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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
生存戦略編 第四章 日常へ 〜They hope the peace〜
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簡単なのか、それとも

 そして2階に上がり、エレナの部屋の前に着いた頃には騒がしい、良く言えば楽しそうな声が響いてきていた。この家は外に対して防音措置を施してはいるが、それでも近所迷惑になりそうなほどの振動である。

ノックしても聞こえなさそうなのでハヤトはドアノブに手を掛け、そして開けた。


「何をやって――」


 部屋を覗き込んだ途端視界が真っ白になった。


「――おわっ!?」


 真っ白な肌触りの良い、ふかふかのそれが顔を覆ってハヤトは吃驚(びっくり)して後ずさってしまう。それは枕だ。ただ良い香りが鼻を擽って心地好い。同時に心臓が跳ねた。なぜならそれは隣の彼女と同じ香りだったからである。


「ああっ!ハルカ姉さんっ!何やってるのっ!?ああぁぁっ!教科書が――ッ」


 部屋の中を見たエレナが頭を抱えて絶叫した。その顔には悲愴がありありと浮かんでいる。


 それもそのはず。部屋の中がめちゃくちゃだったのだ。ベッドのシーツや掛け布団、枕は滅茶苦茶に散らされ、本棚の中身は雪崩が起きたかのように四散し、本の角が折れ曲がってしまっている。さらに筆記用具類はバラバラになっているわ、椅子はひっくり返ってるわ、タンスが倒れてるわの大惨事だった。空き巣が入ったと言っても信じてしまいそうなほどに酷い。いや、それ以上だ。


「ハルカだけじゃないよっ?本棚と筆記用具は花楓がやったしぃ」


「そういうことじゃないっ!どうすんのこれっ!?」


「さあ?」


「無責任ッ!」


 エレナとハルカが言い争っている間にハヤトは花楓に問うた。


「何やってたんだ?」


 すると花楓は何かを思い出したようにハヤトの目を真っ直ぐに見て、ぐいっと顔を近づけた。


「お兄ちゃんっ!私生きてるよね!?」


「は?」


「異世界転生とか召喚とかされてないよね!?それともこれは夢!?」


「はあ?」


 少し興奮した、期待混じりの花楓の視線に本当にハヤトは理解が全く及ばなかった。


 何言っているんだ?


 いつもの勘違いではありそうだけど、少しボケてみることにした。


「大丈夫か?ついに頭のねじがふっ飛んだか?」


「違う違うっ!私は至って正常だよ!お兄ちゃんっ!魔法だよっ!?ハルカお姉ちゃんが魔法使ってのっ!!」


「ああ、なるほど」


 そこで漸くハヤトは納得した。どうやら花楓も科学魔法を知らなかったようだ。先程まではハルカの使う魔法で遊んでいたに違いない。きっとこの惨状も科学魔法の意識の具現化によって荒れてしまったのだろう。よく窓が割れなかったものだ。


 そして花楓は初めて魔法を見て興奮していると。


「その、実はな――」


 花楓に科学魔法について説明しようとした時、それを遮って彼女がさらに興奮した様子で、しかも目をキラキラさせながら大声を上げた。


「それでね!ハルカお姉ちゃんに教えてもらったのっ!ほら、見て!」


 その時ハヤトは驚きのあまり目を見開いて声も出なかった。なぜなら花楓が魔法陣を描いたからだ。


「〈飛翔〉っ!」


 声と共に花楓の身体がふわりと浮いて滞空し始めた。まだ慣れないのかバランスを取るように手を広げてフラフラしているが、ハヤトには十分衝撃だった。


「ほらっ!凄いでしょ!?」


「おおお前っ!使えるのかっ!?それ!」


「え?うん、結構、簡単だよ?」


 頑張って花楓はバランスを取っていたらしいが、暫くして後ろに倒れた。まるで綱渡りを失敗したときのような倒れ方だった。


「がは……っ!痛ーいっ!」


「だ、大丈夫か?」


「う、うん。平気」


 それにしても本当に驚いた。花楓の言葉からするに今ここで学んだだけでそこまで使えているということだ。まだハヤトは使ったことがないのに花楓に先を越されてしまった。

先に科学魔法について知ったのがハヤトである分、なんか複雑な気分である。


「わあっ、花楓。魔法使えるの?」


 エレナがこちらに気づいてこちらにやってきた。ハルカとの言い争いは結局決着がつかずに放っておくことにしたらしい。自由奔放で少し幼稚なハルカを言いくるめることが出来るのはたぶん母とソフィアと父くらいであろう。末っ子でもないのに末っ子の我儘のような態度だから、どうしても振り舞わされるエレナにはどうしようもないことかもしれない。


 まあ、可愛げがあると思えば気にしなくても良いのかもしれないが。


 しかし次の瞬間、花楓の科学魔法に感心していたエレナはがっくりと頭を垂れて溜息を吐いた。


「はあ……」


「どうした?」


「ううん。なんか私のほうが科学魔法では先輩のはずなのにこうも簡単に使われると、なんか……複雑……」


「奇遇だな。僕もそう思うよ」


 科学魔法はなんとなく難しいものだと思っていたが、花楓がこんな簡単に使えたということは実は恐ろしい程簡単で誰にでも使える代物ではなかろうか。()しくは花楓には科学魔法の才能があるのかもしれない。異世界転生醍醐味(だいごみ)のチートは流石にないと願いたいが……。


 ただ、そう思うと劣等感で気落ちしてしまいそうで考えるのを止めた。きっと練習をすれば使い熟せるはずだ。


 きっと。

 ……たぶん。


「見て見てっ。ハルカすごい?」


 背後から声が掛って振り向いたハヤトたちは少々の混乱の後、ぽかんと口を半開きにしてしまった。見上げた顔はきっと呆けているに違いない。というのもなんとハルカが文字通り天井に立っていたからだ。


「ほら歩くことも出来るよ!」


 そう言ってハルカは天井がまるで本当に床のように駆け回った。ただ髪とか服は重力から逃れられないので物凄い違和感がある。それでもハルカがやっていることはすごいことだった。


「わあ!私もやりたい!ハルカお姉ちゃん、教えて!」


「いいよっ。えっとねぇ――」


「随分楽しそうですね。ハルカ?」


 突如響いた新たな声にハルカの肩がビクリと跳ねた。そして恐る恐るといった感じに、小説風に言うなら油が切れたブリキの人形のように顔を真っ青にしながらハルカは振り返った。

そこには天色の癖毛の髪を持つ少女、ソフィアがいた。張り付いた笑みを浮かべて。


「家の中じゃ使っちゃいけなかったよね?科学魔法をさ」


「ひっ!?あ……ぐわっ」


 ソフィアに対する恐怖で意識が逸れてしまったのだろう。ハルカが真っ逆さまに天井から落ちてしまった。しかし流石と言うべきか。脳天から床に直撃すると思われたハルカは身体を丸めて急所を逸した。しかも端からは分かり難かったが、床と激突する瞬間に身体を適切に動かして全身を均等に床に叩きつけた。力を一切入れずに衝撃を全て分散し受け流したのだ。実際受け身は一切取らなかったが、ダメージはほとんど無いようである。


 普通だったら首の骨でも折ってしまいそうな落ち方だったのに。


 そしてハルカは部屋の真ん中で大の字に寝そべることになった。そこにソフィアが歩み寄っていく。


「流石に家の中だからね。お手柔らかにやりましょうか」


「ちょ、ま、待って――!」


「〈羈束(きそく)〉」


「ギャーッ!動けないぃっ!」


 気づけばハルカは手足、胴体、首全てが青い結晶の糸で縛られていた。特に両手両足は一つに縛られており、これから丸焼きにでもされるのかと言った感じに見えたのは気のせいだろう。


「というか、ソフィアも魔法使って………………いや、なんでもない」


 ソフィアが家で科学魔法を使うなと言いつつ自分は使っているところを指摘しようとしたら、張り付いた笑みを向けられてしまった。だから恐怖でそれ以上言及できなかった。昼間のあれを見てしまうと魔法で治るからという理由で全身骨折されそうで怖い。むしろそれ以上のこともあるのではないかと思うと震えが止まらない。

それは隣りにいたエレナも同じようである。


「さあ、行きますよ。今度は何をしようかなぁ?」


 ソフィアの口調はとても楽しげだった。


「た、助けてっ!ハヤト!エレナ!花楓ーッ!!」


 ハルカは必死の形相をハヤトたちに向けて訴えるが、それも虚しくあっという間にどこかに連れて行かれた。それをハヤトとエレナは硬直して動けず、花楓は昼間のことを知らないためにキョトンとした表情で見送っていた。

つまりハルカには救いの手がまたしても伸ばされなかったのである。


 ごめん。ハルカ。

 骨は拾ってやる。


「行っちゃったね」


「そうだな。何もなければいいけど……」


「ハルカ姉さん。骨は拾ってあげるからね」


 その時、あっ!と花楓が声を上げて。


「ハルカお姉ちゃんとソフィアお姉ちゃんってそういう関係だったのっ!?」


「「??」」


 これを見て斜め上の発言をする花楓にハヤトとエレナは混乱し、呆れた口調で無意識に声を漏らしていた。


「どういう関係だよ……」


「ハルカ姉さんはめちゃくちゃ嫌がってたよ?ソフィア姉さんは知らないけど……」


 花楓がこの時どういう想像をしていたのかは割愛させてもらうとしよう。ざっくり言えば日常的に最もやりたくないことだったりする。


 数分後、涙目のハルカがリビングにいて、今度はソフィアが母に引きずられていくという光景をハヤトたちは目撃するのだった。

 因果応報――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます。


 ソフィアが使っていた〈羈束〉ですが、ちょっと難しい字ですね。これは『繋ぎ縛ること。 自由を束縛すること。 拘束』などという意味を持っています。私もネット小説で見るまではその漢字さえ見たことがありませんでした。ネット小説って知らない言葉も直ぐに調べられるので語彙力を上げるツールの一つのような気がします。


 そうそう。ハルカが落下して全身で衝撃を受け流すとか言いましたけど、確か躰道の受け身だったような?経験はしたことないのでよく知りませんが。それにしてもハルカの対応がネコ並みのような?もし怒っているソフィアという存在がなければしっかり着地も出来た気もします。まあでも空中で回転って原理を知るとよくできるなぁと関してしまうくらい凄いんですよ?

ネコの胴体が妙に長いのはどんな姿勢からでも着地するためなのかな?


 感想、評価、質問、お待ちしております。ブックマークもよろしくお願いします。誤字脱字報告もよろしければどうぞ。

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