいだろう。しかしそれがあまりにも安直だからといって、空城計(くうじょうけい)だと断言も出来ない。

知恵者であるエヴェリンは三国志の司馬懿(しばい)と同じような気分を味わっていた。


「…まあ、決まってしまったのは仕方ない。行こう」


 それでもここまで来て撤退はありえない。ここでやらなければこの先も後手に廻ってしまう可能性がある。主導権を握られた時点で大体は負けなのだ。有利に立ち振る舞うためには主導権を握る必要がある。


 そしてエヴェリンが部下たちを引き連れて車の外に一歩踏み出した時だった。


「リーダー」


 唐突に自分を呼ぶ声がした。声のした方に顔を向けると、そこには戦闘服を身に包み、顔だけを出したカヤがいた。作戦はもう始まるというのに、なぜこんなところにいるのだろうか?彼も分隊長なのだが、責任ある地位である彼がここに来なければならない理由でも出来たのかもしれない。悪い情報でないことを願うばかりだ。


 しかしすぐにそうでないことにエヴェリンは気づいた。なぜならカヤがすぐには口を開かなかったからだ。重要な何かだったら直ちに言葉を発するはず。


 なら、何をしに来たのだろう?


 カヤは最初何か言いたげにこちらを見ていただけだった。だから、エヴェリンも身体を彼に向けて口元のマスクを下にずらす。


「…なに?」


 しかしカヤはそれでも言葉を発さなかった。何かを言わんとしていて、しかしそれを言ってもいいのかわからないというように口を開いたり閉じたりを繰り返している。目も泳いでいて、いつも自信たっぷりの彼にしてはとても珍しい。一体、何を考えているのだろうか?


「…時間がないのだけど?」


 そう急かすと漸く彼は言葉を紡いだ。


「……失礼を承知で言わせて下さい。リーダーは、ここに残ってくれませんか?」


「…え?」


 思わずエヴェリンは目を丸くした。だって、今までそんなことを言われたことがなかったから。いつも彼はエヴェリンの命令には従ってくれて、コンコルディアのために尽力してくれた。それに今まで彼はエヴェリンの行動に口出しするなんてこともなかった。もちろん間違っていることなどは具申(ぐしん)していたが、決まってしまったことをひっくり返すようなことは一度たりとも言ったことがない。

だから、本当にどうしてそんなことをカヤが言うのか理解できなかった。


「…なにか、わたしに問題があった?」


「い、いや。そういうことじゃなくて――」


「じゃあ、わたしのこの身体をいたわって?」


 エヴェリンは右手で自身の左腕を掴んで、そう問いかける。戦闘服の上からでも結晶の角張った感触が伝わってくる。本当に自分の身体でないような錯覚さえ覚えてしまうほどに固い。確かにこんな身体では作戦に支障が出るかもしれないし、皆に迷惑を掛ける可能性だってある。


 でも、だからといって数少ない戦闘員の一人である自分が抜けられるほど、今は余裕がない。


 だからエヴェリンはカヤが何か言う前に言った。


「…わたしはまだ戦える。帰ったら治療はするから」


「……」


 カヤは何も言わない。閉口したまま心配するようにエヴェリンを見つめている。そしてそれはどこか苛立ちを含んでいた。まるで「そうじゃない」と言っているようで――。


 しかしそれを敢えてエヴェリンは無視した。気づいていないことにした。だって、彼が言おうとしていることには少し気づいていたから。


 わかってる。

 でも、しなくちゃいけないの。

 みんなのために。

 彼女に逢うために。


「…じゃあ、行こう」


 エヴェリンは踵を返して歩き出し、再び顔をマスクで隠す。


 辺りには生暖かい空気が充満し、多分に水を含んだ空気を肌に感じる。それを不愉快に思いながらエヴェリンは今日の天気がどうなるか予想していた。少々酷い雨になる、と。



            †



 そんな彼女の背を眺め、カヤは頭を垂れると大きく息を吐いた。まるで上手くいかなくて落胆するように。そして、はっきり言えない自分自身に嫌気が刺すように。


「お前も戻れ。作戦が始まるぞ」


 そう声を掛けてきたのはサヤだった。その顔を認めて、カヤは一つ気になって問いかける。


「お前は、どう思っているんだ?」


「リーダーのことか?」


「ああ、そうだ」


 その問いにしばしサヤは考え込むような仕草を見せる。だが、カヤには分かっていた。恐らくサヤは口にしないだけでカヤと同じ想いなのだ。だからこそ、カヤがエヴェリンの行動を妨げるような発言をしても何一つ文句を言わなかった。

つまり、彼女もリーダーであるエヴェリンには作戦に参加などせずに、ここに残ってもらいたかったに違いない。


 カヤはサヤが何かを言う前に自分の気持ちを吐露した。


「俺はリーダーを尊敬しているし、俺のクソみたいな人生を生きがいの持てる人生にしてくれたことも感謝している。だけど、この世界を知って、やっぱりリーダーは()()()にいるべきでないと、俺は思うんだ。お前もそう思うだろう?」


「なにが言いたい?」


「つまり、リーダーにとって、()()()は不向きだ」


 それを聞いたサヤは、しかしカヤに背を向けた。そして呟く。


「私はリーダーの命令に従うだけだ。リーダーの意志を尊重する。だが――」


 ひと呼吸置いて。


「――お前の言葉も否定はしない。私はリーダーを全力でサポートする」


「……そうか。わかった」


 そうして二人はその後特に言葉を交わすこと無く分かれ、自分たちの持ち場に向かっていった。その途中、カヤは空を見上げて独り言を漏らす。


「ほんと、この世界は憎々しい」



            †



 この日の夜。雨が降り出しそうな夜空に、一つの言葉が無線をかえして飛んでいく。唐突に。


『作戦開始』


 それを聞いた者は瞬時に覚悟を決める。未来を導く一手を打つために。

 かくして作戦は開始された――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます。今年はどんな一年になるでしょうかね?まだコロナは収束していないし、蝗害は収まる気配がしないし、国際情勢もきな臭いし。まだまだ大変な一年になりそうですね。ああ、時間がほしい……。


 さて、今日のあとがき、解説。今回はコンコルディアの作戦前の状況を書いてみました。ただ、私もミリオタではないので、戦闘に関して全くと言っていい程知りません。やはりそういうところは実戦を積んだヒトにしかわからないでしょう。ですが、それでも分かることが一つあります。どんな戦闘に於いても兵站、つまり後方支援が戦闘の結果を左右するということです。どんなに精強でも補給が無くなれば負けます。旧日本軍も補給は大事にしていましたが、それを潰されて負けましたし。やっぱり縁の下の力持ちって大事ですよね。


 そう言えばコンコルディアについて裏情報。コンコルディアは全ての県に一応支部が一つずつ存在します。まあ、広さや人口が違うので、人数や拠点の数が違いますけど。そして本部というものは存在しません。神奈川支部が一応本部の役割を担っていますが、それでもただ組織として支部の全てを纏めているだけです。あとは支部が管轄する県ごとに任せています。口出しはほとんどありません。

え?バラバラにならないかって?さあ?まだ10年も経っていない組織ですので、まだ分かりません。もしかしたら何らかの手を打っているのかもしれませんが。でも、彼らが見るこの社会情勢が団結させている可能性もあります。


 あと彼らが敵情を確認する方法は虫型の極小ドローンを使っていると考えています。今みたいに不審に思われるようなものではなく、自然に溶け込むような形状をしたドローンです。ドローンは進化すると想いますよ。皆欲深いので。でも、これを使えば身体の中にドローンを入れて診察できる日が来るかもしれませんね。分かりませんけど。

コンピュータを搭載したコンタクトレンズって、使えるのだろうか?


 空城計とはあれです。門を開け放って敵に罠だと思い込ませて撤退させたあれです。詳しくは調べてみて下さい。


 質問、感想、評価、よろしくお願いします。ブックマークもよろしくお願いします。ではまた一週間後?にお会いしましょう。またまた〜。

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