第548話:自分を
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落ちこぼれの宮廷魔導師、元英雄を飼う~私が拾ったのは、かつて世界を救った最強の人でした~
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「お身体の……」
「うむ。妾の身体は、10歳を境に成長を止めた。それ以降、この身体に変化はない。まぁ、髪や爪は切れば伸びるし、怪我をすれば当然治りもする。ただ、どれもある一定のところでピタリと止まるんじゃ。おそらく、10歳での成長限界が決まっておるんじゃろうな。それと、お主も女だから分かるじゃろうが……まぁ、そういったものも迎えたことがない」
「あっ……そう……なんですね……」
「ふふっ……なんとも奇妙なものであろう? 故に子も成せぬ。ま、その辺りはとうの昔に諦めたがの」
「アディード様……」
「ふっ……そんな顔をするでない。で、魔法の力が弱いのも、身体がその力を使う域に達していないからであろう。確かに15歳の時に神から魔法を授かりはしたが、この身体にはそれにあたう力がなかった。魔力量の最大値は先天性のものであることが多いが、成長とともに増加することもある。だが、妾には成長がない。故に、鍛えることも出来ない。巷では、魔法の力が弱い者も"無能"と呼ばれると聞く。もし妾がニーベルグの王でなければおそらく……そう呼ばれていたことであろう」
アスナは王の話をただ黙って聞いていた。
その瞳に、うっすらと涙を溜めながら。
「アスナ、お主の焦りはよく分かる。確かにお主は、他者から見れば恵まれておるやもしれぬ。それは、ニーベルグの王である妾とこうして話が出来たり、さっきお主が言ったように、ニーベルグの傑物たちがお主たちのために時間を割いたり、衣食住の全てが担保されておったりと、何不自由なく生活することが出来ているからじゃな」
「はい……その通りです」
「だが、お主にとっての問題はそこではない。強くならねばならんのじゃ。それは無論、自分のためでもあり、ティアやカレン、シェリルといった仲間のためでもあろうが、お主の場合……一番の理由はロードじゃろう」
アスナは無言で頷く。
そう。彼女は強くならなければならない。
そうならなければ、彼女はここにいる理由を失うと強く感じていた。
「あやつがいる地点は、もはや世界の頂と言っても過言ではない。それだけの力を持っておる。故に、あやつの側にいたいのであれば────」
「強く……強くならなければっ……なりませんっ……」
アスナの頬を涙が伝う。
アディードは微笑みながら、そっとそれを指で払った。
「アスナよ。もう自分を許してやれ」
「陛下っ……」
「よいのだ。お主がロードにしたことも、それも全て世界にかけられた呪いによるもの。妾の身体と同じ……抗いようのない呪いよ」
「ですがっ……ティアのお母さんやっ……シェ、シェリルの両親は……ぐすっ……呪いを跳ね除けたんです……!」
「お主……」
そう。その事実こそが、アスナをさらに苦しめていたのだ。
ティアの母親もシェリルの両親も、そして彼女たちは知らないが、ティタノマキアのジェイドの両親も、世界にかけられた"無能"の呪いを打ち破り、我が子を最後まで愛し続けた。
つまり、そうであるならば、もしかしたら自分もそう出来たのではないかと、そう考えて"しまった"彼女はずっと苦しみ続けていたのだ。
何故自分は、そうなれなかったのかと。
「わ、私はロードがっ……ずっと……ずっと好きでした! 幼馴染で……優しくてかっこよくて……でもっ……私は彼を……彼に酷いことをっ! わ、私が呪いなんかに負けたせいで……!」
「それは逆じゃろう」
「……え?」
「妾なりに、"無能"について調べたことがあっての。当然それも、ロードと出会ってからのことじゃ。要するに、妾も呪いにかかっておったのよ。"無能"という存在のことなど何も思わず……で、調べて分かったことじゃが、共通しておることとして、周りに住む人間は、とにかく"無能"を排除しようとするようなんじゃ」
「は、排除……」
彼女は思い出す。
勇者ロイに誘われ、イストを離れる前夜のことを。
「うむ。そやつが何もしていなくとも、いるだけで不快に感じ、自身から遠ざけようとする……だが、そうなるとおかしいのう?」
「え、でも、私……は……」
「ロードから聞いておるぞ。"無能"とバレて、周りが全員自分を攻撃し始めた時も……アスナだけは違ったと」
「あっ……うっ……うぅっ……」
「アスナだけは3年間、少なくとも自分の前では……ずっと自分のことを気遣ってくれたと。アスナがいなければ死んでいたかもしれないともな。だから、最後のことは関係なく、アスナには今も感謝しておると、ロードは言っておったわ」
「うっうっ……ロードっ……!」
「お主はなアスナ……隣に住みながら、呪いとずっと戦っておったんじゃよ。そして、ロードを想い続けた。だからもう……自分を許せ」
「うっ……ううぅ……ロードっ……うっうっ……」
アディードはアスナを抱きしめる。
背中をさすり、頭を撫でながら。
「お主はもう十分に苦しんだ。だから、もういいんじゃ。自分の心に……素直になっても」
──────────────────
「落ち着いたかの?」
「は、はい……すみません……」
大声で泣いてしまった……恥ずかしい……。
でも、おかげでスッキリした。
泣いたこともそうだけど────
「陛下のおかげで……その、心が楽になりました。本当にありがとうございます」
「よい。民を導くが我が使命……特に、お主のような未来ある若者をな」
「陛下……」
「さて、これで問題は1つ片付いたの」
「あっ……」
そうだった。
ロードに対する気持ちは前向きになれたけど────
「よいかアスナ。強さとは、己の武力が全てではない。実際、妾がそうであったようにな」
「……あっ!」
そうだ。
アディード様のあだ名は────
「明日からお主に、妾の兵法を授ける」
「へ、陛下直々にですか!?」
「ふふっ……不満か?」
「と、とんでもありません! "戦神"と謳われた陛下の……この上なく光栄です。ですが、果たして私にそれが……」
「出来る。お主は頭がよく、物事を俯瞰で捉えられる。空気も読めるし、判断力もある。それにな……」
「そ、それに?」
「クセのある部下を従えられる者は、歴史上もれなく名将と呼ばれる。お主はあの3人を見事に従えておる……それだけで見込みありじゃ」
「そ、そうなんですか……?」
「うむ。なんせ、お嬢様風真面目バカに、なんちゃって不良バカ……極めつけはあのウルトラスーパーバカまでしっかり手懐けておる。あやつら座学に関しては本当に全然途轍もなくダメじゃからな!? お主1人対やつらでも釣りが来るんじゃぞ!? まったく、アレらを御せるとは……見事という他ない」
「あ、あはは……」
お嬢様風真面目バカ……シェリル。
なんちゃって不良バカ……カレン。
ウルトラスーパーバカ……ティア……。
「それとな、武力の方も色々考えてはおる。まぁ、妾に任せておけ」
「陛下……何から何までありがとうございます。私、全力で頑張ります!」
「うむ。というわけで、お主は妾の弟子という自覚を持って生活せねばならなくなった。故に……」
「ゆ、故に……?」
「二度と、夜中に、訓練をするな。さっさと寝ろ」
「……はい」
こうして、私はアディード様のおかげで、気持ちを新たにすることが出来た。
もちろん、焦る気持ちはまだあるけれど、それは暗いものじゃない。
すごく、前向きなものだ。
「……よし、寝てるね」
部屋へと戻り、私は静かにベッドへ潜り込んだ。
向かいのベッドをちらっと見ると、ティアがこちらを向いて寝息を立てている。
……かわいい寝顔だ。何故あの顔からあのいびきが。
「ふごっ……んー……ふにゃらすらか……」
……何語?
「いやっ…………オムライスでは殺せない……」
……何を?




