第95話:告白
──────────────────
「おいおいおいおーいッ! 城が崩れてくぞ!?」
「うるせぇ! 見りゃ分かんだよこの馬鹿ッ! クソッ……あいつら無事じゃなかったらただじゃおかねぇ!」
「城に向かおう! ティアいけるか!?」
「は、はい……なんとか……うっ……」
魔族や魔物達に囲まれていた彼らであったが、救援に駆けつけたザワンの活躍もあり、なんとか総崩れすることなく持ち堪えていた。
加えて、インヘルムに吹き荒ぶ猛吹雪が、魔族の動きを抑制していたことも大きかった。
先程までその場にいたグングニルのおかげで、彼らだけはその影響下になく、彼女が去った後は多少回復したティアがその役割を担っていた。
「こいつら……今なら行けるぜ!」
城の崩壊が始まるとともに、魔族や魔物達の攻撃がますます緩慢なものへと変わっていく。
インヘルムの象徴であるブラッドウェル城の崩壊は、彼らの士気を下げるには十分すぎる効果を持っていた。
「ふんッ!」
ケルト王オーランドはティアを抱え、ゆっくりと崩壊していくブラッドウェル城に向けて走り出した。
「へ、陛下っ……!」
「ティアは吹雪を防ぐことだけを考えよ。なぁに、君なら軽いものだ!」
「おっさんは俺の後ろに! ザワンは殿だ! 俺は前を払う!」
「はいよ!」
彼らがいる位置は城からそう離れておらず、巨大な瓦礫が落ちるたび、それが大地を幾度も揺らす。
「ロード! 聞こえるかロード!」
オーランドは通信魔石を取り出し、ロードに連絡を試みる。
ザワンの力により、既に強大な魔力が消えたことは分かっていた。
ザワンのスキルは"魔力感知"。
普段はうるさいザワンであるが、彼は神速魔法と魔力感知を使った潜入任務を最も得意としていた。
彼が元々ティーターンにいたのも、バーンを介したニーベルグからの依頼により、とある場所に潜入していたからに他ならない。
「頼む出てくれ……!」
消えた魔力や城の崩壊から察するに、恐らく決着がついたのだと、オーランドはそう判断していた。
彼が祈りを込めて魔石を握り締めていると、その願いが通じたのか、通信魔石から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『は、はいっ!? どなたですか!?』
聞こえてきたのは女性の声。
雑音がひどくて聞き取りにくくはあったが、それは間違いなくレヴィの声であった。
「レヴィだな!? ということは───」
『陛下!? なんで……あ、いや、魔王はロード様が倒して…………でもっ! ロード様がっ……!』
「な……ロードは無事なのかっ!?」
『分かりませんっ……傷が酷くてっ……! 今……なん…………で……分から………………』
「レヴィ! おいレヴィ! クソッ! 雑音がひどくて聞き取れん……急ぐぞ!」
4人は魔族の追撃を振り切り、なんとか城へと辿り着く。
だが、崩壊が進む城を前にして手も足も出ず、中に入ろうにも既に入り口は瓦礫で埋まっていた。
「クソッ……いったいどうすりゃいい!?」
「……このザ=ワンに任せてもらおう。微かに魔力を感じる……! やってやれないことはない!」
「おまっ……!」
ザワンは言葉を待たずに走り出す。
瓦礫を避けながら外壁を登り、崩壊した壁から中へと進入した。
「み、身軽な人ですねぇ!」
「俺達は身を隠そう。ザワンならば、俺達を見つけられる筈……」
「よし、離れるぞ!」
「ロードさん……レヴィさん……どうか無事で」
崩壊しゆく城を見つめながら、ティアは祈るようにそう呟いた。
──────────────────
「こっちも塞がって……!」
レヴィはロードを背負ったまま、なんとか通れる道を探し、下へ下へと向かって進んでいた。
だが、崩壊は予想以上に早く、いたるところが瓦礫によって埋まり、身動きが取れなくなり始めていた。
「これは……さすがに……」
レヴィは崩れた壁から下を覗く。
まだ上層付近だと思われるそこからは、吹雪のせいもあり地面が全く見えなかった。
その時、大きな瓦礫が目の前を通り、外壁に何度も当たりながら下に落ちていく。
「レ……ヴィ……」
「ロード様ッ!? よかった……意識が───」
「置いていけ……」
「……え?」
「レヴィ……だけなら……逃げられる……」
「い、嫌ですッ!」
「けど……このままじゃ2人とも……」
「あなた様を失うくらいなら……私も死にます! 二度と……二度とそんなこと言わないで下さいッ!」
「はは……ごめん」
互いに魔力もなく、レヴィの体力も限界が近い。
彼女は数日間鎖に繋がれており、本来なら歩くことさえ出来ない程に衰弱している。
だが、背中から伝わるロードの弱い鼓動が、彼女の心と身体を奮い立たせ、力強く足を前へと出させていた。
「必ず2人で……帰るんです!」
「ああ……」
「今度は……私がロード様を助けますから!」
「俺の番……だったのにな……」
「そんなことっ……関係ないです!」
「そっか……そうだよな……」
「そうです! ロード様、気をしっかり持って……きゃっ!?」
その時、城が一段と激しく揺れ、レヴィはロードを背負ったまま床へと倒れ込んでしまう。
「うぅっ……」
「大丈夫か……レヴィ……」
必死に這いずり、レヴィの下へとロードは進む。
その姿に、レヴィの瞳が涙で潤んだ。
「ロード様はご自分の……心配をっ……うっうっ……」
ロードの傷口からは、いまだに血が流れ続けていた。
このままでは、脱出する前に彼の命が尽きるかもしれないと、レヴィは恐怖を感じていた。
ロードが命を懸けて救ってくれたのにもかかわらず、自分は彼を守ることが出来ない。
そんな想いが、彼女の心を締め付けていた。
「ロード様ぁ……」
レヴィはロードを必死に起こし、彼を膝に乗せて抱き締める。
途端に、ロードが死ぬかもしれないという恐怖が、彼女の心を支配し始めていた。
そんなレヴィの頭に、ロードは必死に手を伸ばす。
そしと、その頭を撫でながら、ロードは消え入りそうな声で囁いた。
「レヴィ……ごめんな……せっかく会えたのに……情けなくて……」
「嫌です……嫌ぁ……」
「レヴィ……俺……レヴィのいない間……ずっと胸が苦しくて…………会ったら言おうと……」
「ロード様……」
崩壊する城の中で2人は見つめ合う。
そして、ずっと言わなかった言葉を彼は口にした。
「レヴィ……俺は…………君が好きだ」
レヴィの目から、ポロポロと涙が溢れ出す。
ずっと聞きたかったその言葉。
離れたことで、より強く感じたその想い。
彼も同じであったのだというその喜びに、彼女の心が力を取り戻していく。
絶対に、失ってはならないと。
「うぅ……うっうっ……わ、私も……私もぉ……!」
「だから……生きてくれ……まだ……間に合う」
ロードはレヴィの頭から手を離し、穴が空いた壁を指差した。
そのロードの言葉に、レヴィは覚悟を決めて強く頷く。愛する者を守る為には、命を懸けなければならないと。
レヴィは自分の着ていた服を脱ぎ、ロードを背負った後、彼と自身を強く縛り付けた。
「レ、レヴィ……?」
「ぐすっ……外壁を伝って下に行きます。仮に落ちても下は雪……私の身体なら、上手くいけば助かるかもしれません」
「だ、だけど……俺がいたら……」
「大丈夫……ロード様は私が守ります。命を懸けてでもッ……!」
「レヴィ……ダメだ……!」
「大丈夫……死ぬつもりはありません。だってまだ、私達の旅は……始まったばかりじゃないですか」
「レヴィ……」
「まだ……終わりにはしない……絶対に!」
レヴィは呼吸を整え、飛び出すタイミングを見計らう。
もちろん上手くいかない可能性の方が高い。
だが、2人が生き残るにはそれしかなかった。
「ロード様……私も……あなたが好きです!」
決意の言葉を発し、彼女は外へと飛び出した。




