表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第3章:命を懸けなければ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/563

第96話:唇

 

「うっ……ふぅ……!」


 レヴィは数メートル下の出窓の屋根へと着地し、さらに下を覗き込んだ。

 やはり地上は全く見えず、それでも数メートル先にある飛び降りられそうな足場をなんとか見つけると、再びそこへと飛び移り、慎重に下へ下へとおりていく。

 時折降ってくる瓦礫に注意しながら、彼女は着実に大地へと向かって進んでいた。


「いけるっ……」


 服を脱いだ為に、肌は吹雪に晒され、手はかじかみ、身体は小刻みに震え始めていた。

 飛び降りる度に、強い衝撃が全身を襲うが、それを意に介さず、彼女はただただ必死に下りていく。


「上っ……!」


「はっ!?」


 レヴィが次の足場に着地したその時、上から巨大な瓦礫が落ちてくるのが見えた。

 ロードの声に反応したレヴィは、咄嗟に次の足場へと飛び移り───


「あっ!?」


 足を滑らせ、足場から落下する直前、必死に伸ばした手が外壁の装飾を掴み、彼女は何とかそれにしがみついた。


「うぅっ……あっ……!」


 レヴィが下を見ると、微かにではあるが、目指すべき地上が見えていた。

 だが、まだ飛び降りてどうにかなる高さではない。


「レヴィ……!」


 ロードは思わず自分を下ろせと言い掛けるが、それをぐっと飲み込んだ。

 彼女に対し、もうそんな言葉は掛けたくなかった。


「レヴィ……頑張れ……!」


「ロード様っ……はいっ!」


 レヴィは彼の想いに応えるべく、渾身の力を込めて身体を持ち上げる。

 命の重みを感じながら、なんとかよじ登ったその時、城の外壁に大きな亀裂が走った。


「まずいッ……」


 2人が下りる為の土台にしていた壁そのものが崩れ出し、今までにない程の激しい揺れが2人を襲う。

 崩れるのは時間の問題だと悟ったレヴィは、覚悟を決めると、右腕に渾身の力を込め、近くの壁を殴りつけた。


「ぐッ……ああッ!」」


 壁に亀裂が入り、レヴィの拳からは血が滴り落ちる。

 それに構わず、レヴィは何度も壁を殴りつけた。


「瓦礫ごと落下し、地面につく直前で横に飛びます。それ以外……ないッ!」


 そうして放たれた渾身の拳が壁を貫き、2人の足場が大きく揺れる。


「はぁッ!」


 レヴィは足場にしていた出窓の屋根にしがみつくと、壁を思いっきり蹴りつけた。

 直後、足場にしていたそれが壁ごと外れ、浮遊感とともに瓦礫が落下し始める。

 だが、そこに再び降ってきた別の瓦礫が直撃した。


「うあっ!?」


「レヴィッ……!」


 衝撃で身体が跳ね上がり、きつく結ばれた2人は同時に空中へと投げ出された。

 2人は頭から地面に向かって落ちていく。

 もはや、何かに掴まることも、瓦礫に飛び乗ることも出来ない。

 地面までは数秒。

 その時の中で、レヴィはゆっくりと振り返りロードを見る。

 そこにいたロードは、やはりいつものように優しい顔をしていた。

 その顔を見るだけでレヴィの目は赤く染まり、彼女は彼に顔を近付ける。

 ロードは必死に手を伸ばし、レヴィの顔をそっと包み込んだ。

 そうして2人は、自分達の意思で初めて、その唇を交わしたのだった。


「お邪魔しちゃったかなぁ!?」


「「えっ!?」」


「あらよっとぉっ!」


「きゃっ!?」


「うおっ!?」


 突如現れた金色の男は、空中で2人を抱えると、そのまま空を蹴って空中を走り始めた。


「空はあんまし走れないんだけどな! ま、こんくらいなら余裕余裕ぅ!」


「「あ、あなたは!?」」


「息ぴったりで妬けるねぇ! ちきしょー!」


 そのまま徐々に高度を下げ、彼らは無事に地面へと降り立った。


「しっかり掴まっておけよー! ズィードの魔力は……あっちか!」


 ザワンは2人を抱えたまま、凄まじい速さで大地を駆け抜け、城から離れた一軒の建物の中へと飛び込んだ。

 中にはティア達3人が待っており、ザワンに抱えられた2人を見て歓喜の声を上げる。


「ロード! レヴィ! よかった……! よくやったぞザワン!」


「ヒーローはいつも……ギリギリでやってくる!」


「今度ばかしはヒーローだったぜ馬鹿野郎!」


「ロードさん……レヴィさん……よかったぁ……!」


「皆様……私の為に……」


 オーランドは裸同然のレヴィにマントを掛け、その肩に手を置いて優しく微笑む。

 その後、すぐにロードの様子に気付いたオーランドは急いで彼を床へと寝かせた。


「これは酷い……すぐに治療しなければ……!」


「陛下……」


「ロード……もう喋るな……!」


「まだ……レヴィ手帳を……」


「は、はい!」


 レヴィは縛る為に使った服の中から、急いで黒い手帳を取り出した。

 ロードは震える手でレヴィが持つ手帳のページを捲り、その杖の名を呼んだ。


「ティエレン……!」


 ロードの呼び掛けに応え、手帳から現れた紫色の杖をレヴィが代わりに掴んだ。

 

「ロ、ロード様この方は……?」


「彼女は……行ったことのある場所に転移出来る。魔力を込めて……行きたい場所を思い描くだけでいい……」


「よし……みんな集まれ!」


 オーランドの号令に従い、全員が杖へと触れる。

 これまでの戦いで、全員魔力はほとんど残っていなかったが───

 

「後は……みんなに任せ……」


「ロード様……? ロード様ぁっ!」


「皆、集中しろ! ありったけの魔力を出すんだ! 行くぞ……ケルトを思い浮かべろ!」


 そうして彼らは、インヘルムから姿を消した。



 ──────────────────



 ん? ここは───


『担い手よ』


 あ、あなたは……あの時の……?


『そなたには、酷な道を歩ませてしまった。巻き込んでしまったことを許して欲しい』


 そんな……俺は……今幸せですから。


『そうか……済まない』


 いえ……。


『先程そなたに授けた力は消えてしまったが……その身に宿った力は決して消えぬ。本来なら、私はこの世界の者に手を貸してはならぬ身。だが、巻き込んでしまったそなたなら話は別……また会うこともあるだろう』


 よ、よく分かりませんが……ありがとうございます。


『礼を言わねばならぬのは私のほうだ。これは贖罪に過ぎない。これより先、より多くの困難がそなたを待ち受けているだろう。だが、そなたならきっと……私の罪を───』


 あなたの……罪?


『また…………える。そな…………勝…………』


 ま、待って! あなたはいったい……!


『…………世を……べる…………ケ………………む……』



 ──────────────────



「はっ!?」


 ……なんだかふわふわする。

 どうやら、俺はベッドに寝かされているようだ。

 とりあえず起き上がろうとするが───


「いっ!? はは……なんだか、あの時みたいだ」


 全身に激痛が走り、俺はそのまま頭を下ろした。


「あの時は……本当に死ぬつもりだったんだけどな」


 俺は世界に絶望し、もう生きていく気力がなくなってしまっていた。

 でも、今は違う。

 生きたいと……今はそう強く思う。

 死ぬつもりだった俺が、こう思えるのもクラウンさんと……レヴィのおかげだ。


「……ん?」


 身体の感覚が戻り始めた時、俺は誰かと手を繋いでいることにようやく気付いた。

 それが誰かを、俺はよく知っている。

 うん……初めて繋いだ女の子の手だ。

 この手が、俺を暗闇から救ってくれた。

 光の照らす方へと、導いてくれたんだ。

 俺はその手を握り締める。

 もう二度と……離さないように。


「う……ん……」


 右を見ると、ベッドに突っ伏すようにレヴィが寝ていた。

 左腕がないのがもどかしい。

 もしあったなら、彼女の頬を撫でることが出来たのに。

 そうして、ずっとレヴィを見つめていると、彼女の目が不意に薄っすらと開いた。

 どうやら、想いが通じたらしい。


「レヴィ……おかえり」


 彼女は目を見開き、身体をゆっくりと起こす。

 握ったままの手に、彼女の力が強くなるのを感じた。

 すると、その目が途端に潤んでいく。

 彼女は涙をいっぱいに溜めた目で、優しく微笑みながら───


「それは……私のセリフですよ……」


 そう言った彼女に、ぎゅっと抱き締められる。

 俺も彼女を強く抱き締めた。

 

「ロード様っ……!」


「レヴィ……」


 そうして、やっと……俺達は───


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ